世界の傑作機「MiG-21フィッシュベッド」
武骨な姿を初めて見た時には、格好悪いと思った。
機首に空気取り入れ口を置き、魚が口を開けたようにも見える不気味なスタイルは、MiG-15以来の旧ソ連のジェット戦闘機の伝統だ。
同世代に属し、ベトナム戦争でまみえた米国の主力戦闘機F-4ファントムとは全く似ていない。
あえて言えば、英国のBACライトニングが似ているだろうか。これも、双発のエンジンを上下に並べて配置という変わったスタイルだ。
機体全体が銀色に塗装され、赤い星(旧ソ連、ロシアの国籍マーク)を描いただけの素っ気ないマーキングは、軍用機にピンナップガールを描いたりする米国や西欧と違って、遊び心ゼロ感がにじみ、いかにも共産圏らしさを醸し出した。
そして、キャノピーが前に開くという変わった構造(たいていの軍用機は後ろに開くか、横に開く)。これも、異文化を感じさせた。
アニメ「伝説巨神イデオン」で異星人バッフ・クランの重機動メカを見た時の地球人の気持ちと言えば、いいだろうか。
とにかく、悪役感に満ちていた。
実際、航空アクション漫画の名作「エリア88」では、敵方のプロジェクト4の主力戦闘機として登場し、やられ役だった。
ところが、見れば見るほど、味わいが出てくる。
いつしか、この武骨な姿を、かっこいいと思うようになった。
本書「MiG-21フィッシュベッド」は文林堂「世界の傑作機」シリーズのひとつ。
旧ソ連をはじめ、中国、インド、東欧諸国、アラブ諸国などで使われ、ジェット戦闘機としては異例の生産数1万3千機超というベストセラー機の魅力を紹介する。
本書によると、ジェット戦闘機で生産数が最も多いのは、旧ソ連のMiG-15で、1万5千機超。1万機を超すのはMiG-15とMiG-21しかない。
これに次ぐ5千機超が、米国のF-84、F-86、F-4、旧ソ連のMiG-17、MiG-19、MiG-23なのだとか。
多くの国々で使われたほか、多数の改良型があり、カラーイラストでの紹介は、眺めているだけで、楽しい。
初期生産型のMiG-21Fから最終生産型MiG-21bisに至る各型の変遷は、外形的な変化だけをざっくりと言うと、まず、機首が太くなり、コーンが大きくなった。
次に、だんだんと、垂直尾翼が大きくなり、背中の盛り上がりが大きくなっていった。この途中でキャノピーが横開きに変更された。
MiG-21をベースに各種の試験機も作られた。
例えば、Ye-8(E-8)は、大型レーダーを搭載できるようにするため、空気取り入れ口を胴体下に移して、機首のレーダーコーンを大きくした。
さらに、機首の両横には、カナード翼を取り付け、運動性を高めた。
初飛行は、1962年で、その年のうちに開発は打ち切られた。
ところが、88年に情報が漏れると、「新型機MiG-35で、インド空軍が評価テスト中」と誤って報じられ、西側を騒がせたという。
例えば、MiG-21PD(E-7PD)は、短距離離着陸実験機。斜め後方に噴き出すリフトエンジンを搭載した。
MiG-21iアナロークは、S形曲線の「オージー翼」の試験機だった。
これら試験機を含め、プラモデルが国内外の模型メーカーから多数出ている。
日本のメーカーで、航空機モデルを得意とするハセガワは、旧ソ連機にはあまり力を入れていない。MiG-21は、初期型MiG-21F-13だけで、しかも、現在と比べれば品質が劣る昔の製品しかない。
MiG-21F-13は、レベル(ドイツ)の製品が新しいので、こちらがおすすめだ。
ハセガワの隙を突いてか、日本のフジミ模型は、MiG-21シリーズの主要な型をいくつか製品化している。
面白いのが「MiG-21MF ピンナップミグ」。機首にピンナップガールを描いた旧チェコスロバキア空軍の機体を製品化した。
旧チェコスロバキア(および、分離後のチェコ)は、このMiG-21に限らず、東欧でありながら、米国や西欧のように、派手な記念塗装機もある。
さすが、アルフォンス・ミュシャを生んだ国だ(関係ないか?)。
愛国者のミュシャがデザインしたら、すごい記念塗装機ができただろう。
旧東ドイツで使われた機体を塗り替えた統一ドイツの「MiG-21PFM」もいい。エデュアルド(チェコ)が製品化している。
軍用機プラモデルは今、東欧や中国のメーカーに勢いがある。
日本や米国、西欧のメーカーが手を出さないようなマニアックな機体も製品化し、愛好家には、うれしいところ。
特に、Aモデル、アートモデル、モデルズビットなどウクライナのメーカーは、この記事のAmazon商品紹介でも見ての通り、旧ソ連のマニアックな機体をどんどん製品化して、愛好家を喜ばせている。
ロシアによる侵攻が長引き、愛好家としては影響が気になるところだ。
輸入品や限定品など珍しい軍用機プラモデルを買う場合、Amazonに出品している業者は、ぼったくり価格を付けていることが多いので、要注意。
安く手に入れようと思ったら、時間はかかるが、ヤフオクで探すほうがいい。リサイクル業者が複数個をまとめて1円~で出品し、掘り出し物が混じっていることがある。