てっちレビュー

 読書、音楽、映画・・・etc.あと、記者の仕事あれこれ

「漫画家本vol.14 高橋留美子本」 「めぞん一刻」は序盤の墓参りの逸話で「五代が惣一郎の墓の前にいるイメージが浮かんだ」という 好きな漫画家、SF作家の話も興味深い

「漫画家本vol.14 高橋留美子本」

「漫画家本vol.14 高橋留美子本」

本書は、漫画家・高橋留美子の画業を紹介する。

ロングインタビュー目当てに買った。なかなか、面白い。

 

 

代表作「うる星やつら」の看板キャラクター、ラムがもともと脇役だったというのは、よく知られた話だろう。

もともとは、主人公のあたるをラムが追いかけるドタバタ劇(当初は、本来のヒロインだった、しのぶが絡む三角関係も描かれた)ではなく、SF作家・筒井康隆の作品のような「ただのドタバタSF」を描きたかったという。

 

 

インタビューによると、第1話の発表後、読者から届いた手紙の大半が「あたるとしのぶはどうなるのか」という内容で、「読者の興味は、そっちなのか」と感じたことが、あたる、ラム、しのぶの三角関係を軸として物語を展開する、きっかけ。

中盤以降、しのぶが引いた立ち位置になり、あたるをラムが追いかける物語になった。

 

最終的に、あたるとラムがくっつくという落としどころは考えていたが、しのぶの扱いに悩んだそうだ。

因幡というキャラクターが登場して、しのぶが新たな恋を見つけられる展開になり、「これなら、しのぶも幸せになれそうだなと思い、そろそろ物語を締めてもいいかなと考えるようになった」という。

 

「漫画家本vol.14 高橋留美子本」より。「うる星やつら」のクライマックス(左)

恋愛漫画の金字塔「めぞん一刻」も、八方丸く収まる結末だったことを思い出す。

こずえも、八神も、三鷹も、明日菜も、悲しい状態にはならなかった。

八方丸く収まる結末は、高橋のこだわりなのだと、よくわかった。

インタビューでは「自分が生み出したキャラクターはすべて、可愛いものですし、その一人一人に、最終回ではいい形で着地してもらいたいと思っているんですよ」と語る。

 

そして、その「めぞん一刻」。

もともとは、漫画「じゃりン子チエ」(はるき悦巳)のような人情物、一刻館を舞台にした人間ドラマが描きたかったという。

主人公・五代が響子に惹かれる展開は考えていたが、恋愛要素を強める想定はなかったそうだ。

当初、響子はあくまで登場人物の1人で、主要キャラにするつもりはなかったというのも、驚きだ。

 

 

響子を登場させてみて、「何か、言葉ではうまく言えない手応え」を感じたため、徐々に主要キャラとして存在感を増していったという。

初期の段階で、響子が未亡人だとわかる墓参りのエピソードがあり、その場面を描いた時に「物語のクライマックスで、五代が惣一郎さんのお墓の前にいるイメージが浮かんできた」という。

このひらめきがすごい。やはり、すごい漫画家だと、あらためて思う。

このクライマックスは名場面。

五代の「あなたもひっくるめて、響子さんをもらいます」は名セリフだった。

 

「漫画家本vol.14 高橋留美子本」より。「めぞん一刻」の名場面

「漫画家本vol.14 高橋留美子本」より。「めぞん一刻」のクライマックス(左)

インタビューでは、どんな漫画家、小説家に影響を受けてきたかも明かされる。

中学2年の頃、池上遼一に憧れて漫画家になりたいと思うようになり、大学時代には、小池一夫の「劇画村塾」で学んだという歩みも、興味深い。

高橋の作品群「るーみっくわーるど」とは、イメージがかなり違うからだ。

小池には、才能を見込まれ、「お前はプロになれる」と励まされ続けたという。

 

小池原作の劇画・漫画は、「首斬り朝」「子連れ狼」(ともに作画は小島剛夕)、「魔物語 愛しのベティ」「オークション・ハウス」(ともに作画は叶精作)、「マッドブル34」(作画は井上紀良)など、私も大好き。

(池上の作品は、読んだことがない)。

 

www.tetch-review.com

 

高橋が、諸星大二郎の作品に「衝撃を受けた」というのも、面白い。

私も大好きな漫画家だけど、これも「るーみっくわーるど」とは、かなり違う。

 

www.tetch-review.com

 

SF小説は子どもの頃から好きだったという。

筒井のほか、星新一、平井和正、眉村卓の作品を愛読したそうだ。

ここに名前の挙がった4人の作品は、私も子どもの頃、読んだから、親近感がわいた。

私の場合、特に平井にどっぷりとはまった。

「アダルト・ウルフガイ」シリーズや「死霊狩り(ゾンビーハンター)」は大傑作。

ちなみに、平井は「めぞん一刻」の大ファンとして、知られる。

 

www.tetch-review.com

www.tetch-review.com

 

おそらく「るーみっくわーるど」の源泉となっている高橋の好きな漫画、SF小説がわかって、ますます、高橋の作品に関心が高まった。

あと、読書で想像力が育まれるということも、あらためて感じた。

 

www.tetch-review.com

 

余談だが、、、

私は、筒井の「ドタバタSF」には、そこまで惹かれなかった。

横田順彌の「ハチャハチャSF」には、はまった。

作品で言うと「謎の宇宙人UFO」「宇宙ゴミ大戦争」とか。

 

 

平井も、横田も、語り口が好きで、影響を受けた。

大学時代、SF研究会のほか、文芸部というサークルにも入っていて、短編小説みたいなものを書いたことがあるが、文体がまるっきり横田の真似だった。

 

SF研究会や文芸部の思い出も、いずれ、書いてみたい。

ちなみに、過去の記事「天真爛漫な音楽を考えてみた」に出てくる、大学時代のサークルの後輩A子とは、文芸部の後輩だ。

 

www.tetch-review.com