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「暴力大将」どおくまん 主人公・力道が新婚旅行先で、忘れられない初恋の相手・麗子と再会 漢(おとこ)漫画ながら、裏テーマの恋愛模様が興味深い

「暴力大将」

「暴力大将」どおくまん

主人公・力道剛が新婚旅行先で、行方不明だった初恋の女性・清水麗子と再会。力道は麗子に未練があり、麗子も力道に惹かれていた。力道と麗子はどうするか───

 

漫画家・どおくまんの長編「暴力大将」は終盤、こんな状況が描かれ、興味深い。

 

物語は、漢(おとこ)たちの生き様がメインテーマ。

戦中の大阪を舞台に始まり、ガキ大将の力道が、矯正院(現在の少年院)に送られ、さらには兵士として戦場に送られながら、漢の絆で結ばれた仲間と一緒に頑張って生還し、戦後の動乱を生き抜いて大財閥の後継者にのし上がるまでを描く。

 

 

もちろん、この本筋部分は面白い。しかし、恋愛模様も見逃せない。

 

恋愛模様に関わるストーリーを簡単に説明すると、、、

大阪のある村に引っ越してきた力道は、腕っ節の強さで子分を増やす一方、没落貴族の娘・麗子に一目惚れする。

有力な実業家の息子で、敵役の日下部四郎は、力道を無力化するため、麗子を脅して「問題を起こさず真面目に過ごし、私を嫁にもらってください」的な手紙を書かせる。

手紙を信じた力道は一時、無抵抗になるが、手紙が策略だと知り、四郎らの悪辣ぶりに怒りを爆発させて大暴れし、矯正院送りになる。

 

麗子は、力道の猛アタックに困惑していたが、だんだん、好意が芽生えたようだ。

 

「暴力大将」より。場面その1

「暴力大将」より。場面その2

脅されて書いた手紙で、力道が苦境に陥ったため、悩む。

手紙の件を力道に謝り、力道が矯正院に送られる時には、見送りに行く。

この時点の麗子の心境は「わたしのために、ごめんなさい」くらいだと思う。

 

「暴力大将」より。場面その3

「暴力大将」より。場面その4

力道は、矯正院生活を経て戦地に送られる際、軍の作戦のため、乗っていた輸送船が攻撃されて沈没して死んだことにされる。

麗子は、力道の通夜で涙を流していた。

戦後、実業家として成長する力道がピンチに陥った際も、麗子は、それを報じる新聞を見て、力道を案じる様子が描かれていた。

この時点で、麗子にとって、力道は「気になる人」という感じだと思う。

 

ところが、物語終盤の再会時点では、麗子の気持ちは「ほぼ惚れている」レベルにまで高まっている。

そうでないと、行動の説明が付かない。

 

なぜ、麗子の気持ちがそこまで高まったのかは、よくわからない。

麗子は戦中の爆撃で屋敷を失い、戦後、芸者として身を立て、四郎に「愛人になれ」と迫られ、拒み続けていた。

力強く生き抜く力道を、苦境から自分を救い出してくれる頼もしい存在とみて、惹かれていったのだろうか。

 

力道は、戦後の人生を支えてくれた天神奈美と結婚。

新婚旅行で旅館に着くと、出迎えた女将が麗子だった。

この場面の表情を見る限り、麗子の気持ちは「気になる人」レベルではない。

 

「暴力大将」より。場面その5

旅館の風呂につかりながら、力道は思い悩む。

「麗子はん、生きていたんか。ほんまによかった。けど、今ごろになって、わしの目の前に現れてくるなんて、殺生やないか」と。

力道の気持ちは揺れていた。

 

「暴力大将」より。場面その6

その後、客室を訪ねた麗子は、旧知の間柄ではなく、初対面の女将として振る舞う。

この姿を見た力道は、麗子への思いを断ち切る。

そして、奈美に告げる。

「わしには、昔、命をかけて惚れた女があった。だが、その女は今度の戦争で行方不明になってしまったんや。わしはむろん、必死で彼女を探した。だが、彼女の行方はわからなかった」と。

「そして、10年。正直に言うと、おれは今日まで彼女のことを忘れられないでいた。だが、今夜限り、いや、たった今から、きっぱりと忘れると約束する。奈美、お前と新しい生活を築くために」と。

 

「暴力大将」より。場面その7

「暴力大将」より。場面その8

漢らしい、誠実な態度だ。

客室の外の廊下にいる麗子に聞かせるつもりもあったと思う。

自らに言い聞かせるつもりもあったと思う。

 

奈美は、細かいことを詮索せず「わかりましたわ。あなた」と受け止める。いい奥様だ。

 

廊下で立ち聞きしていた麗子は、泣き崩れる。

麗子は、力道の気持ちの揺らぎを見抜き、自分を忘れさせるために、身を引いたのだ。

素晴らしい思いやり。

だが、読後感はほろ苦い。

麗子がかわいそうすぎる。

その後の人生がとても気になる。

 

ライバルの四郎の最期もいい。

四郎は、生還して力を付けた力道の復讐におびえ、ふぬけ男になる。

しかし、米国滞在中、マフィアの親分になっていた叔父と出会って鍛えられ、したたかでたくましい実業家に生まれ変わる。

そして、実業家として、力道と堂々と戦うため、日本に帰ろうとして、旅客機の事故に遭う。

どう見ても、まもなく墜落すると思われる機内で、四郎が叫ぶ。

「力道を倒すまでは、死んでたまるか」と。

 

「暴力大将」より。場面その9

四郎の漢ぶりを上げたうえで、事故で死なせるという、あっけなさがいい。

この物語は、力道が大財閥の後継者となり、これからさらに大きく羽ばたくというところで、終わる。

このタイミングで終わらせるには、麗子との関係にしろ、四郎との関係にしろ、こうやって断ち切るしかなかったのだと思う。

 

ただ、繰り返しになるが、麗子は死んでいないから、その後が気になってしまう。

かといって、絶望した麗子がひっそりと自殺だと、後味が悪すぎる。

考え抜いたうえで、これがベストな結末ということだろうか。

 

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