
「地球大進化 4 大量絶滅」NHK地球大進化プロジェクト
地球の歴史で、生物が大量に絶滅する事件が5度あった。
よく知られるのは、恐竜が滅びた中生代白亜紀末(6500万年前)の事件。当時存在した生物種の70%が絶滅したらしい。
もっと凄まじいのは古生代ペルム紀末(2億5000万年前)の事件で、90〜95%もの生物種が絶滅したと見積もられている。
そして、この大量絶滅が、生物の進化を促したという。
NHKスペシャル「地球大進化」の書籍版第4巻「地球大進化 4 大量絶滅」(NHK地球大進化プロジェクト)は、ペルム紀末の事件を中心に、大量絶滅の原因や意味を解き明かす。
本書によると、コンピューターでシミュレーションしたところ、生物の絶滅がある場合と、ない場合で、進化の系統樹の様相が異なる。

結論を言うと、生物の住む生態系の空間には限りがあるため、絶滅が起きない場合は、いずれ、生物種の数が飽和状態になり、新しい種が生まれなくなる。
絶滅が起きると、生物種は飽和状態にならず、新しい種が生まれる機会は失われないという。
前途有望な種が十分に繁栄する前に滅びてしまうかもしれないが、新しい種が生まれるチャンスが増える。
進化の実験が数多く繰り返されることが、より優れた生物の登場につながるという。
つまり、大量絶滅がなければ、人類のような複雑で高等な生物は生まれなかったかもしれない、ということだ。
なお、生物の大量絶滅は、古くから想像されていたにもかかわらず、最近まで、あまり研究が進んでいなかった、という解説も興味深い。
古くから、化石の調査によって、生物種がある時期に一気に入れ替わることは、経験的に知られていた。
何か天変地異的な出来事が引き起こしたのだろうと信じられ、キリスト教的な終末思想と結びついたという。
ところが、19世紀半ばに進化論を唱えたダーウィンは「生物の進化は、連続的で、ゆっくりと進む」と考えた。
たとえば、白亜紀末にいくつもの生物の化石が突然見つからなくなることは知っていたが、化石が見つかっていないだけだと考え、あまり気に留めていなかったらしい。
このダーウィンの進化論が世の中に浸透し、大量絶滅という発想は、なかなか、世に受け入れられなくなったという。
ペルム紀末の大量絶滅事件の原因は、何だったのか。
本書は、シベリアで起きた巨大な割れ目噴火だと説く。
地表に長さ50キロにも及ぶ割れ目ができ、割れ目に沿って、溶岩が高さ2〜3キロも吹き出した。
大規模な森林火災が発生し、大量の二酸化炭素が放出され、気候が温暖化。
この温暖化で、大量のメタンハイドレートが溶け出して大量のメタンガスが発生し、さらに温暖化が加速した。
試算によると、赤道付近では8〜9度、極付近では20〜25度も、気温が上昇したと見積もられている。この激変で多くの生物が絶滅したという。
巨大な割れ目噴火は、なぜ起きたのか。
当時、大陸が集合して、超大陸パンゲアを形成していたため、巨大なマントルの塊が地球内部から地殻に上がってくる「スーパープルーム」が起きたという。

海洋プレートが地下に潜り込み、その残骸が地球内部のコアとマントルの境界付近に落下(落下と言っても、マントルは固体なので、数千万年かけて落下)。
すると、コアとマントルの境界付近から、マントルの塊が押し出されて、地殻に上がってくる。
「マントルプルーム」と呼ばれる、この現象は、現在でもあるらしいが、当時は超大陸パンゲアが、海洋プレートが潜り込む海溝で囲まれていたため、直径1000キロという巨大なマントルの塊が地殻に上がってくるスーパープルームが起きた。
これによって、割れ目噴火が起き、さらには、超大陸パンゲアが分裂し始め、やがて、現在のような大陸の配置になっていったという。

ちなみに、遠い将来に、現在の北米大陸とアジア大陸が近づいて合体し「超大陸アメイジア」が形成されると予測されている。
そして、超大陸アメイジアの分裂時にも、スーパープルームが起きると考えられているという。
そのスーパープルームの発生は、2億5000万年後との予測。
本書で、「その時、人類にどのような運命が待ち受けているのだろうか。もちろん、それまで人類という種が生きながらえていればのことであるが」と書いているのが、面白い。
それまでに、人類は、別の原因で滅びているかもしれない。
人類滅亡から5000万年後の生態系を空想した「アフターマン」(ドゥーガル・ディクソン)は、人類滅亡時期がいつかは示していないけど、資源枯渇で文明が崩壊と想定している。
この本については、機会をあらためて書いてみたい。
本書「地球大進化 4 大量絶滅」によると、2億9000万年前から始まるペルム紀の前期は、哺乳類型爬虫類のディメトロドンが地上の覇者だった。
四つん這いで、背中に大きな帆を背負った姿の生物。
図鑑などでなじみ深い生物だと思う。


恐竜っぽい姿だけども、進化の系統樹で見ると、恐竜よりも、人類など哺乳類と近い。
この仲間から枝分かれして進化し、ペルム紀末に登場したキノドン類が哺乳類の直接の祖先で、当時の地上の支配者だった。
ところが、ペルム紀末の大量絶滅で、哺乳類型爬虫類は、地面に穴を掘った巣に逃れて生き延びた一部を除いて絶滅した。
その後は、代わって現れた恐竜の時代となったという。
ちなみに、哺乳類型爬虫類が、地面に穴を掘って住むという能力を身に付けたのは、大量絶滅の直前だったらしい。
本書は、「もし、間に合っていなかったら、人類は存在していなかったかもしれない」と指摘している。
たしかに、奇跡的で、面白い。
今回の記事では、詳しく紹介しないけども、ペルム紀末の大量絶滅後、なぜ、恐竜が栄えたかの分析も、面白い。
大量絶滅事件で地球が低酸素状態になり、現在の鳥類も備える「気嚢」という効率的な呼吸システムを身に付けたことが、要因だと考えられている。
これによって、恐竜は体を巨大化させたという。
一方で、低酸素状態に対し、哺乳類の祖先は「横隔膜」を獲得して、呼吸効率を高めたという。
のちに、恐竜から枝分かれした鳥類は、気嚢を活用し、空気の薄い空に進出。
哺乳類は、酸素を大量に必要とする脳を発達させ、やがて、人類が生まれた。
大量絶滅を引き起こして生物の進化を促したという意味も含めて、地球と生命の神秘をあらためて考えさせられる。

