「ドイツ空軍計画機」パイロンズオフィス編
本書「ドイツ空軍計画機」を読むと、第2次世界大戦中のドイツの先進的な計画機が戦後、各国の軍用機開発に影響を与えたことがよくわかる。
大戦末期に敗色が濃くなって追い詰められた状況でも、先進的な軍用機を開発しようとしていたことが、すごい。
日本の場合は、神風特攻隊とか、発想がいかにも末期的だったのに。
シュトロハイム(漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の登場人物)が言う「ナチスの科学力は世界一ィィィ」(byシュトロハイム)という心意気の表れか。
例えば、ハインケル社のVTOL実験機(垂直離着陸機)ヴェスペ。
1967年に初飛行した世界初の実用VTOL機で、英国製のハリアーGR.1は、ノズルの向きが変えられるジェットエンジンにより、垂直離着陸を実現した。
これに対し、ヴェスペは、ロケットのように機体後部を地面に付けて立った状態から、離陸するという発想。
操縦士は、飛行状態では腹ばいに寝転ぶ体勢で乗り込んだ。
実用化には至らなかったという。
1950年代のフランスのVTOL実験機、C450コレオプテールは、ヴェスペがプロペラ機なのに対し、ジェット機という違いはあったものの、垂直離着陸へのアプローチは、同じ発想。
実用性が乏しかったヴェスペと同じアプローチを、戦後にフランスも試みたという点が興味深い。
コレオプテールはプラモデルのキットがあり、私は持っていた。
非常に個性的な姿で、面白かった。
ヤフオクで売ったけども、取っておいてもよかったかもしれない。
ドイツの計画機の発想が生かされ、戦後に実用化に至った例もある。
例えば、フォッケウルフ社が開発中だったジェット戦闘機Ta183。
これをベースに戦後、旧ソ連でMiG-15が開発されたという。
たしかに、よく似ている。
Ta183は、実用化が見込めたと思われるが、その前に終戦を迎えた。
メッサーシュミット社が計画していたジェット戦闘機MeP.1111は、胴体と主翼がなだらかにつながる「ブレンデッド・ウイング・ボディ」という構造上の工夫が目を引く。
戦後、米国で開発されたF-4Dスカイレイなどの無尾翼機に似ているという。
たしかに、雰囲気は、そうだ。
ブレンデッド・ウイング・ボディは、米国のF-16ファイティング・ファルコンなどにも採用されている。
フォッケアハゲリス社のFa269は、ヴェスペとは異なるアプローチのVTOL実験機。
左右の主翼に取り付けたローターポッドが向きを変えられるという仕組みで、のちに米国で開発されたV-22オスプレイと同じ発想だ。
アラド社が計画したジェット戦闘機Ar1は、のちに米国で開発されたカットラスの参考にされたという。
奇怪なデザインの機体もある。
ブロム・ウント・フォス社が試作した偵察機Bv141は左右非対称のデザイン。
「単発で、視界の良い偵察機」というドイツ航空省の要求に応じて開発された。
操縦席の前にエンジンやプロペラがないので、視界が良い。
ただ、比較審査の結果、要求に従っていない双発で、フォッケウルフ社のFw189が採用された。
Bv141はプラモデルのキットがあり、私も持っていた。奇怪なデザインは見ていて楽しかったけど、ヤフオクで売った。
ホルテン社が開発中だったジェット戦闘機HoXIIIB、メッサーシュミット社が計画したジェット戦闘機MeP.1106も、奇怪なデザインだ。
このほか、悲劇のジェット戦闘機He280の解説記事が面白い。
ハインケル社が開発し、1941年に初飛行した世界初のジェット戦闘機。
ただ、ドイツ空軍に採用されず、実用化に至らなかった。
メッサーシュミット社が遅れて開発したMe262のほうが優れているとして採用され、1944年3月から配備開始。
Me262は世界初の実用ジェット戦闘機として歴史に名を残した。
本書によると、先行して開発されたHe280は後発のMe262より劣るかもしれないが、もし、採用されていれば、1942年末には実戦に投入でき、戦況に影響を及ぼしたはずだという。
ヒトラーがハインケル社を嫌っていたことは、よく知られた話。
本書は、それがHe280不採用の最大の要因だと思われる、と指摘している。
どこの世界にも、えこひいきは、よくあることだが、国の死活がかかっている局面でも、えこひいきとは。