「ヒットラーの息子」原作・小堀洋、作画・叶精作
この物語は、ラストが悲しすぎる。
犯罪組織「世界犯罪者同盟」の殺し屋で「ヒットラーの息子」との異名を持つボタンは、日本に潜入した際に記憶を失い、自分が何者か、なぜ日本に来たのか、わからなくなる。
ボタンの存在が明るみに出るとまずいと考えた組織や、敵対するイスラエルの秘密警察「モサド」に狙われる。
その過程で、ナチスドイツの残党を母体とする組織によって、アドルフ・ヒトラーのクローン人間として生み出され、凄腕で冷酷な殺し屋だったことが判明。組織を憎み、潰そうとするというストーリー。
ボタンに恨みがあり、殺そうと付け狙うモサドの美女エスターに感情移入した。
エスターは、かつてボタンに捕まり、暴行されたうえ、ドクロと鉤十字の烙印を下腹部に押されて辱められていた。
記憶を失い、人助けをするなど良い人になってしまったボタンに戸惑いながらも、やがて、共通の敵である犯罪組織を倒すため、行動を共にするようになる。
モサドのメンバーでもある弟たちと合流し、弱ったボタンを殺すチャンスが訪れるが、実はボタンを愛していたことに気づき、「私には、、、う、、、撃てない」と言って、弟たちを見殺しにして、裏切り者となる。
その直後の場面は、物語のクライマックスのひとつ。
エスターのセリフをかいつまんで引用する。
(エスターがボタンに銃を向けて言う)
「あんたを殺して、わたしも死ぬわ。故国を裏切り、弟たちに銃を向けた私に、生きる場所なんて、もう残っちゃいないんだわ」
「さようなら、ヒットラーの息子。せめて、本当の名前だけでも知りたかった」
(エスターは銃を落として泣く)
「あんたに烙印を押されてから、女であることを捨てたはずなのに、私は、私は、、、あうう」
その後、エスターはボタンに従い、愛情を素直に表していく。
ここまでは、とてもいい。
ボタンも途中までは、よかった。
ヒトラーのクローン人間を産む代理母となった「産みの母」が日本にいることがわかり、その過程で、母を同じくする妹で、組織の殺し屋の氷心と出会う。
氷心によると、母は、ヒトラーのクローン人間を産むために利用されたことを知ってから心を病んでいるといい、氷心はボタンを憎んでいた。
ボタンは氷心に殺されそうになり、やむなく氷心を殺害する。
ボタンは、心を病んだ母にとって、氷心が唯一の心の安らぐ相手だったことを知って苦しみ、母の心を開かせようと努める。
その後、母は組織に捕まり、ボタンをおびきだす囮に使われ、ボタンを守って死ぬ。
ボタンは母を葬い、誓う。
「おれは絶対に許さないッ。おれを産み出した、いや、つくり出した組織を! 記憶が戻り、〝ヒットラーの息子〟に戻る前に必ず叩き潰してやるッ!」
ここまでは、よかった。
物語の終盤、組織の全貌を知るには記憶を取り戻さないといけないと考えて、その治療を始めてから、話がおかしくなった。
最後は、記憶を取り戻し、冷酷な殺し屋「ヒットラーの息子」に戻ったボタンの前に、エスターが立つ。
「さようなら、私のボタン」と言って、涙を流すエスターを、ボタンは撃ち殺す。
この結末は、悲しすぎる。
物語の雰囲気からして、ハッピーエンドにはならないだろうと思っていたが、それにしても、これは。
構図は全く異なるが、漫画「ブランカ」(谷口ジロー)をも上回る悲しい結末だ。
インパクトのある物語になり、私の心にも深く刻まれたのは間違いないが、あまりにも悲しすぎる。