てっちレビュー

 読書、音楽、映画・・・etc.あと、記者の仕事あれこれ

「アトンの娘」里中満智子 神とは何か、そして、愛とは 古代エジプトの王妃らが問う ツタンカーメン王の死や墓の謎も描く

「アトンの娘」

「アトンの娘」里中満智子

神とは何か。そして、愛とは───

紀元前14世紀のエジプトを舞台にした漫画「アトンの娘」(里中満智子)は、この問いが大きなテーマだ。

主人公は、有名な王ツタンカーメンの王妃アンケセナーメン。

アンケセナーメンの両親である王アクナトン、王妃ネフェルティティも絡めて、親子の愛憎や夫婦のすれ違いを交えながら、神や愛を考える。

 

 

先日、テレビでNHKスペシャル「エジプト 悠久の王国」を見て、この漫画が懐かしくなり、読み返した。

 

 

この物語は、ネフェルティティの問いから始まる。

「この国の人々は、どうして見境なく、いろんな神を信じるの? エジプト人の気持ちがわからない。神は、真実は、ひとつのはずよ」と。

 

「アトンの娘」より。ネフェルティティの疑問

ネフェルティティは、エジプトの王アメンホテプ3世の王妃として、ミタンニ(現在のイラク北部にあった王国)から嫁いできた。

エジプトの文化、習慣になじもうと努めたが、多神教には疑問を感じたようだ。

 

古代エジプトでは、太陽神ラー、冥界の神オシリス、豊穣の神イシスなど多くの神々が信仰されていた。

漫画「ジョジョの奇妙な冒険」(荒木飛呂彦)の第3部に、エジプトの神々にまつわるスタンド(超能力)が登場していたのを思い出す。

(個人的には、アヌビス神のスタンドがよかった)。

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、一神教のキリスト教に反発して「八百万の神々」を信じる国、日本に惹かれるのだけど、ネフェルティティは逆に、多神教に疑問を抱いたというのが、面白い。

 

「アトンの娘」では、高齢のアメンホテプ3世が亡くなると、若いネフェルティティは、アメンホテプ3世と別の王妃の間の息子アクナトン(アメンホテプ4世)と結婚。

アクナトンが新たな王となった。

 

アクナトンは、神官が力を持ち、政治にも口を挟むのに、悩んでいた。

神官は、人々から多くの貢ぎ物を取って力を付け、腐敗していた。

アクナトンは多神教に疑問を抱き、神とは何かと考え始める。

ネフェルティティも賛同する。

 

2人の会話を抜粋してみる。

アクナトン「神とは、いったい、何なのだろう? 人間の都合に合わせて解釈してきたから、神官たちの巧みな言葉にごまかされてしまうんだ。人間の解釈など関係ない、絶対的な存在が〝本来の神〟だ」

ネフェルティティ「〝本来の神〟? どの神様?」

アクナトン「お前はどの神だと思う?」

ネフェルティティ「わからないわ。どの神が絶対無二の存在か。ただ、この世がすでにこうして存在するのだから、神もすでに存在することは確かなのよね」

アクナトン「アトン・・・だ」

(以上、抜粋)

 

アトンは、太陽を表す言葉。

太陽神ラーなどと違い、擬人化されていなかった。

 

「アトンの娘」より。アクナトンとネフェルティティその1

「アトンの娘」より。アクナトンとネフェルティティその2

従来の神々を否定し、アトンを唯一の神としたアクナトンの宗教改革は史実だ。

神官はもちろん、国民も反発し、改革が頓挫する過程が、この漫画で描かれる。

アンケセナーメンは、両親への反発もあって、ツタンカーメンとともに、従来の多神教を復興する。

 

ちなみに、この時代は、のちに、古代エジプトの「黒歴史」とされ、アクナトンやツタンカーメンらに関する記録の多くは失われたらしい。

現代になって、ツタンカーメンの墓が、あまり荒らされていない状態で見つかり、黄金のマスクなど多数の副葬品が出てきたのは、ツタンカーメンの存在がよく知られていなかったからだとされる。

 

 

物語の終盤、アンケセナーメンは、報われない片想いに生きる女性ムトネジメとの会話をきっかけに、神とは何か、愛とは何か、自分なりの結論にたどり着く。

会話は、アンケセナーメンが「愛するだけなの? 愛されたいとは願わないの?」と問うたのに対し、ムトネジメが「願ったら、『あの人のための愛』ではなくなります」と答えるといった内容。

 

「アトンの娘」より。アンケセナーメンとムトネジメ

アンケセナーメンは、子どもを流産して嘆くうちに、両親の言葉を思い出す。

回想シーンから抜粋してみる。

アクナトン「人は、つい、神にすがるものだ。「幸福」「健康」「知恵」──。だが、それは「人の都合のために存在する神」でしかない。神とは、ただ「在る」だけの「何か」ではないのか」

ネフェルティティ「その土地や国の都合で変わる「神々」や「来世」なんて、いい加減よ。神は『絶対』『不偏』の存在よ」

 

「アトンの娘」より。アンケセナーメンの回想

アンケセナーメンがたどり着いた結論は、以下の通り。

 

ただ、愛する

ただ、信じる

神は、そういう存在なのよ

神は、愛そのものよ

 

「アトンの娘」より。アンケセナーメンの結論

それ以上は、この漫画では書いていないけど、おそらく、神を信じて、自らを律して生きるということかなと思った。

 

この漫画では、アンケセナーメンが、ネフェルティティに反発しながらも、ネフェルティティと似てくる自分に気づくというところも、興味深い。

同じ作者の漫画「天上の虹」を思い出す。

「天上の虹」では、主人公の鸕野讚良皇女(持統天皇)が、父の中大兄皇子(天智天皇)に反発しながらも、似てくる自分に気づく。

「アトンの娘」は、近親婚や近親相姦にアンケセナーメンやネフェルティティが悩む姿も描かれる。

「天上の虹」では、鸕野讚良皇女は、叔父の大海人皇子(天武天皇)と近親婚をするが、その点を嫌がってはいなかった。

 

 

ツタンカーメンは、若くして亡くなっており、暗殺説や病死説がある。

「アトンの娘」では、暗殺を示唆しつつ、犯人が誰かは、ぼかしている。

ツタンカーメンの墓は、王の墓としては小さすぎ、別人のために作られたとみられる装飾や副葬品があるという。

ツタンカーメンは、若くして急死したため、別人のために作られた墓に葬られたのではないかと考えられている。

NHKスペシャル「エジプト 悠久の王国」では、本来はネフェルティティの墓だったという説を紹介していた。

「アトンの娘」では、高齢の大臣アイ(ツタンカーメンの死後、王となる)のための墓だったという説を取っている。

 

www.tetch-review.com

www.tetch-review.com

www.tetch-review.com