
「ドイツ軍の小失敗の研究」三野正洋
小学生の頃、ミリタリープラモデルのブームが仲間内に到来した。
近所の駄菓子屋で扱っていたからだと思う。
タミヤが発売している各国の戦車を作り比べると、すぐに気づくのが、第2次世界大戦中のドイツ軍戦車が異彩を放つことだった。
たとえば、第2次世界大戦中のドイツ、旧ソ連、米国の主力戦車を見比べてみる。
ドイツのⅣ号戦車(1938年から量産。最も多く生産されたH型は43年に登場)は、直線的で角張った形をしている。
エスケープハッチ(やられた時に乗員が逃げ出すための扉)が多く、H型ともなると、防弾板が付き、複雑な姿だ。
これに対し、旧ソ連のT34(1940年から量産)、米国のM4シャーマン(1942年から量産)は、どちらも車体前部の装甲が傾斜し、砲塔は丸っこい形。
キャタピラのところの転輪の数も少ないし、シンプルでのっぺりとした印象だ。
子ども目線で見ると、ドイツのⅣ号戦車のほうが、圧倒的にかっこよかった。
マズルブレーキ(砲身の先端で側面に穴が空いた構造。発射時の反動を和らげる)があるのも、子ども心をガッチリととらえた。
T34は、大戦中の各国の戦車の中でも特に傑作で、旧ソ連と戦ったドイツに影響を与えた。
車体前部の装甲が傾斜しているので、敵の砲弾をはじきやすく、幅広のキャタピラなので、ぬかるんだ荒野でも走れる。
強力な大砲と厚い装甲を備えつつも、強力で燃費の良いエンジンのため、高速で走れて、航続距離も長い。
何より、構造がシンプルで生産しやすいという特徴があった。
ドイツがT34に対抗するため開発したⅤ号戦車パンサー(1943年から量産)は、傾斜した装甲、幅広のキャタピラと、思いっきり、敵のアイデアを取り入れている。
大戦中のドイツ戦車では最優秀の戦車だ。
しかし、ドイツは、このパンサーの開発、生産に注力するということをしなかった。
それがドイツの敗因のひとつだと、本書「ドイツ軍の小失敗の研究」(三野正洋)は説く。
本書によると、旧ソ連がT34、米国がM4にほぼ絞って大量生産したのに対し、ドイツは、いろんな戦車を作り続けた。
T34の生産数が5万台、M4が5万3000台なのに対し、ドイツは最も多いⅣ号戦車でさえ、9200台。ついでに言うと、パンサーは6000台。
大国の旧ソ連、米国との生産力の差はもちろん大きいだろうが、いろんな戦車を作り続けたことも影響したという。
たとえば、旧ソ連との戦いでT34に悩まされながらも、新型戦車3種類の開発を並行して進めた。
つまり、T34対策の本命とも言えるパンサー1種類に絞らなかった。
T34に出合う前から開発に取り組んでいたⅥ号戦車1型タイガー(1942年から生産)は強力な大砲と厚い装甲を備えていたが、装甲の傾斜がないなど設計思想が古かった。
Ⅵ号戦車2型キングタイガー(1944年から本格的に生産)は、強力な大砲と厚い装甲に加え、傾斜した装甲などT34の教訓も反映していたが、登場が遅すぎた。
そして、タイガーもキングタイガーも大型の戦車で動きが鈍い上にコストが高く、数が少なすぎた。
ちなみに、米国のM4シャーマンは、性能は平凡だが、数でドイツ戦車に対抗した。
著者は、ドイツはふたつの道のどちらかを選ぶべきだったと指摘する。
ひとつは、「作り慣れているⅣ号戦車の後期型の増産」。
もうひとつは、「高性能のパンサーに絞っての生産」。
子ども心には魅力的に映ったドイツ戦車の複雑な構造も、量産に不向きだったという(パンサー以降はだいぶんシンプルな形になっていたが、今度は大型化していった)。
造形を見て楽しむモデラーとしては、バリエーションの多さや複雑な構造は魅力なのだけども、実際の戦争では「シンプルなものにして、それに絞って大量生産」という路線の旧ソ連や米国が勝っている。
ドイツの国民性なのだろうか。
技術的なアイデアをいろいろと試したいというような。
本書は、ドイツの陸軍のほか、空軍、海軍についても分析している。
空軍は、主力戦闘機を絞って生産していたというのが興味深い。
だけど、こらえきれずにドイツ人気質が噴き出してしまったのか、大戦末期には新型機の開発がカオス状態になり、さまざまな計画機が登場している。奇抜なものも多い。
これらの計画機は、ドイツの勝利には貢献していないけども、戦後、米国や旧ソ連などの軍用機開発に影響を与えている。
これは、以前の記事「ドイツ空軍計画機」で書いた通り。
ほかに、本書「ドイツ軍の小失敗の研究」では、メルセデスベンツ製のオフロード車「ウニモグ」が、大戦中の旧ソ連対策から生まれたという逸話が面白い。
ウニモグは、大型のタイヤを備え、車高が高い。
取扱店のウェブサイトによると、標準で前進8段、後進6段のギアを備え、最大で前進・後進とも24段までのギアシフトを装備できる。
高さ46センチの障害物でも乗り越えるという。
私は、航空機アクション漫画の傑作「エリア88」(新谷かおる)で、ウニモグを知った。
たしか「45度くらいの坂道でも登る」と紹介され、作中では、崖みたいな急勾配も登っていたので、とても印象深い。
ネット上の動画を見ると、川の中を走り、かなり高低差のある岸に上がっている。
これは、すごい。
本書「ドイツ軍の小失敗の研究」によると、欧米では自動車の普及に伴って道路の舗装が進み、1939年末時点で、主要幹線の舗装率は、米国39%、英国44%、ドイツ36%、フランス31%といった状況。
これに対し、旧ソ連は1%に満たなかったと推測されるという。
旧ソ連では、秋の長雨、春の雪解けの時季には、道路が泥の海のような状態になり、ドイツ軍の車両はこれに悩まされた。
旧ソ連軍は馬車を大量に保有して、物資の輸送に使っていたという。
ドイツ軍の要請で開発されたウニモグは、実戦投入が1944年末と遅すぎ、生産数も200台弱で、ほとんど活躍できなかった。
しかし、戦後、世界各地から注文が殺到。ドイツの復興に役立ったという。
私は、ジムニーみたいな車が大好き。
(以前、ジムニーに乗っていたけど、使い方が荒すぎて廃車になった)。
ウニモグは、ハマーとともに、いつか運転してみたい憧れの車だ。
(高すぎて買えないし、大きすぎて置くところもないけど)。







