てっちレビュー

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「ブランカ」谷口ジロー 組織に改造され、戦闘力を高めた犬が逃げ出し、飼い主の元に帰る苦難の旅 ラストは「フランダースの犬」級の感涙物 (おすすめ名作)

「ブランカ」

「ブランカ」谷口ジロー

(この記事は2026年5月6日、全面的にリライトした)

 

バッサリと要約してしまうと、犬が飼い主の元へ帰るという、それだけの物語。

それが胸を打つのは、飼い主の元へ帰る過程に苦難の旅があり、その苦難を乗り越えて飼い主の元へ帰ろうとする犬の姿に、愛情や忠誠心を感じさせられるからだ。

 

犬のベイリーが何度死んで生まれ変わっても、もともとの飼い主を忘れず、その元へ帰ろうとする映画「僕のワンダフル・ライフ」(2017年、米国)、続編の「僕のワンダフル・ジャーニー」(2019年、米国)と、物語の骨格は共通。

 

僕のワンダフル・ライフ (字幕版)

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漫画家・谷口ジローの作品と言えば「孤独のグルメ」(原作は久住昌之)の知名度が高いのだろうけど、私が一番好きな作品は「ブランカ」だ。

 

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この作者にとって、初のオリジナル長編作品。

1984年から1986年にかけて「マガジン・ノン」に掲載され、大幅に加筆されたコミックスが1996年に出版された。

犬好きで知られる作者の持ち味が存分に発揮された傑作。

テレビアニメ「フランダースの犬」級の悲しい結末が涙を誘う。

犬の魅力である「愚直さ」が存分に描かれた作品でもある。

同じ作者の名作「犬を飼う」とともに、犬好きの者にとっては必読の作品だ。

 

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本作「ブランカ」は、ロシアに対抗意識を燃やす架空の国家、R(エール)共和国が、バイオテクノロジーを駆使して能力を高めた戦闘犬ブランカが主人公。

もともと、米国の市民の飼い犬だったところをさらわれた。

生体改造を受けたブランカは、R共和国の研究所を脱走し、故郷の米国を目指す。

軍事機密の漏洩を恐れてブランカを抹殺しようとするR共和国の追っ手をかわしながら、飼い主パトリシアの元へ向かって、走り続ける───というストーリー。

 

「ブランカ」より。凍結したベーリング海峡を走る

画業を深掘りする書籍「描くひと 谷口ジロー」によると、アラスカとシベリアの間のベーリング海峡が時々、凍って通れるようになると知り、氷の海を走る犬の姿を思い浮かべたのが、本作「ブランカ」のアイデアの発端だったという。

 

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悪の組織に生体改造された主人公が組織を逃げ出すという舞台設定は、漫画「バオー来訪者」(荒木飛呂彦)をちょっと思い起こさせる。

「バオー来訪者」は、秘密組織によって変身能力を身に付けた主人公・育朗(バオー)が組織から逃走し、最終的には組織に立ち向かうという物語。

 

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ブランカは、育朗(バオー)と違い、腕の皮膚を硬化させた刃で敵を切り裂くとか、特殊な液体を手のひらから出して敵を溶かすといった超生物的な能力はない。

驚異的なスピードやジャンプといった運動能力だけで、R共和国の追っ手の戦闘犬たちを振り切り、特殊部隊を全滅させ、深い峡谷を飛び越える。

 

「ブランカ」より。驚異的な運動能力

追っ手の戦闘犬10頭との戦いでは、噛みついてきた戦闘犬をぶら下げたまま走る姿、噛みついてきた戦闘犬を蹴り飛ばし、腹を食い破って振り切る戦いぶりが凄まじい。

 

「ブランカ」より。戦闘犬との戦い、その1

身を隠す場所がない平原で一度に10頭を相手にしては不利だと即座に悟り、谷間に逃げ込んで、1頭、また、1頭と倒していく。

相手の戦闘犬たちが自分と違って水中での戦闘訓練を受けていないと見抜くと、水中に誘い込み、窒息させたりもする。

 

「ブランカ」より。戦闘犬との戦い、その2

犬って、こんなに賢かったっけ?とか、そもそも、集団で狩りをするオオカミが先祖だよね?と思ったりもするけども・・・そこはエンターテインメント。

犬好きの作者の渾身の作品だから、許す。

 

ハンターや特殊部隊隊員ら人間との戦いでは、スピードを存分に生かして敵を翻弄し、首筋や腕、腹を食いちぎったりする。

実際に人間と犬が本気で戦ったら、どうなるんだろうと想像が膨らむ。

 

大山倍達総裁は名著「地上最強への道 大山カラテもし戦わば」で、ライオンやトラといった猛獣とどう戦うか、想像力をフル稼働して戦略を描くのだけども・・・

「もし、小さな部屋に、裸の人間と犬か猫が入って殺し合いをしたら、殺されるのはたぶん人間だろう」と、犬や猫でも手強い旨、説いている。

武器を持っていない人間なら、おそらく、そうだろう。

 

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武器を持った人間なら、互角ではないかと想像するけど、ブランカは銃器を持ち、戦闘のプロである特殊部隊員さえ、サクサクと倒していく。

戦闘犬を相手にした時ほど、苦戦していない。

このへんは、「犬最高」という作者の価値観の表れだろう。

 

本作のタイトルにもなっている主人公ブランカの名前は、博物学者アーネスト・トンプソン・シートンの著書「シートン動物記」の一編「狼王ロボ」に出てくる雌の狼の名前にちなむという。

「狼王ロボ」で、強くて賢い狼のリーダー、ロボは妻のブランカを人間に捕らえられて冷静さを失い、ワナにかかって、最終的には餓死してしまう。

本作「ブランカ」の作者は、下積み時代に「学習漫画シートン動物記 狼王ロボ」の漫画化も手がけている。

ロボに、きっと、同情を寄せたに違いない。

(作者はのちにも「シートン 旅するナチュラリスト 第1章『狼王ロボ』」を描いている。「学習漫画シートン動物記 狼王ロボ」は貴重な作品。私は、原画展で展示ケースに入った状態のものしか見たことがない)。

 

 

本作「ブランカ」は、「狼王ロボ」のロボやブランカが人間にリベンジする物語でもあるのではないかと想像する。

あまりにも、あっけなくやられてしまう人間たちを見ると、そう思う。

本作「ブランカ」に登場するイヌイットが、ブランカを見て「おれたちイヌイットが最も恐れる怨霊トルナイト」ではないかと、イヌイットの伝説を語る場面もある。

「数多くの生き物の命を奪って旅を続けてきた、われらに7年に一度、その生き物たちのシラ(精)の化身が、白い犬(トルナイト)となって襲いかかってくる」と。

 

ブランカは、優しく接する人間には、おとなしく従う犬らしい姿も見せる。

追っ手との戦いで負傷したところ、野生動物研究者のヘレンに助けられる。

ヘレンがブランカに語りかけて、なだめ、手をかざして心を結ぶ場面が面白い。

 

「ブランカ」より。ヘレンとの交流その1

「ブランカ」より。ヘレンとの交流その2

そして、獣医師でもあるヘレンの治療を受けて、傷を癒やす。

苦難の旅を続けるブランカにとって、ひとときの安らぎ。

ところが、そこへ追っ手が現れると、ブランカは戦闘犬の顔に戻る。

そして、ヘレンの元を去り、旅を続ける。

 

「ブランカ」より。戦闘犬の顔に戻る

ブランカが飼い主パトリシアだけでなく、R共和国で戦闘術を教わった訓練士ワーレンに、忠誠心を見せるのも、興味深い。

ワーレンは、手塩にかけて訓練したブランカに愛情を感じながらも立場上、特殊部隊員と一緒に追っ手となり、犬笛を吹いて、ブランカをおびき出す。

犬笛を聞いたブランカは、ワーレンとの訓練の日々を思い出し、懐かしそうに目を細め、ワーレンのいる方向へ駆けていく。

おいおい、本来の目的(パトリシアの元へ帰る)を忘れるなよ、と言いたくなるところだけども・・・このへんの馬鹿さが犬の可愛いところ。

犬好きの私は、そう思う。

 

「ブランカ」より。ワーレンとの訓練の日々を回想

ブランカは、ワーレンと再会するのだけども・・・

ワーレンの制止を聞かずに発砲した特殊部隊員に撃たれ、怒って暴れる。

それで、ワーレンの元から、去って行く。

「ワーレンは、この時、ブランカとかろうじて、つながっていた細い絆がプッツリと断ち切れる音をはっきり聞いた。ブランカはもう戻っては来ない」というナレーションが悲しい。

 

「ブランカ」より。ワーレンとの別れ

終盤、ブランカは、もう、へろへろ。

それでも「溶けかかる思考で、パトリシアを思い浮かべる」。

 

「ブランカ」より。最後はもう、へろへろ

力尽きる直前、パトリシアと再会する。

 

ナレーションとセリフを以下に抜粋する。

 

パトリシア・・・!?

ブランカは幻覚だと思った。

決して触れることのできない夢の世界だと思った。

パトリシア「ブランカーッ!」

ブランカ「ウオオンオンオン」

すべての神経細胞の通信が断ち切れる寸前、ブランカはパトリシアの懐かしい温もりを感じた。

(以上、抜粋)

 

「ブランカ」より。パトリシアとの再会その1

「ブランカ」より。パトリシアとの再会その2

これは、涙が出る。

 

本作「ブランカ」は続編をにおわせて終わる。

ブランカは逃走中、野生の狼の群れと合流していて、その群れの雌狼を身ごもらせていた。

ブランカの子どもが活躍する続編「神の犬」については、機会をあらためて書きたい。

 

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