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「零戦の真実」坂井三郎 20ミリ機関銃は役立たず

「零戦の真実」

「零戦の真実」坂井三郎

著者は第2次世界大戦で敵機を64機撃墜した旧日本海軍のエースパイロット。

 

自らの経験や戦後の取材を元に零戦の長所や短所、海軍での生活をひもとき、日本軍の思想を批評している。

 

零戦の特長は、当時としてはけた外れの長い航続力で、敵が思いもよらない遠くまで侵攻し、神出鬼没の活躍をした、と解説。運動性能もほめている。

 

防備を犠牲にしてでも、航続力や運動性能を重視した背景には、旧日本軍ならではの人命軽視に加え、資源の乏しいお国事情が透けて見える、と分析している。

 

一方で欠点も多かったという。

 

主武装の20ミリ機関銃(2門)は、威力があるものの、当たりにくく、携行弾数が少ないため、役に立たず、坂井氏は撃墜のほとんどを7.7ミリ機関銃(2門)で達成。

 

空戦の武装は「威力より、弾幕を張れることが大事だ」と言っている。

 

また、20ミリ機関銃は、弾倉が被弾したら爆発を起こす危険があるため、戦闘が始まったら、さっさと使いきるようしていたのだとか。

 

ちなみに、大戦後期に零戦のライバルとなったアメリカ海軍の戦闘機ヘルキャットの武装は、12.7ミリ機関銃(6門)。

 

戦艦大和、武蔵の46センチ砲に代表されるように、旧海軍は当たるかどうかよりも、威力を重視していたことが、零戦の20ミリ機関銃からもうかがえる。

 

(先日、鳥取市で講演した広島県呉市の大和ミュージアムの館長によると、仮に第2次世界大戦で日米の艦隊決戦が行われていたとしても、レーダーを備えた米国の戦艦に対し、日本の戦艦は、目で見る測距儀しか備えてなかったため、命中率が劣り、勝利は難しかった、と考えられるらしい)。

 

坂井氏によると、空戦で格闘戦はピンチに追い込まれた場合に取る最終手段。

ベストなのは、先に敵機を発見して、気づかれる前に攻撃すること。

そのため昼間に星が見えるくらい視力を鍛えたという。

 

坂井氏は、海軍の司令部には批判的な見方をしている。

 

一般的に名将とされる山本五十六連合艦隊司令長官に対しても、けっこう厳しい。

 

日本海軍の大艦巨砲主義に対し、山本長官は航空主兵論者として知られるが、開戦前は戦闘機無用論者で、パイロットの育成を怠ったと指摘。

 

真珠湾攻撃で特殊潜航艇による特攻をやらせたことも、坂井氏は、航空機に手柄を立てさせたくない海軍内の大艦巨砲主義を振り払えなかったと批判。

 

ミッドウェー海戦の敗戦なども引き合いに出し「世間で思われているほどの力量は持ち合わせていなかったのかもしれない」とこき下ろしている。

 

中でも坂井氏は、山本長官が敵地に突入して不時着、行方不明になってから生還したパイロットを許さず突撃、自爆を命じた事件に憤慨。

 

のちに山本長官がブーゲンビルで乗機を撃墜され、戦死したことに対し、護衛機のパイロットの未熟さに触れ、パイロット育成を怠った山本長官のそんな死に「因縁めいたものを感じる」と言っている。

 

このほか、日本と欧米の戦いに対する考え方の違いの考察も、面白い。

 

日本は剣道、柔道、相撲にみられるように、まだ相手に戦闘力が残っていても、先に一本取ったら勝ち、先に土俵を割らせるか地につかせたら勝ちといった考え方。

 

これに対して欧米は、プロレスやボクシングを例にフォールとかノックアウトして勝ちという徹底的にやる考え方。

 

日本が真珠湾攻撃で、なぜ、第2次、3次の攻撃をして徹底的に真珠湾の米軍を壊滅しなかったか、その背景にはこんな思想がみえると分析している。

 

(2015年8月14日Facebook投稿を転載)