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「もっと知りたいラファエッロ」池上英洋 「キリストの変容」はミケランジェロに対抗意識を燃やして制作した傑作

「もっと知りたいラファエッロ」

「もっと知りたいラファエッロ」池上英洋

ラファエロの傑作「キリストの変容」は、上段真ん中のイエスが宙に浮く構図が、当時としては斬新で画期的だったらしい。

 

この作品、穏やかなラファエロが、ごう慢なミケランジェロに対抗意識を燃やして制作したものだという。

 

「キリストの変容」

本書によると、ミケランジェロは気難しくごう慢な人物で、ダ・ヴィンチやラファエロを嫌っていた。

 

ダ・ヴィンチは穏やかな人物で、ずっと年下のミケランジェロにも礼儀正しく接していたが、ミケランジェロは公衆の面前で、ダ・ヴィンチに対し「絵ばかり描いて、彫刻を作らない愚か者」的なことを言っていたらしい(ミケランジェロは彫刻こそ最高の芸術だという考え)。

 

ラファエロはダ・ヴィンチ、ミケランジェロの両先輩に礼儀正しく接し、2人の作品から、いろいろ吸収していた。そんなラファエロに対し、ミケランジェロは「俺の真似ばかり」と見下していたそうだ。

 

この「キリストの変容」、ラファエロは当初、「地上の真ん中にイエスが立っていて、人々が取り囲んでいる」という、ありふれた構図で、下絵を描いていたらしい。

 

ところが、ミケランジェロが弟子に素描を提供して、ラファエロと競作することになった。

 

これを知ったラファエロが構想を変え、上段に神の世界、下段に人間の世界を描き、イエスを飛翔させるという、それまでにない構図の作品ができた。

 

ラファエロは「ミケランジェロは自分が一番すごい芸術家だと思っているようだが、この作品を見たら、負けたと思うだろう」的な挑発的なコメントも珍しく発したそうだ。内心、ミケランジェロを嫌っていたことがうかがえる。

 

実際、ラファエロの作品の方が高く評価されたのだとか。

 

ラファエロの代表作に「アテナイの学堂」という大作がある。古代ギリシャのいろんな学者を描いた作品。

 

真ん中に立っている2人のうち、左が哲学者プラトンで、右が弟子のアリストテレスだが、プラトンの顔はダ・ヴィンチに似せて描いてあるという。

 

真ん中手前で、台に肘を付いて座っているのは、ごう慢で人の批判ばかりしていたとされる哲学者ヘラクレイトスで、ミケランジェロに似せて描いてあるという。

 

ラファエロがダ・ヴィンチをリスペクトし、ミケランジェロを良く思っていなかったことが、この作品からもうかがえる。

 

「アテナイの学堂」を見て、ダ・ヴィンチやミケランジェロはどう思ったのだろう。

 

ラファエロの作品で、一番いいなと思ったのは「小椅子の聖母」。優しそうなマリア様が良い。

 

聖母子像はいろんな画家が描いていて、ラファエロもいくつも手掛けているが、こっちに視線を向けている作品は珍しいらしい。

 

ちなみに、ミケランジェロの聖母子像を探して見てみたら、マリア様が筋肉質。

 

「小椅子の聖母」

ラファエロの聖母子像で「システィーナの聖母」という作品も良い。上にカーテンを描いて、見る人と絵の一体感が出るようにしてあり、絵の下には縁が描いてあって、その縁に天使が肘を付いているという、だまし絵のような仕掛けもあるのが、面白い。

 

この作品集、ラファエロがダ・ヴィンチやミケランジェロにどう影響を受けたか、解説したページも面白い。

 

(2019年9月21日Facebook投稿を転載)