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「ゴージャス★アイリン」荒木飛呂彦 第1話と第2話でアイリンの印象が違うのが面白い 悲しみを秘めた第2話のアイリンが好き

「荒木飛呂彦短編集 ゴージャス★アイリン」

「ゴージャス★アイリン」荒木飛呂彦

私は一方で、自分の心を隠すために化粧をするの

家族や仲間が死んだ悲しみを隠すため

血に潜む殺し屋の性質を隠すため

そして、すべてを信じる

心の底から

(「ゴージャス★アイリン」第2話より)

 

漫画家・荒木飛呂彦の短編「ゴージャス★アイリン」は、わずか2話しかないけども、とても記憶に残る傑作だ。

何でも信じやすく、自己暗示にかかりやすい少女で、暗殺者のアイリンが主人公。

化粧によって、肉体や性格すら変えてしまい、老婆にでも異人種にでもなりきる。

そのアイリンの印象が第1話と第2話で違うのも、面白い。

「変身」を扱う、この作品ならでは、なのだろうか。

 

 

私は、悲しみを秘めた第2話のアイリンが好き。

この記事の冒頭に引用した第2話の悲しみアイリンのセリフがいい。

「そして、すべてを信じる。心の底から」が特にいい。

悲しみ、つらい宿命を忘れるために装い、かりそめの姿に安らぎを見いだす感じが、すごく出ている。

 

「ゴージャス★アイリン」より。第2話のアイリンその1

解離性同一性障害(多重人格障害)を描くノンフィクション「24人のビリー・ミリガン」(ダニエル・キイス)や漫画「I‘s(アイズ)」(庄司陽子)が思い浮かぶ。

「24人のビリー・ミリガン」では少年ビリーが、「I‘s」では少女・唯が、性的虐待といった受け入れがたい過酷な現実から、自分の心を守ろうとして、無意識のうちに別の人格を出現させてしまう過程が描かれる。

アイリンの場合は、自ら意図的に別人格を作り出しているという点では、ビリーや唯とは異なるけども、悲しみや過酷な現実が背景にあるという点は、共通する。

 

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「ゴージャス★アイリン」第2話は、スラム街に住む、ちょい悪な少年マイケル(心根は優しい)の前に、身寄りをなくした、か弱い少女としてアイリンが現れ、ひょんな経緯から共同生活が始まる。

アイリンは、マフィアに命を狙われている。

マイケルと一緒にいたところ、襲ってきた殺し屋に立ち向かい、「戦いのメイク」をする場面で、発するのが冒頭のセリフだ。

アイリンが、か弱い少女どころか、凄腕の暗殺者だと、わかって、驚くマイケル。

「だますつもりはなかったの。心の底から装わなければ生きていけない」という、アイリンのセリフが、これまた、深い悲しみやつらさを思わせて、心に響く。

「信じるよ」と受け止めるマイケルは、いい男だ。

 

「ゴージャス★アイリン」より。第2話のアイリンその2

第1話のアイリンは、印象が違う。

第1話の冒頭で、引用されたジャン・コクトーの言葉が、物語る。

(以下、引用)

 

彼女は嘘をつく

自分の体で

頭で考えだした

背景の嘘なんかよりは巧みに

ジャン・コクトー

(以上、引用)

 

「ゴージャス★アイリン」より。第1話の冒頭の言葉

この言葉のように、クールで妖艶なイメージ。

第1話のアイリンは、老婆になりきって、殺しのターゲットである大女ローパーの屋敷に召使いとして入り込む。

正体を明かして、銃撃を受けても、けろりとして、手のひらから銃弾を落とすところも、「死の舞踏」でローパーに催眠術をかけてトドメを刺すところも、クールで妖艶だ。

 

「ゴージャス★アイリン」より。第1話アイリン

第1話のクールアイリンも魅力的ではある。

でも、深みは、あまりない。

漫画「ガラスの仮面」(美内すずえ)の主人公マヤを、あまり好きになれないのと一緒で、クールアイリンも、何というか、人間味が乏しい。

(ちなみに、マヤは、天性の才能だけで、あっさりと勝負に勝ってしまったりするタイプ。いくら頑張ってもマヤに勝てずに悩む努力家のライバル・亜弓が、私は好きだ)。

 

ガラスの仮面 49

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作者はそこに気づいて試したのだろうか。

第2話では、アイリンのキャラクターを変えてきた。

あえて変えたのだと想像する。

 

「魔少年ビーティー」「バオー来訪者」「ゴージャス★アイリン」「ジョジョの奇妙な冒険」と連載作品を放ってきた、荒木漫画の進化の過程としてとらえても、興味深い。

 

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「魔少年ビーティー」の主人公ビーティーは、クールで悪の香りもほんのり漂わせる。

「バオー来訪者」は、悲しく過酷な宿命を背負った育朗(バオー)が主人公。

ビーティーやクールアイリンの延長線上にあるのが、「ジョジョの奇妙な冒険」で主人公の強力なライバルとして立ちはだかるディオだと思う。

この路線のキャラクターは、物語の魅力を高めるけども、主人公ではないな、と作者は判断したのだろう。

だから、ディオは、ビーティーやクールアイリンとは違って、完全に悪役に振り切っており、その結果、ダークヒーロー的な魅力を醸す人気キャラクターになった。

 

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育朗や悲しみアイリンの延長線上にあるのが「ジョジョの奇妙な冒険」の歴代主人公か。

強力な悪と戦うという過酷な宿命を背負った主人公ということで。

とりわけ、「ジョジョ」第1部では、この点を強調している。

第1部の主人公ジョナサンについて、「(「波紋」のための特殊な呼吸法をずっと続けていられるのは)過酷な宿命を背負っているから、できることだ」という旨のセリフを師匠のツェペリが放っている。

(仲間のスピードワゴンが、俺も力になりたいから波紋を教えてと言った時に、おまえには無理だと、ツェペリが言い聞かせる場面)。

 

作画の面でも、「ゴージャス★アイリン」は、「バオー来訪者」と「ジョジョの奇妙な冒険」の間をつなぐ作品として、興味深い。

 

「バオー来訪者」で育朗の仲間の少女スミレが成長ような顔立ちのアイリン。

しかも、「バオー来訪者」でスミレの肩に乗っていた小動物ノッツォを思わせるリスが、アイリンの肩には乗っている。

第2話のマイケルは、「ジョジョの奇妙な冒険」第1部のジョナサンにそっくり。

同じく第2話に出てくる薬物の売人は、「ジョジョの奇妙な冒険」第2部で主人公の仲間になるシュトロハイムにそっくり。

第2話で、敵の殺し屋が部屋の窓ガラスを破って襲ってくる場面は、「ジョジョの奇妙な冒険」第1部で、ディオが吸血鬼になって復活し、窓から入ってくる場面を思わせる。

そして、「ジョジョの奇妙な冒険」で存分に発揮される独特のファッションセンスや遠近感を超越した独特の構図は、「ゴージャス★アイリン」でも、一端がうかがえる。

 

わずか2話の短編作品ではあるけど、荒木漫画を知る上で重要な作品のひとつだと思う。

 

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