てっちレビュー

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「鬼役」シリーズ。坂岡真 勧善懲悪の安心ストーリー 詰めの甘い主人公がじれったく、引き込まれる

「鬼役」第1巻

「鬼役」シリーズ。坂岡真

江戸時代の将軍の毒味役「鬼役」で、剣の達人である矢背蔵人介(やせ・くらんどのすけ)が、悪人を懲らしめるストーリー。安心して読めるし、中毒性がある。

 

父に勧められて図書館で手に取り、はまった。現在34巻まで出ているようだが、20巻まで読んだ。1冊に4話程度の短編で、読みやすいのもいい(短編で連続したストーリーを構成するパターンもある)。

 

本当に憎たらしい悪人が出てきて、蔵人介がピンチに陥ることもあるが、最後には悪人を倒すので、安心して読めて、爽快感がある。

 

蔵人介は、詰めが甘い性格で、最初は悪人を追い詰めず見逃したら、そのせいで善人が殺されてしまい、蔵人介(および読者)の怒りが燃え上がるパターンもよくある。

 

うわ、見逃すな、ちゃんと殺しとけ……あーあ、やっぱり…と、じれったく感じ、作品に引き込まれてしまう。

 

鬼役の業務の解説はもちろん、同様に鬼役だった養父に「毒味役は、毒をくろうて、死なば本望と心得よ」と教え込まれたとか、毒味後の食事を将軍のところに運ぶ配膳役が途中で転んで、落としでもしたら首が飛ぶとして「味噌臭い首を抱いて帰宅した若輩者もあった」とか、お決まりの記述が毎巻、出てくる。

 

これがいい味を出している。

 

どの巻から読んでもいいようにという配慮もあるだろうが、このお決まりの記述が、「いま、読んでいるのは紛れもなく鬼役シリーズだ」と感じさせ、一種の安心感になっている。志村けんが著書で説くように、「マンネリは宝」なのだ。

 

蔵人介は、殺めた者を追悼し供養の念を込めて、狂言の面打ち(面の彫刻)が心の慰めだというのも面白い。首を斬った罪人の成仏を願って位牌を作り、自宅にまつっている山田朝右衛門(劇画「首斬り朝」)を思い出す。

 

なぎなたの達人で厳格な養母・志乃、弓の達人で気が強い妻・幸恵など、脇役もそれぞれ味があり、蔵人介との少し笑えるやり取りがよいアクセントになっている。

 

漫画化もなされている。作画は、さいとうたかを、ではなく、橋本孤蔵。