
「手塚治虫キャラクター名鑑」
漫画家・手塚治虫の作品を初めて読んだのは、小学生の頃。
父が集めた「火の鳥」と「ブッダ」の単行本が実家の本棚にあり、自然に手に取った。
さまざまな時代が舞台となる「火の鳥」シリーズを読んで、すぐに気づくのは、大きな鼻のキャラクターが、名前や立場を変え、さまざまな巻に出てくることだ。
「黎明編」の猿田彦、「鳳凰編」「乱世編」の我王、「宇宙編」の猿田、「未来編」の猿田博士といった具合だ。
遠い先祖や子孫としてつながっているという設定だったかと思う。
さらに「ブッダ」を読むと、ダイバダッタは「火の鳥 乱世編」の源義経に似ていると思った。
そして、成人後のタッタは、「火の鳥 望郷編」のフォックスに似ていると思った。
フォックスは、顔に傷があり、タッタというより、ブラック・ジャックだと気づくのは、中学生になって「ブラック・ジャック」を読んでからだ。
「ブラック・ジャック」は1話完結の作品で、いろんな人物を出しやすいからだろう。
「火の鳥 未来編」のロック、「ブッダ」のシッダルタ、「鉄腕アトム」のアトム、「ジャングル大帝」のレオ、「リボンの騎士」のサファイア、「どろろ」の百鬼丸に似た登場人物を見つけ、面白いと思った。
脇役もそうだとわかり、これは、意図的にやっていることだと、ようやく気づいた。

手塚が、キャラクターを俳優に見立てて、作品ごとに配役を決めて出す「スター・システム」を取り入れていたことは、よく知られる。
本書「手塚治虫キャラクター名鑑」には、手塚の解説がある。
少し抜粋してみる。
ぼくは、芝居に凝っていたので、ぼくの作品に出てくる登場人物を、いっさい劇団員のように扱って、いろいろ違った役で多くの作品に登場させた。
メイキャップもその都度変えさせ、善玉がたまには悪玉の役をやったり、いろいろ演技のクセなども考えた。
ぼくのスター・システムは、読者に登場人物への親しみを持たせる意味では、予期以上の効果があった。
(以上、抜粋)
「火の鳥 未来編」のロック、「ブラック・ジャック」の間久部は、手塚のスター・システムで言うところの俳優「ロック・ホーム(間久部緑郎)」。
「少年探偵ロック・ホーム」でデビューし、初期は善玉を演じたが、あまり印象に残らなかった。
黒眼鏡をかけさせ、徹底的にドライな悪役で「バンパイヤ」に登場させたところ、特に若い女性の人気を集めたという。
「やっと、当たり役に巡りあった」と、手塚が解説で書いていて、その乗りがいい。


本書では、「擬人化・擬獣化キャラクター」に焦点を当てたコラムも、興味深い。
本書によると、「メタモルフォーゼ(変身)に強いこだわりがあった手塚にとって、人間と動物の境界は曖昧なものであり、両者間を行き来するキャラクターの存在は、ごく自然なものだった」という。
たとえば、「きりひと讃歌」の主人公・小山内桐人や脇役のヘレンがそうだ。2人とも、犬のような顔に変形する奇病の患者だ。
「百物語」に登場する悪魔の娘スダマ、妖狐の玉藻前もそうだ。
スダマは、「火の鳥 鳳凰編」のブチに似たキャラクターで、妙な色気を感じさせる。
このコラムで、擬獣化キャラクターについて「異様なフェロモンが発散されている」と書いているのに、共感を覚えた。

