「火の鳥 未来編」手塚治虫
極小のはずの素粒子の中に、極大のはずの恒星系があり、その惑星には生物が住んでいて、その生物の細胞の素粒子の中に、また恒星系がある───
子どもの頃、実家の本棚にあった漫画家・手塚治虫の名作「火の鳥」シリーズの「未来編」に描かれる世界観に、衝撃を受けた。
未来編は、人工知能の暴走で核戦争が起き、生命が死に絶えてしまった未来の地球を描く。火の鳥の力によって不死の身となった主人公・山之辺マサトが唯一、生き延び、孤独に耐えながら、再び地球に生命をよみがえらせようとする。
作中、マサトが火の鳥に連れられ、縮んでいって、素粒子に入っていく。
「まるで、太陽みたいだ」とマサトが言うように、そこには太陽のまわりを惑星が回る恒星系があり、惑星のひとつに飛び込むと、生き物がいる。マサトは「素粒子の中に生き物がいるって? 信じられない! こいつは生きているのか!?」と驚く。その生き物の細胞に飛び込み、素粒子に迫ると、再び恒星系がある───
その後のページで火の鳥が説く。
「宇宙はひとつの粒子にすぎないのです。宇宙がいくつも集まって、ひとつの細胞のようなものをつくっています。その細胞が集まって、ひとつの生き物を・・・」。
マサトが「待ってくれ。宇宙は・・・結局、生き物の一部なのか。その生き物って、何だ?」と問うと、火の鳥が答える。「宇宙生命(コスモゾーン)なのよ」───
これは、SF漫画だから、手塚の空想だと思うけど、それにしても、すごい想像力だ、というのが当時の私の感想だった(ちなみに、「火の鳥 未来編」は1967~68年に漫画雑誌「COM」に連載された)。
もう少し成長して、原子核のまわりを電子が回っていると習った時には、(誰もが思うことだろうけど)太陽のまわりを惑星が回るのと似ていると思い、これがあの世界観につながったのだろうと納得した。
大人になって「宇宙の大規模構造」という学説を知った時にも、「火の鳥 未来編」の世界観が思い浮かんだ。
宇宙の大規模構造について、簡単に説明する。
手元に適当な資料がないので、図書館で借りてきた「別冊Newton 銀河のすべて」によると、宇宙は、とても広い視野で見ると、銀河同士が集まって、多数の泡が集まったような構造(大規模構造)をつくっている。
もう少し詳しく言うと、宇宙は、銀河によってつくられる巨大なネットワーク、いわば、巨大な〝泡〟によって、満たされている。泡の膜に当たる部分には、多くの銀河が集まっている一方、泡の内部には銀河が少ない領域がある。
ひとつの泡の大きさは、直径1億光年にもなるという。ちなみに、私たちがいる天の川銀河は直径10万光年。
言い換えると、宇宙空間には、星がまんべんなく分布しているのではなく、分布に濃淡があるということだ。
宇宙の大規模構造は、1989年に米国の天文学者が発見し、研究が進んだという。
なぜ、宇宙は大規模構造になっているのか。
この宇宙が誕生した当初、物質はほぼ均一に分布していたが、場所によって、密度にわずかな違いがあった。このため、密度の高い領域は重力で周囲の物質を引きつけて、さらに密度が高くなり、密度が低い領域は、さらに希薄になった。
やがて、密度の高い領域で、星や銀河が生まれ、大規模構造ができたという。
この大規模構造のイメージイラストを見た時に、私は、生き物のようだと感じた。それで、「火の鳥 未来編」の世界観を思い出したのだ。
私たちのいる宇宙とは別の宇宙があるという仮説「マルチバース(多元宇宙論)」があるけども、手塚が考えたように、「宇宙の中に宇宙がある」(ある宇宙の中の素粒子の中に別の宇宙がある)ということだったら、面白いと、あらためて想像する。