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「墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便」飯塚訓 墜落遺体の身元確認の大変さがわかる

「墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便」

 

「墜落遺体 御巣鷹山の日航機123便」飯塚訓

 

本書は1985年8月12日、520人が亡くなった日航機墜落事故の遺体の身元確認作業をつづっている。

 

著者は事故当時、群馬県警察官で、身元確認班長。

 

遺体の身元確認作業は8月14日から12月18日までの127日間にわたって行われ、検視数2065体(バラバラになった遺体があるため人数より多い)のうち688体518人の身元が確認された。

 

遺体の検屍、身元確認の様子がくわしく書いてある(読書メモ参照)。

 

ここにくわしくは書かないが、墜落の衝撃で、肉や骨が飛び出して皮だけになった遺体とか、前席の人の体に後席の人の体がめり込んだ遺体とか、航空機墜落事故の遺体がどんなものかも分かる。

 

繰り返し記述されているが、知らないし、想像もできないのが、死臭。

 

腐敗の進行を防ぐためドライアイスで冷凍された遺体を、再調査のためドライヤーで溶かす作業の描写で「死体からにじみ出る液体の臭いほど凄いものはない。あの臭いに慣れれば、この地上のいかなる悪臭にも耐えられるはずだ」と書いてある。

 

「どれくらい耐えられるかとなると、だいぶ個人差がある。マスクもかけずに腐乱死体のそばで鳥肉弁当を食べている人もあれば、一体の検屍にも耐えられずに嘔吐し、自宅に帰って寝こんだ人もいる。これは体質的なものだろうか」とも書いてある。

 

自分は鼻が悪く、臭いに鈍感なほうだが、どうだろうか。

 

警察官、医師ら死体と向き合う職業の人にとっては避けられないことであり、大変なことだなと思う。

 

著者が警察官生活の中で感じたこととして「色白、大柄、肥満タイプの警察官は死臭に弱い」と書いてあるのが面白い。

 

蛆虫(うじむし)も登場する。

 

自分はナメクジ、ミミズ、芋虫、毛虫の類いが苦手で、もちろん蛆虫もダメ。

 

小学年の頃、自宅近くの空き地に犬が倒れており、新聞紙がかぶせてあったので、死んどるんかいな?と思って、新聞紙をめくってみたら、そこにびっしり何百匹も。血の気が引いて声も出なかった。あの光景は目に焼きついていて今も消えない。

 

本書は、このほか、遺族の悲しみや憤りの様子、警察官や医師、看護師らの献身と苦労も描かれている。

 

※※※以下、読書メモ※※※

 

藤岡市民体育館が検屍、身元確認の場。14日から遺体搬入。200人近い警察官が作業に当たった。ほかに医師、看護師150人以上。

 

警察庁の指示。

 

①確認の方法。着衣、血液型、指紋の3点が合致すること。着衣は他人のものが巻きつくことがあり、誤りやすい。

 

②遺族が間違いないと言ってもそれだけで引き渡しはしない。気が動転し冷静さを欠いている遺族の心情を察して慎重に配意する。

 

③警察庁の承認を得て引き渡す。

 

この時点では、県警も警察庁も、ほとんどの遺体から指紋採取できる、つまり、五体そろった完全遺体が多いものと考えていた。

 

完全遺体と離断遺体に区分して受け付け。

 

完全遺体=五体がそろっている場合のほか、上下顎部などが残っている死体または死体の一部(頭部の一部分でも胴体とつながっている死体)

 

離断遺体=頭部、顔部または下顎などの一部がすべて離断している死体および死体の一部(頭部と胴体部が完全に離れている死体)

 

遺体はどれも泥と油、血液にまみれている。杉や唐松の葉、小枝なども絡みついているので、遺体の清拭が最初の作業である。

 

髪の泥を落とし顔や身体、指の一本一本まで丁寧に拭いた。

 

そっと拭いても、切断面の皮や肉片がどうしても剝げ落ちる。泥や油、血液に肉片までも混じったバケツの水を仕方なく捨てる。ほとんどが看護師の仕事だった。

 

医師は遺体の縫合もした。

 

内臓物が出ているものは押し込んで縫合。内臓物が脱出して無い遺体は綿などを詰めて縫合した。その遺体にさらしを巻くのは看護師の仕事。

 

1日目はまだ完全遺体が多い。

 

検屍は、損傷部位の長さや深さ、頭部や顔面の欠落状況、胴体、手足の離断状況、腹部臓器の流出状況などの記録。身元確認に必要な身体的特徴。

 

遺体が装着している指輪、ネックレス、ピアス、マニキュア、ペディキュアの有無までも見落とさないよう慎重を期した。

 

遺体を動かし、写真を撮りつつ検屍する。着衣は記録しながら遺体からはがし、汚れを落としてからビニール袋に入れ、遺体と同じ棺に入れる。

 

指紋と足紋のとれるものはもれなく採取した。

 

時には指の皮が腐敗のためすっぽり脱げることがある。こういう時は警察官がゴム手袋をした自分の指に脱げた指の皮をはめ、指紋を採取した。

 

血液型を判定することも重要である。

 

死体が新しいうちは心臓血などを注射器で抜き取ればいいが、腐敗が進んだ血液からは判定できない。歯牙、髪の毛、爪、頭蓋骨なども血液型を判定する資料となった。

 

歯のある遺体は歯科用レントゲン装置で撮影し、歯科医師が精密に記録した。

 

1体の検屍時間は長くて2時間、平均して1時間くらいかかった。

 

14日の検屍総数は269体で、完全遺体は111体、離断遺体は158体。身元が確認された遺体は71体だった。

 

身元確認困難な遺体の確認事例。

 

下腹部と両大腿部だけで炭化した離断遺体。

 

8月が終わりかけ、未確認遺体が残り十数体になっていたころ。下腹部と大腿部が未確認の被害者で、性別、年齢、血液型から特定可能。レントゲン撮影し、骨盤の状態から女性と判明。さらに恥骨縫合の状態から60歳前後の女性と判明。恥骨の一部で血液型検査したところ、A型と判明。下腹部と大腿部が未確認で、これらの条件に合致する被害者は1人だった。

 

腐敗の進行。

 

猛暑の山中に放置された死体は事故4日目になると急速に腐敗が進行し、とくに離断遺体の身元確認を困難にした。

 

当初の遺体は腐敗のない遺体が多かった。検屍初日の8月14日は五体がそろった完全遺体32体のうち、面接を主な確認理由としたものが25体あった。

 

しかし、3日目の16日になると完全遺体34体のうち、面接により確認できたのは17体だった。

 

真夏の炎天下の死体はメタンガス発生で体が膨らみ、2、3日のうちに正常の2倍にもなる。顔は巨人様化し、腐食するので、肉親であっても面接による確認ができない。

 

最終的に確認された遺体518体のうち、面接を主な確認理由としたものはわずか60体に過ぎなかった。それも事故5日目の17日までで、以後は面接による確認は不可能になった。

 

指紋、面接、着衣、所持品による確認が難しいとなると、頼りになるのは歯牙と骨による個人識別である。

 

歯は指紋同様、一人一人が違った形状をしている。

 

指紋と違い、終生不変ではないが、変化には方向性があり、曲がり具合も変化しない。

 

どんなに損傷状態がひどく、焼けて炭化し、人としての形状がなく、どこの部分かも分からない遺体でも、歯が一本でもついた顎が回収されれば、生前記録である歯のカルテやX線写真と比較照合できる。

 

骨による個人識別。

 

骨長、肘の発達、手の発達、骨盤と股関節の発達、膝の発達、足関節の発達、足の発達、頭蓋の形、縫合線などにより、性別、年齢、身長が推測できる。

 

とくに15、16歳くらいまでのうちは手指の関節や肩関節、肘関節などの発育段階によって男女別に1年の年齢差もなく識別できる。

 

日航機事故ではすべての子どもの遺体が確認された。

 

年齢が推定できて性別が分かれば子どもの場合、3人以内にはしぼれる。それに遺体収容地点と血液型などによって確実に確認できた。

 

検視実施総括表

 

検視数2065体。うち完全遺体492体、離断遺体1143体、分離遺体351体、移棺遺体79体。完全遺体492体のうち五体がそろっていたのは177体。離断遺体1143体のうち部位を特定しうるものは680体、部位不明の骨肉片は893体だった。

 

身元確認作業は8月14日から12月18日までの127日間にわたって行い、検視数2065体のうち、688体518人の身元を確認した。

 

主な身元確認理由

 

518人中、指紋230人、歯型78人、着衣64人、顔60人、所持品52人、身体特徴30人、血液型その他4人

 

(2017年6月27日Facebook投稿を転載)