
望月三起也「伝鬼」
魔物に魅入られた人妻を魔物と一緒に斬り殺してしまう場面が頭に焼きついた。
別に斬り殺さなくてもいいんじゃないの?と思うのだけど・・・
望月三起也の「伝鬼」は、剣と魔法の異世界が舞台の伝奇漫画。
この漫画家の代表作「ワイルド7」の主人公・飛葉と同じように本作の主人公・伝鬼は荒っぽくてクール、そして、女性に冷たい。
これまた、飛葉と同様に、仲間思いで優しい側面があり、ヒロインには素っ気ない態度を取りつつ、気遣うのだけど、それにしても、あの人妻の扱いは・・・
本作「伝鬼」は短編2話の作品で、短編集「冒険SF傑作選 伝鬼」に収録。

伝鬼は、この異世界で、女性を買って売りさばく人買いの少年だ。
第1話では、没落して貧しい元騎士の妻を買う。

ところが、この人妻たち売り物の女性と、物語序盤で知り合った謎の少女マリコが怪しげな秘密結社にさらわれてしまう。
マリコが気になって救出に向かうと、妻を取り返そうとした元騎士があっさりと秘密結社の番兵たちに殺されてしまう場面に出くわす。
秘密結社の基地に侵入すると、家族思いの普通の女性だったはずの妻が魔物に魅入られ、魔物との情事にふけっていた。
それで、伝鬼は魔物もろとも妻を斬り殺すという次第。
「人間の女のくせして、化け物のほうがいいのか。てめえの夫は、てめえを救うために命、賭けたんだ。女房がよがっているとも知らずによ」と。
悪いのは魔物だと思うんだけど。

「女性×暴行=堕落」というパターンは、中学生の頃に読んだ西村寿行の小説を思い出させる。
極限状態で、貞淑な女性が悪党に暴行され、堕落していく描写は、中学生には刺激が強すぎて嫌な気分になり、ちょっと、トラウマな作品。
タイトルがうろ覚え。
「滅びの笛」だったか、「鬼が哭く谷」だったか。
違うかも。忘れた。
本作「伝鬼」は、幸い、そこまで後味が悪くはない。
伝鬼は、人妻をあっさりと斬り殺す一方で、マリコが魔物の餌食にもならずに無事と知ると、デレデレ。
助けてくれて、ありがとうと抱きついてキスするマリコにボケをかますというギャグタッチの締めくくり。
このギャップは何なんだろう。

伝鬼とマリコの掛け合いは面白い。
実は、伝鬼は現代の現実世界の少年で、何らかの理由により、この異世界に来て、記憶を失っていた。
ジェット戦闘機に攻撃を受けるという悪夢に悩まされている(記憶を失っているため、これがジェット戦闘機だとはわかっていない)。
「毎晩、恐い夢を見るんだ。今夜も火を吹く鉄の鳥が…」と夢のことを話すと、マリコは「それはジェット戦闘機よ」と即答。
マリコも何らかの理由で、この異世界に来た人間だとわかる。
第1話最後のボケの「ジェット戦闘機って何なんだ」は、マリコの答えを思い出してのこと。
この物語は、あっけらかんとした性格のマリコが魅力的で、救いだ。
第1話の序盤では、魔物に眠らされてピンチのところ、伝鬼に救われる。
魔物に眠らされていたことに気づかないマリコの抗議にもよく表れている。
「汚いわよ。催眠の術をかけてまで私の肌、触りたがるなんて。好きなら、男らしく堂々と…そうすれば、私だって」と。

第2話では、危機を逃れるため、伝鬼の浮気相手を含めた、男×女×女の3人プレイに巻き込まれ、抗議する。
「私としては、こういう形で、伝鬼さんと結ばれたくなかったわ。私、女同士なんて、気色悪い」と。

本作「伝鬼」は、面白いのに、2話までしかなく、もったいない。
続きが読んでみたかった。
短編集「冒険SF傑作選 伝鬼」の収録作品では、「灰色の飢巣舌(ウエスタン)」も、主人公のクールさが目を引く。
巨大地震により、戦国時代のようになった世界が舞台。
一部の支配階級が贅沢な暮らしをして、多くの人々は、配給されるイモや捕まえたネズミを食べて生き延びているという状況。
主人公の憲兵隊長は、やはり、女性に冷たいキャラクターだ。
空腹の余り、イモ畑に侵入した敵の女性兵士が、お色気を引き換え条件に出す。
「このイモ、ひと口でいい。かじらせてくれ。待ってくれたら…」と。
主人公の手下がスケベ心丸出しで「少尉、聞いたでしょ。お先に…」と勧めるのだけど・・・
主人公は、イモをかじった女性兵士をあっさりと殺す。
お色気なしで。


この主人公が最後には、父親や弟たちのために命を捨てて、良いところを見せるのだ。
このギャップ・・・



