
「妖怪なんでも入門」水木しげる
私は、空想癖があるせいか、怖がりだ。
例えば、夜、真っ暗な山道を車で走る時は、ルームミラーを見られない。
何者かが後部座席にいてミラーに映ったら嫌だなと想像して、怖くなるからだ。
例えば、寝室でも、窓の近くでは寝られない。
窓の外に何者かがいて姿が見えたら嫌だなと想像して、怖くなるからだ。
自宅の寝室でも、旅行先のホテルの客室でも、窓側には妻に寝てもらい、私は廊下に近い側に寝る。
妻には「何者かに私が襲われてもいいんだね?」と、からかわれ、「廊下から来た場合は、こっちが防ぐから」と、ごまかす。
代表作「ゲゲゲの鬼太郎」があり、妖怪研究家としても知られる鳥取県出身の漫画家・水木しげるの著書によると、「何かいるという感じを形にしたもの」が妖怪だという。

その著書とは、本書「妖怪なんでも入門」。
子どもの頃に愛読した。
最近、復刻版を見つけて即刻購入。とても懐かしくなった。
例えば、「コロポックル」。
人間に見つかり、恐れて逃げようとする表情が何だか、可愛くて、記憶に残っている。

大人になった今、本書を読み返すと、気づくことがある。
著者の論考の素晴らしさだ。
妖怪の本質を的確にとらえていると思う。
子どもの頃の私は、さまざまな妖怪を紹介するページはよく見ていたけども、妖怪に関するコラムのページは、よく読んでいなかったのだと思う。
例えば、著者は、コラムのひとつで、子どもの頃に夜、森の中で迷子になった経験を引きながら、次のように説く。
そのとき、私は、あたりに「百鬼夜行」を感じた。別に形が見えたわけではないが、何かがいるという恐怖を味わったわけだ。後年、「百鬼夜行」の絵を見ると、そこには私がかつて森で感じた、闇の中に何かいるという感じが表されていたわけだ。なるほど、妖怪というのは、何かいるという感じを形にしたものなんだなあ、とその時、思った。
(以上、抜粋)

別のコラムでは、さらに詳しく掘り下げている。抜粋してみる。
例えば、夜道を歩いていると、ことに真っ暗な田んぼの道などの場合、何となく気持ちが悪いので、急ぎ足になる。そうなると、よく足がもつれたようになって、思うように進まない。すると、恐怖心は倍になる。そんな時、足にまつわりついているのは「すねこすり」という妖怪だ、というわけだ。目には見えなくても、何となく、そういう妖怪がいると考えたほうが、その時の気持ちをよく表現できる。そんな時、妖怪は誕生するのだろう。
(以上、抜粋)

例えば、本書で紹介してある妖怪で、天井からぶら下がっている「天井さがり」とか、屋根の明かり窓から家の中をのぞく「しょうけら」とかは、この類いだろう。

別のコラムの論考も素晴らしい。抜粋してみる。
妖怪は、手に触ったり、食べて味わったりするものではない。あくまでも心の世界のものだ。妖怪を感ずるには、現実には目に見える世界だけが世界ではない、もうひとつ何かあるんじゃないか、という気持ちが大切である。
(以上、抜粋)
私には、いわゆる「霊感」がない。
霊的なものが見えたり、霊的な気配を感じたりする能力だ。
私の母が、霊感があるタイプ。
「人魂を見た」「夢で三途の川を見た。とても、きれいな川」「死んだ親戚が夢に出てきて、あの世に引きずり込まれそうになった」といった話を何度、聞かされたことか。
妻の兄も、霊感があるタイプ。
義兄は、長距離トラックの運転手で、車内で寝ることも多いそうだ。ある時、夜中にトラックが揺れて目覚めると、宙に浮いた人がトラックを押して揺らしていたという。
私と一緒にいる時、急に青ざめた表情になり「そこに今、血だらけの子どもがいて、笑っている」などと言われたこともある。
私のような怖がりに、霊感がなくて本当に良かったと、いつも思う。
せっかく霊感がないのに、怖い想像の種を、なぜか、自ら仕込んでしまうのが不思議だ。
子どもの頃に愛読した本書も、そうだろう。
オカルト雑誌「ムー」が好きで、よく読んでいた。
丹羽哲郎の「大霊界」にも、はまった。
大人になってからは、テレビドラマ「X-ファイル」に、はまった。
特に怖かったのが、シーズン1の第3話「スクィーズ」。
通気口のような狭いところも、ムニューッと通り抜けられる怪人が出てくる。
おかげさまで、トイレが怖くなった。
子どもの頃、穴から手が出てきそうで嫌だったくみ取り式トイレが、時代の流れにつれ、水洗式に切り替わり、ホッとしていたのに、自宅の水洗式トイレに入った時に、ふと、天井の通気口が見えてしまった。
それ以来、ムニューッと出てきたら嫌なので、トイレの天井には目を向けられない。
人間の心から、想像力がなくならない限り、妖怪は生き続けるのかもしれない。
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