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「もっと知りたい葛飾北斎」 水や風の表現をいろいろと工夫した足跡がうかがえる

「もっと知りたい葛飾北斎」

「もっと知りたい葛飾北斎」

 

画集で歩みをたどってみて、葛飾北斎は水や風の表現をいろいろ工夫した人だと思った。

 

晩年のシリーズ作品「富嶽三十六景」の中でも有名な「神奈川沖浪裏」は手前に波を大きく描き、遠くに小さく富士山が見える構図の妙もさることながら、波頭がカギ爪みたいな形に描かれ、白い点々の水しぶきも相まって迫力がある。

 

波の水面が濃い青色2色で、しま模様みたいに塗り分けられているのも面白いし、白い波頭が際立ち、迫力が増している。

 

波を大きく描くという構図は若い頃の作品「賀奈川沖本杢之図」にもみられる。

 

西洋画の技法を試していた頃の作品で、版画ながら特殊な方法でグラデーションを付け、西洋画のように陰影で立体感を表してあり、しま模様みたいなデザイン的な描き方はしてない。

 

波頭が丸っこくてモヤモヤした感じなのも何か迫力に欠けるし、全体的に神奈川沖浪裏のほうが良い絵で、進化している。

 

デザイン的な描き方は同じ富嶽三十六景の「東海道金谷ノ不二」にも見える。

 

川の水面が魚の刺身みたいな筋模様にデザインされ、人が渡ろうとザバザバ入っている辺りは、点々模様でザバザバ感を表している。この点々模様は水墨画の技法だとか。

 

「東海道金谷ノ不二」

シリーズ作品「諸国瀧廻り」の「和州吉野義経馬洗滝」でも、濃い青と白で滝の流れをデザイン化し、点々で水しぶきを描いている。

 

富嶽三十六景の「甲州石班澤」でも、打ち寄せ砕ける波をフラクタルな感じのギザギザに描き、水しぶきを点々と打っているが、ここでもうひとつ面白いのは画面を横切る線。漫画的な風の表現だ。

 

その一方で、同じ富嶽三十六景でも「駿州江尻」では、荷物の紙や笠、木の葉が舞う様子で、風を表現しており、いろんな表現を試していたのかと興味深い。

 

(2019年8月18日Facebook投稿を転載)