
「孤独のグルメ」原作・久住昌之、作画・谷口ジロー
「松屋はないが松葉がある」
鳥取県が、松葉ガニといった地元の食をPRするキャンペーンを始めた。
3月に全国チェーンの牛丼店「松屋」が島根県に進出して、鳥取が全国唯一の空白県になったのを逆手に取った。
かつて、「スタバはないけどスナバ(鳥取砂丘)がある」と発言して話題を呼んだ平井伸治知事らしいPR戦術(当時、鳥取は全国唯一のスターバックス空白県だった)。
今回のキャンペーンでは、来季の松葉ガニ付きの鳥取旅行券が抽選で当たる。
X(旧Twitter)の鳥取県公式アカウントから応募できる。
PR動画も面白い。
松葉ガニや鳥取和牛のほか、「まつや」(私の故郷・鳥取市のローカルフード「ホルモンそば」の名店)も紹介しているのには、頰が緩んだ。
(キャンペーンは4月16日まで)。
ホルモンそばは、ホルモン入りの焼きそばで、焼き肉のたれのような醤油系あるいは味噌系のたれで味が付けてある。
鳥取市は焼き肉店や鉄板焼き店が多く、ホルモンそばは締めの定番。
たれは店によって個性がある。
「まつや」は醤油系(小皿で出てくるたれにホルモンそばを漬けて食べる)。
私の好きな店「御縁」は味噌系だ(最初からたれが絡んだ状態で出てくる)。

このブログで何回か書いてきたけど、鳥取市は田舎なので、あるもので何とかしようという精神が発達していて、独特のローカルフードがいろいろとある。
郷土料理です、と観光客に差し出せるような、しゃれたものはない。
市民が喜んで食べているだけのB級グルメばかりだ。
しかも、「ホルモンそば」(ホルモン焼き+焼きそば)、「カツ丼カレー」(カツ丼+カツカレー)、「素ラーメン」(うどんスープ+ラーメンの中華麺)のような、割とシンプルな発想の品ばかり。
料理というより食材だけども、「とうふちくわ」(とうふ+ちくわ)も名物。
(鳥取市民はちくわが大好きで、チーズ入りはもちろん、ネギ入り、生姜入り、焼きサバ入り、カレー味、お好み焼き風など地元メーカー製の多彩な品がある)。
合体させただけかい!とツッコミたくなるところだけど、素朴な市民性を反映したものだと、ご理解いただきたい。
この鳥取市の素ラーメンが人気漫画「孤独のグルメ」(原作・久住昌之、作画・谷口ジロー)で取り上げられ、私は感激した。
さすが、谷口先生(鳥取市出身)だと。
この漫画の主人公・井之頭五郎が好奇心旺盛で、自由な精神の持ち主だからこそ実現したと言えるかもしれない。
素ラーメンが登場する話は、単行本第2巻に収録。
仕事で鳥取市を訪れた五郎が、鳥取砂丘を歩く場面から始まる。
五郎と案内者のやり取りを以下に抜粋してみる。
五郎「なんだか不思議な光景だなあ。シュールな絵がジワジワ動いているみたいな・・・なんと言ったっけ、あの写真家、砂丘の」
案内者「植田正治ですか?」
五郎「そうそう。なんだか、彼の写真の中に入り込んだような、夢の中のような、妙な感じ」
(以上、抜粋)
セリフの中にさりげなく、鳥取県境港市出身の写真家の名前をしのばせてPR。
さすが、谷口先生。

例によって腹が減った五郎は、案内者に勧められた素ラーメンを食べるために、鳥取市役所の食堂に向かう。
素ラーメンは市内の老舗食堂「武蔵屋食堂」が考案したとされる。
私は、武蔵屋食堂の素ラーメンのほうが好きなので、なぜ、市役所食堂の素ラーメンを取り上げたのかなと当初は疑問に感じたものだ。
おそらく、こうではないか。
市役所食堂のメニューになるほど、素ラーメンは市民に親しまれる存在だと強調したかった、と。

あるいは・・・
この話の初出は「週刊SPA!」2012年5月15日号。
市役所本庁舎の新築移転が市議会や市民を二分する論争となり、別の場所に新築移転か、現地での耐震改修かを問う住民投票が行われようとしていた時期だ。
このような政治的な背景を踏まえて描かれたものだと想像すると、楽しい。
住民投票は2012年5月20日に行われ、現地耐震改修が多数に支持された。
しかし、当時の市長が住民投票は前提条件がおかしいから無効だと言い出して、また、もめた。
その後も紆余曲折を経て、新築移転が決まり、新しい本庁舎が2019年に開庁した。
だから、この漫画に描かれた市役所本庁舎は、現在はない。
その意味で、この漫画で描かれた旧本庁舎の玄関前の風景、玄関ホールや市役所食堂の様子を眺めると、懐かしい。
おそらく、谷口先生は、住民投票結果がどうなろうと、新築移転が強行されるだろうと見越し、せめて漫画の中に旧本庁舎の姿を残そうとしたに違いない・・・と妄想が膨らんだ。
素ラーメンがどんなものかは、漫画で描かれている通り。
うどんスープに中華麺で、天かす、モヤシ、ネギ、カマボコをトッピング。
市役所食堂の素ラーメンが「スラーメン」と全部カタカナ表記なのも、漫画の通り。

補足説明するとすれば・・・
私が好きな武蔵屋食堂の素ラーメンは、うどんスープが甘くて優しい味。
市役所食堂のスラーメンは、スープが甘くない。
漫画に出てくる案内者は、コショウをかけて食べるように勧めており、それは市役所食堂のスラーメンには合うと思う。
武蔵屋食堂の素ラーメンには、コショウは合わない。
市役所食堂で好きだったのは、夏季限定の「冷やしラーメン」。
冷たく作ったスラーメンに、ごま油をかけてある。これが絶妙なコンビネーションを発揮し、食欲をそそる。
漫画で、五郎は「これ、おやつ麺として、スゴクいいんじゃないか?」と感じているけども、まさにその通り。
一般的なラーメンと比べて、軽いのが素ラーメンの良さだ。
五郎は「おやつすぎて、物足りない」とカレーを追加で頼んで、腹いっぱいになり、「食べすぎた」と反省している。
このへんの描写も、リアルだなと思う。
素ラーメンを知り尽くした谷口先生ならでは。
私は、武蔵屋食堂では、名物の「カツ丼」(ケチャップ味のあんをかけたご飯に、牛肉のカツが乗り、パセリとトマトが添えてある)と、「半素ラーメン」(小盛りの素ラーメン)を頼む。
このくらいがちょうどいい。

スタバはその後、鳥取県にも進出した。
松屋もいずれ進出してくるだろう。
なんだか、鳥取が都会と変わらなくなっていく気もする。
私が大好きだった「因幡っ子」のカツ丼カレーは、大手コンビニの進出に押されて因幡っ子が消えてしまい、もう食べられなくなってしまった。
素ラーメンやホルモンそばは今後も末永く市民に愛され続けてほしいものだ。
(以下の記事「なぜ、日本人はラーメンに引かれるのか」の中で、武蔵屋食堂の素ラーメンやカツ丼、御縁のホルモンそばに言及あり)
(以下の記事「鳥取市はカレー好きの町」の中で、因幡っ子のカツ丼カレーに言及あり)
(以下の記事「正月の過ごし方」の中で「親がに丼」に言及あり)
(以下の記事「ちいかわ&鬼滅の刃」の中で「親ガニのみそ汁」に言及あり)
