
「タミヤニュースの世界」田宮模型編
戦車などミリタリーミニチュア(MM)シリーズで知られるプラモデルメーカー、タミヤが素晴らしいのは、高品質の製品を作るのは、もちろん、その楽しみ方まで導いてくれること。
そもそも、製品の組み立て説明書は、実車や実機の解説が充実しており、読みふけったものだ。
月刊の小冊子「タミヤニュース」も、そんなタミヤ精神の表れだ。
製品情報にとどまらず、実物の戦車や軍用機、軍隊に関する解説、愛好家の作品の紹介など、プラモ愛好家にとって、参考になる記事が盛りだくさん。
表紙には、軍用機の部隊マークがあしらわれ、裏表紙には、戦車や軍用機の塗装図が載っていた。
子どもの頃、タミヤニュースを愛読していた私は、この塗装図を眺めるのが好きだった。


本書「タミヤニュースの世界」(田宮模型編)は、1967年の創刊から、本書発刊時の2001年まで30年余りの内容を抜粋しながら、タミヤニュースを紹介する。
タミヤニュースを読まなくなって久しいので、とても、懐かしい。
目を引くのは、タミヤ製品の改造の手引き「これだけは作ろう」コーナー。
こんなコーナーがあったとは、覚えていなかったが、このコーナーだけ集めて本にしてもいいのではないかと思うような面白い企画だ。
いかにもタミヤらしい。

例えば、第2次世界大戦中、ドイツが英国への上陸作戦「あしか作戦」のために計画した「Ⅲ号潜水戦車」への改造。
タミヤ製の1/35スケール「ドイツ陸軍 Ⅲ号戦車N型」がベースになる。
Ⅲ号潜水戦車は、水面に浮かぶブイからホースを車体につないで、車内の乗員やエンジンに空気を送る仕組みだった。
「これだけは作ろう」の記事では、太さ3.5ミリ程度の電線やビニールパイプなどに糸を巻いて、ホースを作り、ブイはケント紙で作るよう、手ほどきしている。
また、Ⅲ号潜水戦車は、Ⅲ号戦車F型がベースになったそうで、ホイールの形状など細部に手を入れて、N型からF型に改造するようにも、説いている。

タミヤ製の1/35スケール「ドイツ陸軍 重戦車タイガーI型」から、「ストームタイガー」への改造例も面白い。
実物のストームタイガーは、タイガーI型の車体に、固定式の砲塔を設けて、38センチ臼砲を装備した自走臼砲。
「これだけは作ろう」の記事では、固定式の砲塔をプラ板で自作するように手ほどきしている。寸法も書いてあり、参考になる。
プラ板を丸めて作る砲身のパーツ、プラ板を熱で軟らかくして成形する砲身基部のパーツの自作は、難しそうだ。
ストームタイガーは、のちにタミヤがキット化した。

タミヤニュースに連載された「表紙裏コラム」も、興味深い。
執筆は、タミヤニュース創刊当時、タミヤの企画開発部長だった田宮俊作(のちに社長、会長を務めた)が担当。
執筆者の模型論やタミヤの歩みがうかがえる。
この「表紙裏コラム」だけ集めて本にしてもよさそうなくらいだ。
本書では、創刊以降の表紙裏コラムのうち、57本を掲載。
例えば、タミヤニュース1976年6月号の表紙裏コラムは、箱絵(ボックス・アート)をテーマに書いてある。
2年ほど前に、米国の販売代理店から「タミヤ商品の箱絵に誇大広告の疑いがかけられている」との連絡を受け、箱絵については軌道修正を余儀なくされたという内容。
プラモ愛好家には割と知られた話だと思うが、簡単に説明すると、、、
例えば、タミヤ製の戦車のプラモデルの箱絵は、その戦車が戦場で活躍する様子が描かれ、まわりには他の車両や兵士が描かれていた。
しかし、キットには他の車両や兵士のプラモデルは付属していないので、「誇大広告ではないか」という指導が米国の当局からあった。
このため、タミヤは、そのような箱絵から、他の車両や兵士を消す修正を加えた。
そして、タミヤの箱絵は、例えば、製品となった戦車そのものだけを描いて背景は真っ白とする「ホワイトパッケージ」が主流になったのだけども、その背景には米国への輸出があったということ。
(その後、また、昔みたいに背景も描いた箱絵が復活している。なぜかは不明)。
(ここに挙げたAmazon商品2点は、ともにタミヤ製1/35ロンメル。上が昔の箱絵。下がホワイトパッケージ)
私は、昔、この話を知った時、いかにも訴訟社会の米国らしい指導だと思った。
米国の市民が、濡れた猫を乾かそうとしてオーブンに猫を入れたら、死んでしまった、オーブンに「猫を入れてはいけない」と書いてなかったので、オーブンの製造会社に落ち度があり、損害を賠償しろという訴訟が起きた───というような逸話も、真偽は定かではないが、聞いたことがあったので。
コラムで、執筆者は次のように書いている。
さすがに、この連絡には、唖然とさせられました。そして、最近、国内メーカーと提携したアメリカのM社のパッケージが完成写真を使っていたことに思い当たりもし、また、かつての同社の素晴らしいボックス・アートが惜しまれもしたのでした。当時、アメリカに呼応して日本でも消費者運動が拡大しつつあり、結局、この問題については、疑わしいものは可能な限り、直そうということになったのです。
(以上、抜粋)
文中の「M社」とは、モノグラムだろう。たしかに、モノグラムの製品のパッケージは、完成写真だった。
執筆者は、こう説いて、コラムを締めくくる。
模型の箱絵は単なる商品表示なのだろうかという疑問は残ります。製作や塗装、情景の参考になることはもちろん、素晴らしい箱絵は、モデラーの実車に対するイマジネーションを大きく膨らませるに違いありません。ひとつの絵として、ボックス・アートの名にふさわしい魅力あふれるもの、モデラーの心に長く残るような箱絵としたいと願うのですが。
(以上、抜粋)
全く、同感だ。
昔のタミヤ製品の箱絵には、本当に想像力をくすぐられ、わくわくさせられた。
箱絵を見るだけで楽しいので、組み立て終わった製品の箱をなかなか捨てられなかったものだ。
ホワイトパッケージは洗練されていて格好いいと思うけども、昔の箱絵も、別の味わいがある。それが姿を消したのは、残念だ。
だからこそ、だろう。Amazonやヤフオクでは、昔の箱絵のタミヤ製品が高値で出品されていたりする。
タミヤの箱絵は、アートとして優れているので、作品集を出してほしいくらいだ。
「表紙裏コラム」は、F1レーシングカーの箱絵から、タバコの広告が消えた話も興味深い(1986年12月号掲載)。
これもプラモデル愛好家には割と知られた話だと思うけども、箱絵だけではなく、製品のデカールからも「Marlboro」といったタバコのブランドのロゴが消えた。
(上のAmazon商品は、タバコのロゴがなくなった製品の一例。リアウイングの文字は「Marlbolo」ではなく「McLaren」に置き換えられている)
特に昔のF1は、タバコ会社が強力なスポンサーになっていて、「Marlboro」と言えばマクラーレン、「JPS」「CAMEL」と言えばロータスという風に、F1チームのイメージに直結していたものだ。
そんな時代のF1レーシングカーのプラモを作ろうと思ったら、やっぱり、タバコのロゴがないと気が抜けたようになってしまう。
だから、タバコのロゴ入りの昔のタミヤ製品は、タバコのロゴなしの製品より、ヤフオクでは高値が付く。(ロゴなし製品でも高値だが)。
タミヤ製の昔のF1やインディのレーシングカーは、今も人気が高い。
私は、ある程度、そろえているけども、1/20スケールの「マクラーレンM23」(1976年のF1王者ジェームス・ハントのマシン)は、手が出ない。
特に珍しくて、たまにヤフオクに出ても、法外な高値。再生産品も高値。
レーシングカーのプラモについては、機会を改めて語りたい。
ちなみに、私は、1/43スケールのミニカーも好き。
1995年インディカー王者ジャック・ヴィルヌーヴのマシン(チーム・グリーン レイナード・フォード)は、「PLAYER'S」というタバコのロゴ入りのものがほしくて、eBayに出品していた米国の愛好家からセカイモン経由で買ったけども、送料や手数料を含めて1万数千円かかった。
(タバコのロゴなしの商品は、割と出回っているが、ロゴありは珍しい)。

本書「タミヤニュースの世界」に話を戻す。
「模型ファンを訪ねて」のコーナーは、さまざまな著名人が登場したことがわかる。
小松崎茂、大塚康生、秋本治、松本零士、中嶋悟、甲本ヒロト&真島昌利といった方々が出ている。
タミヤが主催する「人形改造コンテスト」の歴代金賞受賞作品の紹介も面白い。
MMシリーズの兵士の人形などを改造するのだけども、「レイダース」「スターウォーズ」など時代を反映していると、あらためて感じる。
第14回(1986年)の金賞受賞作品「ハイヨー! シルバー!」の作者は、人気漫画家の鳥山明。
タミヤ製品に親しんでいたというのが、何だか、うれしい。




