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「人狼草紙」楠桂 「私を思い出して。そして、昔のように愛して」と心の中で念じる菊丸に、完全に感情移入した

「人狼草紙」第7巻

「人狼草紙」楠桂

あらゆる妖力を持つ伝説の半人半獣の生き物、人狼。純血の人狼の血肉を、死にきれずに現世を漂う邪悪な怨霊どもが喰らうと、妖(あかやし)になるという。また、その心臓を喰らった妖は不死身となるという───

 

戦国時代を舞台に、純血の人狼の主人公・狼牙王と、それを追う妖、狼牙王を助ける男装の女剣士・菊丸の物語。全7巻の漫画。

 

面白い。はまった。

 

狼牙王は、かつて大勢の妖に喰われて妖力を失い、人間の女の胎内に宿って転生し、過去の記憶を失っていた。

 

かつて狼牙王が伴侶として選び、自らの血を分け与えて妖力を持たせ不老不死とした人間の女・お菊は、菊丸として生き、転生した狼牙王を探していた。

 

狼牙王は菊丸と一緒に、かつて自らを喰らった妖を倒して妖力や記憶を取り戻す旅に出る。

 

狼牙王を付け狙う最強の妖は、世を恨み、未練を抱いて死んだ、お市(織田信長の妹)。

 

手塚治虫の名作「どろろ」みたいな設定だ。

 

狼牙王と菊丸の関係は、高橋留美子の名作「人魚の森」を思わせる。

 

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ある意味、王道の舞台設定と言えるかもしれない。目新しさはないが、面白い。

 

そして、期待通りのハッピーエンドなので、読後感も爽やか。

 

この物語、狼牙王ではなく、菊丸が主人公だと思って読んだ。

 

「狼牙王・・・私を思い出して。そして、昔のように愛して・・・」と心の中で念じながら、狼牙王と旅を続ける菊丸に、完全に感情移入した。何とか、菊丸が狼牙王と結ばれてくれ、と願いながら読んだ。

 

結ばれた2人の姿を直接書かずに、どこかに去って行って幸せに暮らしていることを想像させるラストも、余韻があって、いい。

 

諸星大二郎の名作「マッドメン」のラストシーンを思い出した。

 

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あと、戦争に巻き込まれて殺されるなど、世を恨み、未練を抱いて死んだ女たちが怨霊となり、時に狼牙王の血肉を喰らって妖となるという設定には、著者のこだわりを感じる。

 

同じ著者の作品「鬼切丸伝」では、やはり、世を恨み、未練を残して死んだ女が「鬼」になる。女の情念は恐ろしいということだろうか。

 

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マッドメン

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