「厳島」武内涼
戦国時代の「厳島の戦い」に至る謀略戦を描く小説。面白くて一晩で読破した。
この戦いで、毛利元就は、陶晴賢を破って大名にのし上がった。
中国地方の有力大名・大内家を事実上乗っ取った晴賢に対し、元就はまだ小領主。大軍を擁する晴賢と戦うには、大軍が身動きを取りにくい厳島で決戦を挑むしかない。いかに晴賢を厳島におびき出すか、元就が知恵を絞る。
読後の率直な感想。
元就、黒すぎる。ものすごく冷徹な策士。降参した相手を「許す」と言いながら殺してしまうなど、容赦ない。
人間不信を招くばかりか、心に傷が残るような策略を敵に仕掛けておきながら、自分の息子3人には「何があろうと仲良くしろ」と諭すのが、興味深い。
おそらく実際にこのような人物だったのだろうと想像した。
「厳島の戦い」は、元就にとって、バクチの要素もあったというのが面白い。天候と村上水軍を味方に付けられるかという。
「村上水軍抜きでやるしかないか」と腹を決めかけたところで、村上水軍が来て、元就が食べていたおにぎりを投げ捨てて喜んだというところが生々しくて、いい。
大内家の家臣・弘中隆兼が好対照の誠実な人物で、好感を抱いた。
この隆兼が主人公だと思って、読んだ。
隆兼は、元就を強く警戒するのだが、元就の策略にはまって、謀反の疑いをかけられた味方の江良房栄を殺してしまう。ここが、せつない。
房栄も、かっこいい。「わしは潔白だけど、このことは誰にも言うな。陶軍が動揺して、負けにつながるから」と言い残す。
一方で、元就は「これで心に傷を負った隆兼は、わしの策を見破る目が鈍るだろう」と分析しているところがまた冷徹だ。
隆兼が厳島の戦いの直前に家族に書いた遺言状のような手紙も、せつない。「心配するな」と何度も念を押しているところが特に。
晴賢も、その片腕の武将・伊香賀隆正も、心に深い傷を抱えているという設定も、よかった。
あと、端役のキャラクターがいい味を出している。
例えば、晴賢方から寝返って、厳島の城の守備を任された武将2人。捕まったら晴賢に殺されると分かっているから、命惜しさに頑張っていた、という記述に、頬が緩んだ。防戦に疲れて「やっぱりまた寝返ろうか」と心が揺れるあたりも、いい。
一方で、元就は「そろそろ、2人の心が折れかけている頃だ」と読み切っている。すごい。
<追記>
同じ著者の作品「謀聖 尼子経久伝」もお勧め。