
「火星のプリンセス」E・R・バローズ 訳・厚木淳
「A Princess of Mars」Edgar Rice Burroughs
異世界に行ってヒーローになるという、子ども心をわしづかみにする物語。
いや、きっと、大人も虜になる。
善人と悪人がはっきりとしている等、登場人物の性格が単純。
ご都合主義的な展開もある。
たぶん、こうなるんだろうな・・・あ、やっぱり、という感じで、わかりやすい。
たとえば、主人公が誤解を招いて一時、ヒロインに嫌われてしまっても、主人公がピンチの時にはヒロインが命懸けで救い、仲直りするといった調子。
安心して、ドキドキ、ハラハラできる。
作者は、私が大好きなお笑い芸人・志村けんが説く「マンネリ精神」の神髄を究めていると言えるかもしれない。
私が大好きな復讐の要素もある。
何より、せつなくて余韻のあるラストが素晴らしい。
小説「火星のプリンセス」は、米国の元騎兵大尉が超常的な力で突然、火星に迷い込み、火星人の美女を助けて敵対勢力と戦い、英雄にのし上がるストーリー。
「SF」という言葉もまだなかった1917年に作家E・R・バローズが放ち、スペースオペラの古典的名作とされる。
小学生の頃に学校の図書室で借りて、読んだと思う。
内容は、ほとんど忘れていたけども、タイトルは覚えていた。
記事「運営者の横顔(3)本好きの原点(下)」を書いて、懐かしくなり、Amazonで文庫本を購入した。
導入が若干、かったるいけども、主人公が火星に行ってからはテンポよく話が進み、しかも面白くて、一気に読破した。
主人公ジョン・カーターが物語冒頭で、ネイティブ・アメリカンに襲撃されて逃走中に仮死状態になり、目が覚めたら、火星にいたという、すごい展開。
なぜ、火星に行けたのか、仕組みは一切、説明されない。
「いんだよ、細けえことは」と、松田鏡二(平松伸二「ブラック・エンジェルズ」)のように、おおらかに受け止めておきたい。
そもそも、なぜ、火星で呼吸ができているのか、ジョンが当初、全く疑問に思わない点も、おおらかだ(火星人は大気製造工場を持っていることが、のちにわかる)。
火星は地球より重力が小さいため、ジョンは、驚異的なジャンプ力を発揮し、力も火星人より強い。
漫画「大長編ドラえもん のび太の宇宙開拓史」(藤子・F・不二雄)を思い出した。
この漫画では、地球より重力が小さい世界が舞台となり、のび太はスーパーマンとして、大活躍する。
「火星のプリンセス」が描く火星では、火星人は卵から生まれて千年くらい生きる。
そして、地球人に姿がそっくりで平和的な「赤色人」、巨体で腕4本という姿で、好戦的な「緑色人」など、いくつかの種族に分かれている。
火星に来たジョンは驚異的なジャンプ力を珍しがられ、緑色人の一部族「サーク族」に捕まる。
緑色人は、好戦的なうえに冷酷非情な性格なのだけど・・・
たまたま、ジョンの世話係となった緑色人の女性ソラは、例外的に優しい。
ジョンの味方となり、逃亡を助ける。
小説「ガリバー旅行記」(ジョナサン・スウィフト)の「巨人の国」で、ガリバーの世話係をする優しい少女グラムダルクリッチを思い出した。
(この話の最後で、ガリバーは巨大な鳥にさらわれて元の世界に戻るのだけど、たしか、ガリバーは、グラムダルクリッチが悲しんでいるだろうと気遣っていたと思う)。
ジョンを捕らえたサーク族の副首領タルス・タルカスも、根は良い人。
2人は友情を結ぶ。
「火星のプリンセス」のヒロインは、赤色人の「ヘリウム王国」の皇帝の孫で、絶世の美女デジャー・ソリス。
ジョンは、緑色人サーク族の捕虜となったデジャーを見て、一目惚れ。
一緒に脱走しようと企てる。

タルス・タルカスは、脱走計画を察知しながら、こっそりとデジャーの足かせを外す。
なぜ、そんな気持ちになったのかは、よくわからない。
映画「コナン・ザ・グレート」(1982年、米国)では、奴隷(剣闘士)の身となっていた主人公コナンを、主人である奴隷商人が、ある夜、逃がす。
この奴隷商人は、コナンが胸に秘める野心を知り、「どこまでやれるか、やってみろ」という気持ちで逃がしたのだと思う。
タルス・タルカスも、そんな気持ちだったのだろうか。
そして、ソラは、ジョンやデジャーの脱走を手助けし、一緒に逃げる。
しかし、逃走中、3人は緑色人の一部族で、より凶暴な「ワフーン族」に襲撃される。
ジョンは、追っ手を食い止めるために残り、デジャーとソラに逃げるよう言う。
デジャーは「ここに残って愛する人とともに死にます」と、すがる。
2人は初めて口づけを交わす。
韓国のメロドラマか?と思うようなベタな展開で、単純な私は、素直に感動。
デジャーの言葉を聞いて、ジョンは、もう満足。
ソラに力ずくでデジャーを連れて行かせる。
その後、生き延びたジョンは、デジャーと再会するのだけども・・・
ジョンが死んだと思い込んでいたデジャーは、さっき、赤色人の隣国「ゾダンガ」の王子と婚約したばかりという絶妙なタイミング。
デジャーの母国ヘリウム王国が、ゾダンガに攻められており、母国を守るため、デジャーは、仕方なしに政略結婚を受け入れたところだった。
気が動転したジョンは「じゃあ、王子、殺してくるわ」という旨の提案をサラリとするのだけども・・・
デジャーによると、赤色人の掟で、女性は、夫(婚約者含む)を殺した相手とは結婚できない。
うーん、困った・・・
この記事では、クライマックスの展開は伏せておく。
最終的にジョンとデジャーは結ばれる。
2人の間には、可愛い卵もできて、孵化を待つばかり。
しかし・・・
何者かの攻撃により、大気製造工場が機能しなくなり、このままでは、火星のみんなが窒息死するという危機的な事態が発生。
ジョンは、大気製造工場を復活させるため、技術者を連れて向かうけど、修復作業の途中、呼吸困難のため、倒れて意識を失う。
そして、目が覚めたら、元の米国にいた。
ジョンが夜空を見上げてデジャーを思う、ラストの場面を抜粋する。
あの火星人は、無事ポンプ室にたどり着いただろうか?
あの遠い惑星の人々の命を救うのに空気は間に合っただろうか?
わたしのデジャー・ソリスは生きているだろうか?
それとも彼女の美しい体は、ヘリウムの皇帝タルドス・モルスの宮殿のくぼ地の花壇にある、小さな黄金の孵化器の横に冷たい骸となって横たわっているのだろうか?
(中略)
机の横の小窓から火星が輝いているのが見える。
アリゾナの長い不気味な一夜以来、私を招いたことのなかった火星が、今宵は再び、私を呼んでいるような気がする。
あの果てしない宇宙空間を越えて、美しい黒髪の女性が幼い男の子を連れて宮殿の前に立ち、彼女にまといつく子どもに、空の彼方の惑星・地球を指さしている姿が見えるようだ。
そして、2人の足元には醜怪な体に黄金のような心を持った巨大な獣がいる。
彼らは、かの地で私を待っているのだ。
そう、私は信じている。
そして、もうすぐ、それを確かめることができるのだという気がしてならない。
(以上、抜粋)
せつない。
そして、ロマンチック。
きっと、2人は再会できたのだろうなと想像させ、希望と余韻のあるラストだ。
これは、涙が出る。
「劇場版マクロスF〜サヨナラノツバサ〜」(2011年)のラストを思い出した。
(主人公が本命ヒロインに告白した直後、どこかにワープする敵に巻き込まれて行方不明になる。その後、本命ヒロインは病気のため眠り続けていて、当て馬ヒロインが主人公の帰りを待っているという結末)。
なお、私が買った「火星のプリンセス」の文庫本は、続編である第2作、第3作を含む3冊を1冊にまとめた合本版。
第2作「火星の女神イサス」では、ジョンが再び火星に行き、2人が再会する。
しかし、デジャーが囚われの身となり、生死不明という終わり方。
第3作「火星の大元帥カーター」では、デジャーを救出し、ハッピーエンド。
良かった。



