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「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」 似た者同士の関係は、いったん、すれ違いが起きると急速に壊れる 「笑顔」の魅力も興味深い

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」漫画・藤堂裕、原案・明智憲三郎

新聞社に入って1年目の頃に付き合った女性(大学生)を思い出した。

合コンで出会った時からウマが合い、お互いに一目惚れ。

ものの考え方や感じ方がよく似ていたから「もしかして、〇〇が好き?」「そう!なんで、わかったの?」という感じで会話が弾み、急速に惹かれ合った。

付き合いは半年も続かなかった。

私に落ち度があるのだけども、ある事ですれ違いが生じると、彼女の気持ちが急速に冷め、うまくいかなくなった。

冷却期間をおいて、ヨリが戻りかけたけども、彼女の大学卒業で縁が切れた。

 

このように、似た者同士の関係は、うまくいっている時はいいけども、いったん、すれ違いが起きると、急速に壊れてしまうと思う。

しょせん、相手は自分と違う人間なのに「わかってくれる」「これくらい、いいだろう」と過度の期待や甘えが生まれてしまうから、すれ違いが起きると、失望が大きい。

 

漫画「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」(漫画・藤堂裕、原案・明智憲三郎)を読むと、こんなことを考えさせられる。

 

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日本史最大の謎とも言われる事件「本能寺の変」は、もともと織田信長が徳川家康を殺すために仕掛けた罠で、これを逆手に取って、光秀はひそかに家康と通じて、信長を殺す策に利用する───という見方がストーリーの根幹。

信長を慕いながらも、大きすぎる野望を止めるには殺すしかないと考えるに至る、光秀の苦悩が描かれる。

 

この物語は、主人公の光秀が本能寺の変の後、信長をしのぶ場面から始まる。

「信長様を理解できない者には、魔王のように思えたかもしれぬ。だが、わしがそばで見た信長様は、中国の王や聖人を目指した御方だった」と。

 

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」より。信長をしのぶ光秀

そして、時をさかのぼる。

光秀と信長は出会った時から惹かれ合う。

光秀は、桶狭間の戦いを知って信長の智勇に興味を持ち、実際に出会って屈託のない笑顔に惚れる。

信長は、桶狭間の戦いを分析して称える光秀に興味を持ち、本圀寺の合戦で光秀の智勇に惚れる。

<桶狭間の戦い>弱小勢力だった頃の信長が少数の兵で大軍の今川義元を破った

<本圀寺の合戦>信長が擁立した将軍・足利義昭が敵の大軍に襲われ、光秀が少数の兵で奮闘して守った

 

2人は「孫子」「韓非子」を引き合いに出して戦略を語り合い、みんなが平和に暮らせる世の中をつくろうと誓う。

光秀は、信長に「予の一番の理解者」だと可愛がられる。

信長の家臣としては中途採用者でありながら、古参の重臣たちを抜いてナンバー2的なポジションに抜擢される。

しかし、身内や同盟者の度重なる裏切りで人間不信を抱く信長は「信賞必罰」を徹底し始める。

悪辣な手段を使ってでも功績を上げた者を褒め、古参の重臣でも功績を上げなければ解雇するという風に。

 

さらに、天下統一の後に中国に攻め込むという「唐入り」を計画。

天下統一で平和な世の中になれば十分だった光秀は対立し、信長殺害を決意する。

 

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」より。信長と光秀の対立その1

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」より。信長と光秀の対立その2

一方で、信長は、同盟者・家康を将来、謀反の恐れのある人物とみて、殺そうと計画。

光秀は、家康殺害に同調したふりをして「家康の謀反をでっち上げるために、信長の護衛を手薄にして招く」といった策を信長に考えさせるよう、誘導する。

そして、本能寺の変に至るという展開だ。

 

本能寺で襲撃を受けた信長は、相手が光秀だと知り、驚く。

自分の殺害計画を自分が立案させられたと気づくと、「予は、予自ら死を招いたな」と、つぶやき、観念する。

「光秀め…貴様の術中にまんまとはまったか」と心中、光秀の知謀に舌を巻き、笑みを浮かべる潔さが、信長らしくて、かっこいい。

 

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」より。信長の最期その1

自害する時の内心の言葉も、光秀への信頼を感じさせる。

「予は見ておった…果てのない天下を統べ…王となった予のかたわらに…貴様が立っている夢をな」と。

 

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」より。信長の最期その2

一方で、本能寺を取り囲んだ光秀は、信長を思って、静かに涙を流す。

これは、せつない。

 

この物語で、光秀は、信長に劣らない智勇の持ち主だ。

敵軍をかくまった延暦寺の焼き打ちは、光秀が立案する。

悪辣な高利貸しをし、酒も色もありの延暦寺を焼いても、非難されるいわれはない旨、説いて。

寺を攻撃すると世間体が悪いとためらっていた信長は「さすがは十兵衛(光秀)。小気味よいわ」と感心して笑う。

信長が最も恐れた強敵・武田信玄との決戦は、光秀が背中を押す。

弱気になり、天下統一の夢を諦めかけた信長に、光秀は言う。

「武勇を捨て、臆した信長様は、麒麟にあらず」と。

こんな光秀だから、信長に信頼された。

 

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」より。信長を勇気づける光秀その1

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」より。信長を勇気づける光秀その2

この物語で、信長は、わがままで非情だけども、人を惹きつける人物として描かれる。

光秀が「笑顔に惹かれた」と言い表しているのが興味深い。

 

「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」より。信長の笑顔

実際、そういう魔性の笑顔の人は世の中にいる。

おそらく本人は無意識なのだろうけども、笑顔がくせ者だ。

私が出会った中では、大学時代に惚れかけた女性(バイト先の先輩)がこのタイプ。

勝ち気で、ズケズケと物を言う人だけども、屈託のない笑顔がとても可愛い。

私は、この物語の信長を見て、この女性を思い出した。

 

この物語の信長は、なかなか魅力的。

主人公は光秀だけども、私は、光秀の視点で見た信長の物語だと思って、読んだ。

信長の死後も話が続くけども、信長の死までが面白い。

光秀は、再評価されていい歴史上の人物だとは思うけども、物語の主役にはなりにくい人物なのかな~と感じた。

 

ちなみに、大河ドラマ「麒麟がくる」では、私は、主役の光秀より、斎藤道三がお気に入り(このドラマの信長は嫌い)。

 

 

そもそも、道三は物語の主役になれる人物だと思う。

実際に、本宮ひろ志が道三を主役にした漫画「猛き黄金の国 道三」を描いている。

これは、なかなか、面白い。

道三がとても魅力的で、さまざまな女性との関係が読みどころ。

 

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漫画「信長を殺した男〜本能寺の変431年目の真実〜」は、光秀と信長の二人三脚の関係とその崩壊に主眼を置いた物語なので、本能寺の変で信長が死ぬという展開がふさわしいと思うけども・・・

信長が中国に進出していたらどうなったかを想像すると、面白い。

 

その空想を満たしてくれるのが、本宮ひろ志の「夢幻の如く」。

信長が本能寺の変で死なずに、大陸に進出し、最後はヨーロッパ諸国と戦う。

この物語の信長は、本宮漫画らしいスケールの大きなキャラクター。

基本的には豪快だけども、思慮深い面もあり、東洋と西洋の思想の比較など興味深い発言も飛び出す。

この漫画については、年明けに書く。

 

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