「漢字と日本人」高島俊男
古代日本に漢字が輸入され、日本語独自の発達が止まったという話を皮切りに、漢字と日本人の深い関係をひもとく。
特に面白いのは明治維新後、漢字をめぐり、正反対のふたつの動きがあったという話だ。
ひとつは、漢字の大量使用。西洋文化を取り入れるため漢字を使って「社会」「政治」「生活」など多くの訳語が生まれた。
もうひとつは、西洋のように日本の文字を音標化して、すべて、かなか、ローマ字で書き表すことにして、漢字を廃止しようという動き。
音標文字化すれば、それまでの日本人が書き残したものを読めなくなるが、明治初めごろの日本人は、それまでの日本の一切を何の価値もないものと思っており「そんなに簡単に今の日本語を捨てていいのか」と西洋人が驚くほどだったという。
明治30年代に漢字の廃止が国の方針となったのだが、現在に至るまで実現していないのは、西洋文化の翻訳に漢字が使われたことが物語るように、もはや漢字は日本語と切り離せない存在になっていたからだというのが、何とも皮肉だ。
漢字廃止論は第2次世界大戦中や戦後にも盛り上がったという。
戦中の場合、日本は、支配するアジア諸国に日本語を広めようと考えていた。
そのために日本語を易しくしないと学んでもらえないという考え方が強くあり、それが漢字廃止論と結びついていたのだとか。
一方で「易しくしますから学んでくださいというような卑屈な態度でどうする」という反対論もあるにはあった、というのが面白い。
(2017年6月17日Facebook投稿を転載)