
「カツオ・マグロのひみつ」阿部宏喜
私は3歳くらいの頃、銭湯で溺れて死にかけた。
水の音や浮遊感を今でも覚えていて、おそらく私の人生で最も古い記憶。
そのせいで、水中が苦手になり、泳げない。
なのに、海には惹かれる。
夏の夜は、故郷・鳥取市から近い鳥取県岩美町の浦富海岸に行き、漁り火を眺めるのが好きだった。
冬の夜は、鳥取砂丘からそう遠くない岩戸海岸に行き、防波堤に当たって砕ける日本海の荒波を眺めるのが好きだった。
広大な海には、人類が探検しきってない秘境のイメージがあり、好奇心をそそられる。
海の神秘の一端をその「住人」の生態を通じて垣間見させてくれるのが、水産学者・阿部宏喜の著書「カツオ・マグロのひみつ」。
マグロと言うと、近年は資源減少や漁獲規制といった深刻な話ばかりだけど、外洋をパワフルに泳ぎ回る雄姿に思いをはせ、楽しんだ。
本書によると、マグロやカツオは、エサに襲いかかる時などに高速で泳ぐことができ、マグロの場合で時速100キロ程度。
これは魚雷に匹敵する。
一方で、金魚などと違って口やえらをぱくぱく動かして呼吸できない。
口を少し開けて水を取り込みながら泳ぎ続けないと窒息死する、という。
眠っている時も泳ぎ続けるのだから、原子力潜水艦のイメージがだぶる。
魚の筋肉が「普通筋」と「血合(ちあい)筋」に大別される。
マグロやカツオは、血合筋が体表近くだけでなく、中骨近くに「深部血合筋」として大きく発達しているのが特徴だという。
刺し身でなじみ深い赤身は普通筋で、哺乳類で言えば、瞬発力に優れた「白筋」に相当。どす黒くてキャットフードなどに加工される血合筋が、持続力に優れた「赤筋」に当たるのだとか。
こう説いたうえで、本書は、ずっと泳げる心臓の強さや、速く泳げる紡錘形の体形、暖かい海から寒い海まで活動域を広げる独特の体温保持システムなどについて、次々と、ひもといていく。
最も興味深いのは、変温動物の魚類では異例な、独特の血管構造による「体温保持システム」だ。
運動して温かい深部血合筋から、えらに向かう静脈と、えらを通って水温に冷やされた動脈が網目構造になって対向して走る。
この網目構造によって、静脈が動脈を温め、メインエンジンの深部血合筋には、常に温かい動脈血が供給される構造。
水温が19・3度なのに深部血合筋が31・4度という測定例もあるのだとか。
まさに、泳ぎ回るために進化した魚の極致。
本書表紙イラストのように、泳ぐメカに見えてくるから面白い。
