
「新谷かおる航空機グラフィティ」
漫画家・新谷かおるが描いてきた航空機の画集が「新谷かおる航空機グラフィティ」。
「エリア88」「ファントム無頼」といった作品の名場面を交えて紹介しており、作品を思い出して懐かしくなる。
新谷かおるが描く航空機は、構図の工夫やデフォルメで、実機のかっこよさを存分に引き出している。
航空機が大好きで、パイロットになりたかったという作者ならでは、だ。
例えば、「エリア88」の主人公・風間真の最初の愛機として登場する、F-8クルセイダー。
連載開始当時(1979年)は、F-15イーグルやF-14トムキャットが最新鋭機のところ、あえて、一世代前の戦闘機を主人公の乗機に選んだ点が渋い。

「エリア88」は、親友にだまされ、中東のアスラン(架空の国)の傭兵部隊の空軍基地エリア88に送り込まれた風間真が復讐を誓って生き抜くストーリー。
物語では、傭兵は、敵機を倒して稼いだ賞金で、基地に出入りする武器商人マッコイじいさんから機体や武器を買うという設定になっている。
だから、入手しやすい一世代前の戦闘機なのだと考えれば、リアルだと感じた。
それまで、F-8をかっこいいとは思っていなかったが、この漫画を見て、ほれた。
「ノーズコーンの下に空気取り入れ口がある」「着陸時に主翼の取り付け角度が変わる構造になっている」といった、この機体の特徴を生かし、かっこよく見える姿で描いてある。

F-8のプラモデルを買って組み立て、角度を変えたりしながら、何度眺めてみても「エリア88」で描かれた姿のようには、かっこよく見えない。
これは、漫画家の力だと思った。
F-8と同様にベトナム戦争で活躍したF-105サンダーチーフもそうだ。
この戦闘機は、癖のある変な造形で、かっこいいとは思えない。上から見た平面形は、特に不格好だ。
ところが、新谷かおるが描くと、かっこいいのだ。
「エリア88」で、悪人かと思わせて、実は良い人という偽悪的な登場人物グエン・ヴァン・チョムの乗機として登場。
グエンのキャラクターともマッチしていて、F-105が好きになった。

もともと、実機がかっこいい機体は、さらにかっこよく描かれる。
華奢な軽戦闘機のF-5EタイガーⅡは、腰のくびれなど実機の流麗なラインを生かしつつ、力強さが出る後ろ姿で描いたカットがいい(「ファントム無頼」に登場)。

「エリア88」で物語終盤、風間真の愛機になったX-29は、主翼の翼端が後方ではなく前方に伸びる「前進翼機」の実験機。
これも、華奢な機体なので、後ろ姿で描いたカットがいい。独特な主翼もよくわかる。

あと、軍用機マニアしか気にならないことだと思うが、、、
新谷かおる作品では、軍用機が各種バリエーションのうち何型を描いているのか、ふに落ちない時がある。
例えば、「エリア88」で、敵役としてよく登場するMiG-21フィッシュベッド。
実機のバリエーションが多いので、細部の矛盾が気になってしまう。
具体的に言うと、「エリア88」で描かれるMiG-21は、キャノピー(風防)の形状から、MiG-21PFM以降でなく、ひとつ古い型のMiG-21PF以前ではないかと思われる。
全体的に見て、MiG-21PFに近い姿だ。
垂直尾翼の形を見ても、MiG-21PFMではなさそう(コマによっては、MiG-21PFMみたいな垂直尾翼に描かれていることもある)。
ところが、垂直尾翼の後ろにパラシュートブレーキを収める突き出しが描いてある。実機でこれがあるのは、MiG-21PFM以降だ。
一方で、コクピット後方の背中回りのほっそりしたラインは、もっと古い初期型のMiG-21F-13に近い。

本書の作者インタビューを読んで、型の描き分けは、あえて無視しているとわかり、なるほど、そうかと納得した。
「私が描いた飛行機は、特定の型を描いているわけではありません。時には、いくつかの型をミックスしたりしています。『同じ飛行機なのに、ページによって型が違う』といわれてしまいそうですが、どのコマ、どのページにも、その飛行機の一番格好の良いところを描きたかっただけなのです。漫画だから、好き勝手な世界を描いているのです」
、、、ということだそうだ。
正確さよりも、かっこよく見えるかどうかを重視しているというのは、漫画家らしい判断で、興味深い。
新谷かおるの画業を概観する画集「新谷かおるARTWORKS」も、ファン必携。
航空機漫画に限らず、幅広く作品を紹介している。
これは、またの機会に紹介したい。

