「道は開ける」デール・カーネギー
悩みの克服方法を説く名著。多数の体験談やインタビューを基にした実践的な内容がわかりやすく展開される。高校年代くらい頃に手に取り、何度読み返したことか。
勧めてくれたのは、小中学校時代を一緒に過ごした友人だ。この友人は物事を深く考えるタイプで、小中学生の頃は言動が慎重で消極的だった。
印象的なエピソードがある。
同じクラスだった小学5~6年のある時、この友人は教科書を家に忘れて困っていた。
体罰が当たり前の時代で、クラス担任は特に厳しい先生だった。私は、自分の教科書を貸してあげた。当然、私は教科書を持っていない状態になり、先生に見とがめられ、「忘れました」と言ったところ、しかられ、たたかれた。
私は、忘れ物が多く、宿題もせず、いたずら好きな子どもだったので、しかられるのも、体罰も慣れており、たいして気に留めていなかった。
小学校卒業が近づいた頃、この先生が「○○(私の名前)は、他人のために何かをするような人間じゃないと思っていたが、そうでもない」という趣旨のことをクラスのみんなの前で、ポツリと話されたことがある。
なぜ、そんなことを言われたのか、その時はわからなかった。クラスのみんなは余計にそうだったろう。
後で考えてみると、思い当たるのは、教科書忘れ事件くらいだ。ほかに私は、他人のためになることなど、した記憶がない。
確認はしていないが、おそらく、この友人は、私が代わりにしかられたことを気にしていて、お母さんにそのことを話し、お母さんが保護者面談か何かの時に、先生に話されたのだろう。先生は、いつか、そのことを私に伝えたいと思っておられたのだろう。
この友人は、高校くらいの頃から、明るく積極的な性格になり、スポーツ系の部活動に打ち込み、全国大会で活躍した。それがまた自信になったようだ。
物事を深く考えるという根本のところは、他人への思いやりという良い面で残っている。誠実で信頼できる友人だ。
現在は、飲食店を経営している。料理がおいしく、満席で入れないことがしばしばあるほど、繁盛している。
この友人によると、一緒に過ごした小中学校時代、私が自信に満ちた活発な人間に見えたらしく(単純で無邪気だっただけだが・・・)、憧れの存在だったという。
このことを聞いたときは、恥ずかしかった。
この友人は高校くらいの頃から、本書のほかにも自己啓発系の本を読んで、自分なりに考え、自分を変えようと努めたという。
本当に変わったし、意識して行動すれば、人間は変わるのだなと思った。
本書を手に取ってから何度、熟読したことか。今でも、たまに読み返す。
なるほどと感銘を受けた内容が多々あり、実践を心がけている。
でも、小中学校時代と比べ、私の生きざまがどれだけ変わったかと言われれば、あまり変わっていない気がする。
中学時代の同級生で、口の悪い別の友人には「お前、子どもの頃から全然、成長してないな~」と言われる。
いいのか、悪いのかは、よくわからない。
以下、本題。本書の内容について。
例えば、「第2章 悩みを解決するための魔術的公式」には、以下の教えが出てくる。
1.「起こりうる最悪の事態は何か」と自問すること
2.やむを得ない場合には、最悪の事態を受け入れる覚悟をすること
3.それから落ち着いて最悪状態を好転させるよう努力すること
これは、大いに役に立つ考え方だ。私は、仕事でミスをした時などに実践している。
本書は、実例を挙げて紹介するので、わかりやすい。
この教えは、著者が出会った実業家ウィリス・H・キャリアの体験を紹介しながら、説かれる。
キャリアは鋳物工場に勤めていた若い頃、板ガラス製造工場にガス浄化装置を取り付ける仕事を担当した。ところが、この装置は開発されたばかりの品で、予期しないトラブルが起きた。
キャリアは「まず状況を分析し、その失敗の結果、生じうる最悪の事態を予測すること」「やむを得ない場合には、その結果に従う覚悟をすること」によって、気持ちが落ち着き、「最悪の事態を少しでも好転させるように冷静に自分の時間とエネルギー集中させること」に取り組んだ。
その結果、トラブルを解消する付属装置を考案し、トラブルで会社に損害を与えるどころか、逆に、利益をもたらしたという。
応用心理学の祖ウィリアム・ジェームスの言葉「事態をあるがままに受け入れよう。起きてしまったことを受け入れることこそ、どんな不幸な結果をも克服する出発点になるからだ」、中国の思想家・林語堂の言葉「真の心の平和は、最悪の事柄をそのまま受け入れることによって得られる。心理学的に考えれば、エネルギーを解放することになるからだろう」も引用。
最悪の事柄を受け入れてしまえば、もはや失うものは、なくなる。裏を返して言えば、どう転んでも儲けものなのだ───と説く。
「第4章 悩みの分析と解消法」では、「事実の把握、事実の分析、決断─そして実行」という原則を示したうえで、心理学者ウィリアム・ジェームスの言葉「ひとたび決断を下し、あとは実行あるのみとなったら、その結果に対する責任や心配を完全に捨て去ろう」を引用。決断したら行動に移れ。思いとどまるな。ひとたび自分を疑いだしたら、また別の疑いが生じてくる───と説く。
オクラホマ州きっての石油業者ウェイト・フィリップスの言葉「問題をある限度以上に考え続けると、混乱や不安が生じやすい。それ以上の調査や思案をすれば、かえって有害となる時期があるのだ。それが決断をし、実行する時期である」も興味深い。
私が一番好きなのは「第9章 避けられない運命には従え」だ。
事態を好転させるチャンスがある限り戦うべきだ。けれども、常識で判断して、もはや、万事休すとなれば、悪あがきをしたり逆転を望んだりしないことが正気の沙汰というものだ──と説いたうえで、「マザー・グース」の次の一説を紹介している。
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すべてこの世の病には
治す手だてがあるか、なし
手だてがあるなら見つけよう
手だてがないなら忘れよう
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この言葉には感動した。
メモした紙を普段目に付くところに貼っていたこともあるほどだ(今は、していない)。
この章に出てくる、哲学者ソクラテスの逸話も印象に残った。
ソクラテスは、あらぬ罪を着せられ、死刑を宣告された。ソクラテスに好意的だった牢番は毒杯を勧めながら、こう言った。
「もはや動かしがたい事態に対して潔く従われんことを」。
ソクラテスは、その通りにしたという。
「第17章 レモンの効用」に出てくる、次の言葉も好きだ。
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刑務所の鉄格子の間から
2人の男が外を見た
1人は泥を眺め
1人は星を眺めた
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この言葉は、漫画家・荒木飛呂彦の名作「ジョジョの奇妙な冒険」にも出てくる。
「不滅の詩(うた)」という詩らしい。
逆境にあっても、心の持ちようで、マイナスをプラスに変えられるということだ。
心の持ちようを変える秘訣は、「第12章 平和と幸福をもたらす精神状態を養う七つの方法」に出てくる。
心理学者ウィリアム・ジェームスの言葉として、以下のように書いてある。
これは、実践したい。
※※※以下、抜粋して引用※※※
行動は感情に従うように思われているが、実際には行動と感情は同時に働くのである。意志の力でより直接的に支配されている行動を規制することによって、意志に支配されにくい感情をも規制することができる。
だから、快活さを失った時、他人に頼らず自発的に快活さを取り戻す秘訣は、いかにも楽しそうな様子で動き回ったり、しゃべったりしながら、既に快活さを取り戻したように振る舞うことである。
※※※以上※※※
<2025年5月22日追記>
闇生(id:Yamio)様が拙文を読んで本書を手に取ってくださいました。
そして、記事を書いておられます。
どうもありがとうございました。