
同人誌を作ってきた中でも、ずっと、そうでしたが、私は「イラストをまとめた本」というのが、どうしても作れなくて。私の本分はイラストレーターだと思っていますが、いわゆるイラスト集がどうしても作れません。
それは常に、語りの部分や物語的な入り口を作ってこそ自分の本であり作品である、という感覚があるからだと思います。作りたい本の姿に、いつも物語的なセクションが含まれている、という感じです。
(以上、「マイガーランド」についてのメッセージから抜粋)
イラストレーター、マツオヒロミの企画展を見ようと島根県出雲市に足を延ばした。
レトロな和装の女性のイラストで知られる作家。
女性の憂いを帯びた表情が好きだ。
作品集は単なるイラスト集でなく、世界観やストーリー性があるのがいい。
架空の百貨店を紹介する作品集「百貨店ワルツ」しかり。
架空の雑誌の歩みを振り返る作品集「マガジンロンド」しかり。
ランジェリーをテーマにした作品集「マイガーランド」しかり。
イラストは、売り出しの広告やポスター、雑誌記事などの体裁を取っていて、エッセイが添えられていたりする。
もともと漫画家を志した作家で、漫画からテーマの世界に誘うという導入も秀逸だ。
この記事の冒頭のメッセージは、企画展の解説パネルから抜粋した。
作家の考えがよくわかる。
商業出版した作品集の第1弾「百貨店ワルツ」についてのメッセージも面白い。
以下に抜粋してみる。
もともとは今まで出した同人誌を一冊にまとめた商業本を出しましょう、というお話をいただいたことから始まりました。
それまでの同人誌はおおよそ大正時代、昭和初期の1920-30年代をモチーフにしているという共通点はあるものの、テーマとしてはバラバラだったので、一体どうしたものか、と。
さらには「ただの画集だとたくさん売れないですし、漫画のレーベルなので、漫画を入れましょう」というリクエストもありました。
一体どうしたものかと非常に頭を悩ませたのですが、百貨店という多種多様な売り物、売り場のある空間にすべてを収めればいい、百貨店を軸にして再構成すれば全部入るぞ!と思いつきました。
(以上、「百貨店ワルツ」についてのメッセージから抜粋)
百貨店をテーマにして収めればいいと思いついたのがすごい。
この発想が世界観やストーリー性のある作品集を次々と送り出す出発点だったわけだ。
この作家らしく、企画展にも趣向が凝らしてある。
「百貨店ワルツ」のコーナーでは、作品で描かれた靴を立体物として再現して陳列。
売り出しのポスターの体裁を取った作品は、本当のポスターのように壁に掛けてある。
各時代の「マガジンロンド」の表紙の原画は、本のように棚に並べてある。

原画のほか、下書きや線画も並べてある。
「マイガーランド」収録作品の手書き原稿を見比べると、右側の原稿から、左側の原稿になる過程で、女性のポーズが微妙に変わっているのがわかる。
2人の女性のどちらも、両足に均等に体重をかけるポーズから、片足に体重をかけるポーズに変わっている。

同人誌に載せた作品を、作品集に収めるに当たり、再構成したことがわかる展示も面白い。
この作家は、たとえば人物のイラスト単体でなく、文字や装飾を加えて、雑誌の1ページみたいに仕上げる。
だから、「Lovely but Lethal」という作品も、同人誌掲載の時点で、イラストだけでなく、短い物語が添えてある。
「マガジンロンド」に収録されたバージョンは、元のイラストに手を入れて映画のポスターにして、右側はその映画に関する雑誌の記事ページを新たに作ってある。

小説の表紙やポスターの原画も展示してある。
小説「後宮の悪妃と呼ばれた女」(浅海ユウ)の表紙の原画は、和装の女性を見慣れた目には新鮮に映る。
こういう作品も、もっと見てみたい。

同人誌も並べてある。
私は、「どらまちか」「ロマンチカ」の2冊は、ヤフオクで入手して持っているけど、知らない同人誌も多い。
そのうち「百貨店ワルツ副読本」は欲しくなり、Amazonで見つけたけど、プレミアが付いていて、法外な高値(1万4870円)。ちょっと、手が出ない。
展示会場でグッズが売れており、おそらく最新の同人誌「FLLAPPER」を買った。コスメ本の準備号という設定。
また、ゆっくりと見てみたい。


<メモ>
「マツオヒロミ展」は、島根県出雲市の平田本陣記念館で、2026年1月25日まで開催。午前9時~午後5時。休館は火曜と年末年始(12月29日~1月3日)。入場料は一般1000円、高校生以下無料。

