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「凄ノ王」永井豪 子どもの頃に見て衝撃を受けたトラウマ漫画 主人公の目の前で恋人が暴行される 悪魔は人間の心にいる 「デビルマン」に通じるメッセージ

「凄ノ王」

「凄ノ王」永井豪

小中学生の頃に読んで、衝撃を受け、トラウマになった漫画のひとつ。

物語序盤に、主人公・朱紗真悟の目の前で、恋人の雪代小百合が何人もの男たちに暴行される。

 

 

「デビルマン」(永井豪)のヒロイン・牧村美樹の惨殺に匹敵する悲しさ。

そして、「ブラック・エンジェルズ」(平松伸二)のヒロイン・ジュディ暴行を上回る無残さだった。

 

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「ブラック・エンジェルズ」は、ジュディが裸で涙を流すシーンで暴行されたことを表した。

これに対し、「凄ノ王」は最初から最後まで何ページにもわたり描写。

馬の姿で暴行を表すシーンは、逆に生々しすぎて、目に焼きついた。

しかも、「ブラック・エンジェルズ」の場合と決定的に違うのは、半殺しにされたうえ吊るされて何もできない主人公の目の前で、ということ。

2人にとって、精神的なダメージは計り知れない。

 

「凄ノ王」より。暴行その1

「凄ノ王」より。暴行その2

「ブラック・エンジェルズ」の場合、主人公・雪藤洋士が、暴行犯・切人(偽)を地獄に落とし、読者の憤りを一定程度、解消。

ジュディは、心の傷を一定程度、癒してもらい、雪藤の胸の中で泣く。

読者の心は、ここでも少しは晴れる。

 

これに対し、「凄ノ王」では、駆けつけた超能力者・瓜生麗らが暴行犯を多少、懲らしめるが、朱紗はその場では何もできないまま。

そして、雪代は間もなく「私を探さないで」と置き手紙を残して、姿を消す。

読者の憤りは倍増する。

 

朱紗は、雪代を守れなかった無力を嘆き、雪代の心の傷を思って、すさんだ世の中に怒りを向ける。

そして、超能力を目覚めさせ、我を失って荒れ狂うのだ。

 

「凄ノ王」より。暴走

話がそれるが、、、

「凄ノ王」の雪代事件でも、かなり気分が悪くなったのに、私が高校年代の頃には「女子高生コンクリート詰め殺人事件」が起き、漫画より現実のほうが恐ろしいと思ったものだ。これほど、気分が悪くなる事件は、なかなか、ない。

 

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「凄ノ王」が、このように、やるせない展開なのは、なぜか。

 

朱紗は、実はケタ外れの超能力を秘めていた。

その超能力を目覚めさせるために、仕組まれた策略が雪代事件だったからだ。

朱紗は、この後も雪代事件の心の傷を刺激されると、我を失い、超能力を暴走させる。

 

やがて、朱紗と雪代は互いにとらわれの身で再会。

朱紗は、自分の超能力を目覚めさせるために雪代事件が仕組まれたことを知って怒り、泣き叫ぶ。

「雪代さんは人間だぞ! 心も体も傷つきやすい人間なんだぞ! おれの超能力を目覚めさせる道具なんかじゃないんだぞ!」と。

その後、脱出した2人が涙を流しながら、静かに抱き合うシーンがある。

2人と読者の心が癒やされるのは、このシーンだけだ。

 

「凄ノ王」より。再会その1

「凄ノ王」より。再会その2

終盤、朱紗は、雪代事件の内幕を知ると、ショックのあまり、超能力のダークサイドに堕ち、魔神・凄ノ王となってしまう。

 

「凄ノ王」より。ダークサイド転落

事件の黒幕だった瓜生に対し、雪代は言う。

「あの悪魔の姿は、断じて朱紗君ではないわ! あなたよ! 瓜生君! あの悪魔の姿は、あなたの姿よ!」と。

「悪魔は人間の心の中にいる」とのメッセージを発する「デビルマン」に通じるセリフだ。

 

「凄ノ王」より。悪魔

魔神・凄ノ王が暴れ回り、世界が壊滅的なダメージを受けたところで、物語は終わる。

未完かとも思わせるが、そうではない。

物語を最大限に盛り上げたところで終わる、という作者の狙い通りの幕引きだという。

この点でも、インパクトの強い物語だ。

 

この物語は、とらわれキャラの可憐な美少女・雪代よりも、朱紗を助ける超能力者で、強い美少女・美剣千草が魅力的だ。

美剣は、瓜生と敵対関係。

瓜生が朱紗を狙っていると知っていながら、雪代事件を防げなかったのは不思議だ。

これは、物語の都合というものだろう。

 

「凄ノ王」より。美剣千草

脇役の黒田ミコも、味がある。

ちょい悪だけど、明るくサッパリした可愛いキャラで、重苦しい物語の清涼剤。

「デビルマン」の美樹を思い出した。

 

「凄ノ王」より。黒田ミコ

<追記・2025年12月21日>

この記事の投稿当時に、X(旧Twitter)で感想コメントをもらった時に書いたことをここにもメモしておく。

「凄ノ王」はオリジナルのほかに、その続きを少し書いた「凄ノ王伝説」もある。

「凄ノ王伝説」では、ボクシング部の合田が化け物みたいな姿になって再登場する。

個人的には、「凄ノ王伝説」で描かれる続きの話は、風呂敷を広げすぎて収集がつかない感じなので、あまり面白くない。

しかも、完結しているわけではなく、未完。

 

このような先例があったにもかかわらず、途中から風呂敷広げすぎ問題は、「北斗の拳」(原作・武論尊、作画・原哲夫)「聖闘士星矢」(車田正美)「ドラゴンボール」(鳥山明)など数々の名作でも繰り返されている。

私は、「北斗の拳」はラオウが死んだところで終われば良かったと思うし、「聖闘士星矢」は教皇との戦いまでが好きで、ポセイドンとかハーデスとかはあまり・・・

「ドラゴンボール」は序盤のドラゴンボール探しが好きで、天下一武道会までは許容範囲としてもサイヤ人とかは、もう付いていけなかった。

「BASTARD!!─暗黒の破壊神─」(萩原一至)は風呂敷広げすぎの最たるもの。天使が出てきて、わけがわからなくなって、付いていけなくなったけど、完結したのだろうか。

この点でも、荒木飛呂彦の「ジョジョの奇妙な冒険」は画期的だった。第1部、第2部…と主人公が交代しながら続いていくという、やり方。

 

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「凄ノ王」に話を戻す。

私はオリジナルの「凄ノ王」と「凄ノ王伝説」、両方の単行本を持っているけども、読み比べると、「凄ノ王伝説」は続きが少し書いてあるほかに、オリジナルの内容が少し省略してある。

序盤に野球の試合で活躍した様子は、オリジナルにはあるけど、「凄ノ王伝説」では省略されている。

オリジナルでは美剣が朱紗に好意を寄せる様子がもう少し描かれるし、お色気要素がもう少しある。

美剣がなぜか、裸で朱紗の部屋に現れたり、その後、朱紗の姉が裸で朱紗の部屋に入ってきたりする場面がある。

「凄ノ王伝説」では、これらの場面は省略されている。

もし、「凄ノ王伝説」しか読んだことがないという方がおられたら、ぜひ、オリジナルを一読されることをお勧めする。

 

 

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