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「室町ワンダーランド」清水克行 室町時代の警察は目の前に死体があっても知らん顔 相撲は土俵がなく、激闘だった

「室町ワンダーランド」

「室町ワンダーランド」清水克行

 

「畳が敷き詰められた和室」「一日3度の食事」など、現代の日本的なものは、だいたい室町時代~戦国時代にできあがったが、今とは異なるものもあるとして、現代と対比させながら、室町時代の文化を解説する。

 

日本中世史を専門とする著者が「週刊文春」連載コラムをまとめた。2023年12月までの掲載分のうち58回分を再編集している。

 

国技とされる相撲も様相が違い、江戸時代までは土俵がなかったという話が面白い。

 

言われてみればなるほどだが、「日本最古の漫画」と言われることもある「鳥獣戯画」(平安時代末期~鎌倉時代初期に描かれたらしい)には、土俵が描かれていない。

 

つまり、昔の相撲は、「押し出し」や「寄り切り」がなく、相手を倒さない限り、終わらない、かなり激しいものだったという。

 

人間同士では日本最古の相撲とされる野見宿彌と当麻蹴速の対戦で、野見宿彌が、当麻蹴速のあばら骨を蹴って折り、倒れたところ腰骨を踏んで折り、絶命させたという話を思い出した。

 

本書によると、室町時代の相撲は、村祭りの相撲のほか、「辻相撲」と呼ばれる即興の相撲大会が路上で開かれ、見物客も巻き込んで激しいけんかになることもあったという。

 

室町時代の司法警察機関には「職権主義」の発想がなかったという話も面白い。

 

現代では、何か刑事事件が起きると、頼まれなくても、警察や裁判所は捜査や裁判を進めて犯人を逮捕、処罰する。

 

ところが、室町時代までは、被害者が訴えないと司法警察機関は何もしない「当事者主義」で、目の前に不審な死体が転がっていても、独自に動くことはなかったという。

 

あと、古里・鳥取市の鳥取城跡にまつわる話があるのが、うれしい。

 

戦国時代、久松山に築かれた山城・鳥取城を攻めた羽柴(豊臣)秀吉は、隣の山に大規模な陣城を築いている。「太閤ケ平(たいこうがなる)」と呼ばれる、この陣城は遺構が残っていて、鳥取城跡は攻防の様子がうかがえる点でも貴重な史跡だ。

 

近年の研究で、この陣城は、織田信長を招くために作られたとみられている(実際には、信長が来る前に落城してしまった)。

 

本書は、このことにも触れてくれている。

 

一般的に、鳥取城跡は秀吉の兵糧攻めという悲惨な側面しか知られておらず、何だか暗いイメージを持たれているのが、残念だ。「あの織田信長が現地で攻略の指揮を執る予定があった、すごい城」というプラス面がもっと知られてほしい。