「ヲかシな建物探訪記」埜々原
イラストレーター埜々原(ののはら)の「ヲかシな建物探訪記」は、架空の世界の建物や街の図解が並ぶ作品集。
歩荷(ぼっか=荷物を背負って山小屋などに運ぶ仕事)を生業とするブタが、荷物を運びながら各地を訪ね、行く先々で見た建物や街を図解付きでリポートする物語仕立てなのが秀逸だ。
いろいろ想像しながら楽しめる。
グラフィックデザイナー妹尾河童の「河童が覗いた」シリーズのような図解の面白さと、ファンタジー世界の面白さが同時に味わえる。
まず、本書の舞台となる世界の地図が示される。
「真ん中の山中に描いてある『ウェストパンケーキ』とは、もしかして、ラピュタみたいなものか」などと想像させられ、この地図を眺めるだけで、わくわくする。
次に、ブタの荷物リスト。
「背負いばしご」が興味深い。
「背負子」(しょいこ=背負いやすいように荷物をくくりつける道具)のことだと思うが、脚の部分が折りたたみの可動式で地に着かせられ「立ったまま休憩できる」という仕掛けが面白い。
背負子は、私も、測量の仕事をしていた頃、山中の現場に測量機器や木杭を運ぶのに使っていたが、休憩する時は背負子ごと、背中から降ろして体を楽にしていた。
このイラストのように巨大な背負子だと、降ろして、また背負うのも大変なので、いいアイデアかもしれない。
荷物に、コーヒーがあるのも懐かしい。
測量の仕事をしていた頃、荷を軽くするため、なるべく余分な物は持たないようにしていたが、冬山の現場の時は、休憩中に体を温めるコーヒーがありがたかった。
谷川で水をくみ、キャンプ用のコンロで湯を沸かし、コーヒーを作っていた。
腰の高さくらいまで積雪がある現場の時は、歩くだけで大変だったし、昼食の弁当は立ったまま食べていた。
雪崩にも遭遇した。ものすごい勢いで岩や木が雪と一緒に転がってきて、必死で逃げたものだ。
本書では、探訪地点ごとに、建物や街の外観が描かれ、次のページで内部構造や売っている商品、置いてある道具などが描かれる。
例えば、「ごちゃっと雑居物件」。
屋上の植物店について「屋根にこんなにも植物をてんこもりにして大丈夫なんだろうか」とブタの感想が書いてあったりする。
屋上に行く階段がどこにつながっているのかは、書いてなくて、謎のまま。これがいい。
「森はずれの崖ノ村」では、「屋根の上には雨水を浄化する作用のある特殊なコケを生やしている」というのが面白い。
この作家と本書の存在は、半年くらい前に図書館で雑誌「イラストレーション」2024年9月号の特集「部屋と建物を描く」を見て、知った。
すぐに書店に行って、雑誌と本書を購入した。
この特集で紹介されていたイラストレーター塩谷歩波の「銭湯図解」も面白そうだ(まだ、買っていないけど)。