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「ティラノサウルスはすごい」小林快次監修、土屋健著 「ジュラシック・パーク」や「のび太の恐竜」での描かれ方と最新の研究成果との対比が面白い

「ティラノサウルスはすごい」

「ティラノサウルスはすごい」小林快次監修、土屋健著

恐竜の代表格とも言える人気者ティラノサウルス。

活動した時代は白亜紀末期のごく一時期、今から7210万~6600万年前。

生息域も北米大陸の西側、「ララミディア」と呼ばれる現在のロッキー山脈周辺に限られた。当時、北米大陸は海によって西のララミディアと東のアパラチアに分かれていたという。

 

このララミディアで生態系の頂点に立っていたとみられ、体長12メートルの巨体に、大きくて力強いあごを持つ頭部。

極太でバナナくらいの長さがある歯には、ステーキナイフのようにギザギザが付いていた。

長さ1メートルほどと体格に比べて小さな前脚(腕)は、狩りには役立たなかっただろうが、噛みついて獲物を押さえつけられるくらい、あごの力が強かった。

そして、獲物を骨ごと噛み砕いて食べていたとみられるという。

 

頭部の横幅が広くて両目は正面を向いており、つまり、人間のように、立体視ができた。

嗅覚が鋭く、遠方にいたり、物陰に隠れていたり、暗闇にいたりする獲物をニオイで察知できたと考えられるという。

 

まさに、肉食恐竜の究極の進化形だと感じさせる。

 

海の肉食動物の極致と言えるサメの姿とダブった。

泳ぎ回るために進化した魚の極致、マグロやカツオも思い出した。これは以前、「カツオ・マグロのひみつ」(阿部宏喜)を読んで知った。

この本は面白い。またの機会に紹介したい。

 

 

さて、本書「ティラノサウルスはすごい」は、恐竜研究者の監修のもと、サイエンスライターがティラノサウルスの能力や生態を解説する。

 

 

本書によると、恐竜は、まわりの環境によって体温が変わる「外温性」の動物と、体内の代謝で体温を一定程度に保てる「内温性」の動物の中間的な「中温性」の動物。

外温性のワニ類などより素早く動けて、内温性の哺乳類ほど食料を必要とせず、だからこそ、恐竜は、あの時代の覇者になり得たのだという。

恐竜の代謝機能は、現生の内温性動物には及ばず、現生の動物で言うと、サメやマグロに近い。

このうち、ティラノサウルスは、オサガメと同等だったという。

 

「オサガメと同等」と言われても、よく分からない。

ウィキペディアで調べてみると、ウミガメの一種オサガメは、速く泳げて、深く潜れて、寒さに強く、体温を一定に保てるという。

それでも、まだよくわからないが、何となく、活動的なのだなということはわかった。

 

ja.wikipedia.org

 

映画「ジュラシック・パーク」(1993年、米国)や漫画「大長編ドラえもん のび太の恐竜」(藤子・F・不二雄)も引き合いに出す。

それらの作品でティラノサウルスがどう描かれたか、その後の研究成果と比べているのが面白い。

 

 

「ジュラシック・パーク」では、ティラノサウルスは、音や明かり、動くものには敏感に反応するが、人間が目の前にいても、動かなければ、気づかない。

視覚と嗅覚は弱いように描かれている。

 


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その後の研究で、CTスキャンを使ってティラノサウルスの頭骨の内部を調べ、脳のうち、嗅覚を司る「嗅球」の大きさを推定したところ、体の割に大きな嗅球を持っていたとみられることがわかった。

つまり、嗅覚が優れていたということ。

 

本書の監修者は「遠方の獲物、物陰に隠れた獲物、暗闇にいる獲物を臭いによって見つけて狩ることができた」と指摘している。

 

「ジュラシック・パーク」は、琥珀の中に残った蚊が吸っていた血液から、遺伝子工学で、恐竜のクローンを作ったという設定だった。

 


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これに対し、DNAがどれくらいの期間、保存されるのか(壊れずに保たれるのか)、絶滅した鳥類モアの骨を使って調べた研究の結果、DNAは521年で半分に減る。

恐竜が生きていた時代を考えると、そのDNAが残っている可能性は限りなくゼロに近い。

マイナス5度の環境なら、DNAの保存期間は飛躍的に伸びるが、白亜紀から現在まで残る氷はない。

 

ちなみに、恐竜がいた時代は、地球が温暖で、極にも氷がなく、海が広かった。

「地球大進化 2 全球凍結」(NHK地球大進化プロジェクト)によると、地球の歴史を振り返ると、地表に氷があった時代は限られる。

現代は地表に氷がある「氷河期」で、地球の歴史から考えれば、異例の状態。

 

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じゃあ、「ジュラシック・パーク」の世界は絵空事で、実現しないのか・・・とガッカリしそうになる。

著者は「限りなくゼロに近くても、ゼロではない。極めて、わずかなDNAから、いかに絶滅動物を復活させるか、今後の技術革新に期待したい」と説く。

夢を壊さない気配りがうれしい。

 

このほかにも興味深い解説がいろいろとある。

 

例えば、短い前脚の活用方法として、座った姿勢から、前屈みになって地面に前脚をつき、その反動で上体を起こして立ち上がったという説とか。

 

「ティラノサウルスはすごい」より。座った姿勢からの立ち上がり方

例えば、トリケラトプスは、首の肉が美味しいらしく、ティラノサウルスは、トリケラトプスのフリルに噛みついて、グイッと、引き上げるようにして、頭を胴体から引きちぎり、その後、首の肉を食べたとか。

 

「ティラノサウルスはすごい」より。トリケラトプスをどう食べたか

 

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