てっちレビュー

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「総員玉砕せよ!」水木しげる 旧日本軍の兵士の日常を描く 旧軍の「歩兵操典」、自衛隊の「新入隊員必携」と続く日本的な精神論も思い浮かぶ

「総員玉砕せよ!」

「大本営会」で知り合った元自衛隊員の方に、自衛隊の「新入隊員必携」を見せてもらったことがある。

(大本営会については、記事「富士総合火力演習に大興奮」を参照)。

 

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「新入隊員必携」は手帳サイズのマニュアル。

隊員の心構えなど精神論の色濃い内容が、旧日本軍の「歩兵操典」と似ていて、興味深かった。

 

「歩兵操典」は、明治初期にフランス軍のものを真似て作られ、のちにドイツ軍方式に改められたらしい。さらに、日露戦争後の1909年の改訂で、独自色が強まり、「忠君愛国と必勝の精神」を強調する精神主義を打ち出したとされる。

 

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それぞれ、一部を抜粋してみる。

 

「歩兵操典」から抜粋

第四章 戦闘間兵一般の心得

第76

兵は軍人の本分を自覚して、身命を君国に献げ、戦勝獲得の一途に邁進すべし

第77

戦闘は行軍及び劇動の後開始せられ、且つ数昼夜に亙るを常とす。故に兵は黙々として困苦欠乏に堪え、烈々たる熱意を以って、飽く迄其の責務を遂行すべし

第78

戦闘激烈にして死傷続出し、或は紛戦を惹起して命令徹底せざるか、又は指揮官を失うも、兵は戦友相励まし、益々勇奮率先其の任務に邁進すべし。若し敵の重囲に陥り、又は弾薬を打ち尽くしたるときは、自己の銃剣に信頼し自若として事に当り、縦い最後の一人となるも尚毅然として奮戦すべし。凡て疑惧後退は敗滅に陥り、勇猛果敢なる行動は常に勝利を得べきものなるを銘肝するを要す

第79

兵は戦闘中に負傷するも自ら応急の処置を施し、百方手段を尽くして戦闘を続行すべし。縦い戦闘に堪えざるに至るも後退すべからず

第81

兵は剛胆にして耐忍に富み勇猛にして志気旺盛ならざるべからず。戦場の惨状を誇張し、或は自己の苦痛を訴え、又は状況を悲観せるが如き言動は、厳に之を慎むべし

(以上、抜粋)

 

「新入隊員必携」から抜粋

戦闘間隊員一般の心得

第1 使命観に徹し、あくまで任務を遂行せよ。

およそ戦闘は困難の連続であり、その様相は悲惨激烈をきわめ、連続数昼夜にわたり不眠不休で活動しなければならないことが多い。この困難を克服して全員が戦勝獲得の一途に邁進できる原動力は、自衛隊の使命に対する徹底した認識と、任務遂行によりこの使命を達成しようとする旺盛な責任感である。

隊員はたとえ最後の一員となっても使命観に徹し、旺盛な責任感をもって、あくまで任務を遂行しなければならない。

第3 常に士気旺盛にして靭強不屈かつ勇猛果敢に行動せよ。

戦闘激烈にして死傷者続出し、あるいは混戦に陥っても上下左右が信頼し励まし、旺盛な士気をもって靭強不屈かつ勇猛果敢に行動し、自ら他を率いる気概をもって戦闘しなければならない。

第6 旺盛な企図心をもって絶えず創意工夫せよ。

何事も創意工夫すれば打開の道はある。

第9 戦闘間負傷しても、自ら手段を尽くして戦闘を継続せよ。

(以上、抜粋)

 

「歩兵操典」では、兵士は「身命を君国にささげろ」と明記。

戦闘はいろいろと大変だけど「黙って困苦欠乏に耐え、熱意でカバーしろ」と説く。

「新入隊員必携」では、さすがに「身命を君国にささげろ」はなくなり、代わりに「自衛隊の使命」が原動力。

使命を達成しようという責任感で頑張れということになっている。

 

「歩兵操典」のすごいのは、激しい戦闘で自分1人になってしまい、敵兵に取り囲まれ、銃弾を使い果たした状況でも、銃剣を頼りに頑張れと鼓舞する点。

「勇猛果敢な行動で、必ず勝利が得られる」という。

そして、戦闘で負傷した場合でも、「何とか戦闘を継続し、戦闘が無理な状態になっても後退してはならない」という。

旧日本軍は、白旗を揚げて投降するという選択肢が許されなかったと聞くが、その表れだと言えるだろう。

「新入隊員必携」では、「最後の1人になっても頑張れ」「負傷しても頑張れ」はあるけど、「銃弾を使い果たしても銃剣で頑張れ」とか、「戦闘を続けられないくらいの負傷でも後退するな」といったところまでは求めていない。

 

精神論が現代風にバージョンアップしている点も、興味深い。

「歩兵操典」では、「つらくても、泣き言を言うな」とある。我慢がすべて。

これが「新入隊員必携」だと、「何事も創意工夫すれば打開の道はある」と説く。

現場からしてみれば、同じことかもしれないが、前向き感が出ている点が面白い。

 

「何事も創意工夫すれば打開の道はある」は、いかにも日本的で、好きな言葉だ。

日本の社会に割と根付いている発想ではないだろうか。

時代の流れにつれ、少しずつ、薄れてきているかもしれないけども。

 

弊社でも、私が下っ端の頃、「何とかしろ」と、よく言われた。

物理的に無理だと思われるようなオーダーを受けた場合に、「やってみますが、難しいかもしれません」と、恐る恐る申し出ると、上司や先輩からは「何とかしろ」と言われた。

ビンタ等の体罰はなかったけども、罵倒される等の言葉の暴力は日常茶飯事。何とかしようと、ギリギリまで努力したものだ。

 

ついでに、もうひとつ。

東日本大震災・福島第一原発事故の頃、私は、遊軍キャップで、原発担当でもあったのだけど、原発トラブル取材の装備品として、マスクを支給された時は冗談かと思った。

風邪をひいた時に使う普通のマスクが2個。これで、何をどう防げというのだろうか。二重に装着したら、大丈夫ということだろうか。

その旨、恐る恐る申し出てみると、「危ないと思ったら、無理するな」とのこと。危ないかどうかなんて、どう判断しろというのだろうか。

笑い話みたいだが、これは実話だ。弊社は旧日本軍を笑えない。

 

前置きが長くなった。ここからが本題。

本書「総員玉砕せよ!」は、従軍経験のある漫画家・水木しげるが1973年に発表した長編戦記漫画。

 

 

兵士の日常を描いた点が素晴らしい。

本書には、華々しかったり、かっこよかったりする戦闘シーンは、ない。

 

作者をモデルにした丸山ら下っ端の兵士たちは、いつも食べ物の心配ばかりしている。実際に、そうだったのだと思う。

「今度、行くところはパパイヤがたくさんある天国みたいなところらしい」という、仲間との会話から、物語が始まる。

 

「総員玉砕せよ!」より。物語冒頭のシーン

パパイヤの根が食べられると聞けば、持って帰ろうとし、青いバナナを爆弾で空いた穴に入れておくと熟しておいしくなると聞けば、爆弾の穴にバナナを隠す。

敵兵が残していった缶詰を見つけると、歯でかじって開けて中身を口に放り込む。

 

そして、理不尽な体罰。

ちょっと、緊張感のないそぶりを見せたり、口答えしたりすると、「ビビビビーン」とビンタを食らう。

何も落ち度がなくても毎晩、「初年兵、整列」「貴様ら、たるんでる」などと言われ、ビンタ。

 

「総員玉砕せよ!」より。ビンタその1

「総員玉砕せよ!」より。ビンタその2

仲間たちは、ワニに食べられたり、魚を喉に詰まらせたりと、戦闘とは関係ない状況で次から次へと死んでいく。

 

最大の理不尽は、部隊が玉砕を試みたものの、生き残った将兵がいて、再び玉砕を命じられること。

「生きていてはならない人間だから」だという。

 

作者にとって、従軍体験は、その後の人生に大きな影響を与える過酷な体験だったようだ。何十年たっても夢に見たという。

 

「総員玉砕せよ!」を初めて読んだのは、大学時代だったろうか。

 

それ以前に見た戦争映画「フルメタル・ジャケット」(1987年、米英合作)を思い出した。

米海兵隊の過酷な訓練生活と従軍を描いた作品。

 


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訓練では、映画「セッション」(2014年、米国)のフレッチャーみたいな鬼教官が、兵士を猛烈にしごく。仲間内でのいじめもある。

兵士が心を病んで、鬼教官を撃ち殺し、自殺するシーンには衝撃を受けた。

「総員玉砕せよ!」でも、心の病になり、暴れ出す兵士が出てくる。

「フルメタル・ジャケット」は、主人公たち兵士が戦場で「ミッキーマウスの歌」を歌いながら行軍するシーンも印象深い。

 


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「総員玉砕せよ!」で、再度の玉砕を命じられた将兵が「女郎の歌」を歌いながら突入するのと似ている。

 

「総員玉砕せよ!」より。「女郎の歌」を歌う将兵

「フルメタル・ジャケット」の劇中で兵士が訓練中に走りながら歌う歌は、当時、テレビゲームソフト「ファミコンウォーズ」のテレビCMに使われ、懐かしい。

 


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このシーンだけ見ると、楽しそうに思えるかもしれないが、暗くてシリアスな映画だ。

 

「総員玉砕せよ!」も、シリアスな内容が多々あるけど、主人公・丸山のとぼけたキャラクターが良い清涼感を加えていて、楽しく読める。

 

ウンコ付きのご飯の逸話は、作者の他の短編作品にも使われたネタだけども、笑った。

丸山は、地面に大きな瓶を埋めて板を渡したトイレで、うっかり片足を落としてしまい、飯桶でその足を洗う。

その飯桶の底に残ったウンコ付きご飯を、いじわるな上官に食べさせようとしたところ、「俺あ、中隊本部に行って、めし食ってきたからな。俺の分、おめえ食え」と言われて、自分が食べる羽目になるという逸話。

 

シリアスなテーマの作品を面白く読ませる、作者のセンスをあらためて感じた。

 

「総員玉砕せよ!」より。ウンコ飯その1

「総員玉砕せよ!」より。ウンコ飯その2

「総員玉砕せよ!」より。ウンコ飯その3

 

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