てっちレビュー

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「ナショナルジオグラフィック2025年11月号・人間と冬眠」 クマやリスの冬眠の仕組みを解明して応用できれば、宇宙旅行だけでなく病気の予防・治療にも役立つ

「ナショナルジオグラフィック」2025年11月号

「ナショナルジオグラフィック」2025年11月号

漫画家・手塚治虫の名作「火の鳥」に、人間の体温を下げて代謝を抑えた状態で眠らせる「人工冬眠(冷凍睡眠)」が出てくる。

長期間、旅する宇宙飛行士の老化を防ぎ、食料等の積み荷を減らす手段として・・・

同じ作者の「ブラック・ジャック」にも出てくる。

現代の医学では治療できない難病患者のカップルを、治療方法が見つかるであろう未来へ旅させる手段として・・・

 

「火の鳥 宇宙編」より。人工冬眠から覚めた宇宙飛行士

www.tetch-review.com

「ブラック・ジャック」の一編「未来への贈りもの」より

 

人工冬眠は実用化されていなくて、今のところ、SFの世界の技術だけども、クマやリスのような野生動物の冬眠のメカニズムを探る研究が進んでいるという。

 

SFの人工冬眠が、体温を下げて生命を維持する装置を必要とする、文字通りの「人工的な冬眠」であるのに対し、野生動物の冬眠は、そんな装置を必要としない。

しかも、自分で元通りに目覚める。

 

もし、冬眠が人間に活用できれば、その恩恵は宇宙旅行、難病治療だけではない。

たとえば、脳卒中や心臓発作の患者を救急搬送中、薬剤を注射するだけで冬眠状態に陥らせる技術が確立されれば、患者の救命率が高まるという。

雑誌「ナショナルジオグラフィック」2025年11月号の特集「人間と冬眠」を読んで、わくわくした。

 

 

特集では、クマを例に冬眠の謎を列挙している。

 

たとえば、クマは冬眠前に食べまくって体脂肪を40%も増やし、冬眠中はじっとして過ごす。

人間だったら、肥満や糖尿病につながる行為だけども、クマは、そうならない。

クマの場合は、体脂肪を増やすと言っても、内臓脂肪(健康リスクが高い)ではなく、ほとんど皮下脂肪(健康リスクが低い)として蓄えるように、体ができている。

そして、冬眠中は血液中の糖でなく、体脂肪をエネルギーに使う仕組みだという。

 

たとえば、人間は入院して1週間ほど、動かずにいただけで筋肉が落ちてしまうけども、冬眠中のクマは、そうならない。

冬眠中のクマは、何らかの方法でタンパク質とアミノ酸をリサイクルし、骨密度を維持したり、新しい筋肉を作ったりする。

尿素に含まれる窒素を腸内微生物が取り込んで、アミノ酸を作っている可能性があるという。

 

たとえば、クマは毎分80~100回の心拍数が冬眠中は10回程度に減る。

人間なら、血栓が生じ、心停止や脳卒中を起こしかねない状況だけども、クマは、そうならない。

クマには、タンパク質の凝固を遅らせ、血栓の形成を妨げる遺伝子がある。

冬眠中は、血液を凝固させる血小板が著しく減少するという。

 

このような説明を見ると、そもそも、人間とは体の仕組みが違うから、人間に冬眠は無理じゃないかという気持ちになるのだけども・・・

これらのメカニズムを解明して、人間に応用できれば、肥満や糖尿病の治療とか、入院時の筋肉量減少の防止に役立つかもしれないというのは面白い。

 

睡眠中に体温を調節する脳の回路を特定する実験で偶然、発見された「冬眠スイッチ」の研究も、興味深い。

ラットの脳内のある神経細胞がそうだとみた研究者が、薬でこの神経細胞を一時的に働かなくすると、ラットは極度の低体温状態になり、仮説は実証された。

ところが、6時間経ってもラットは生き続けた。

そして、ラットを温めると、何事もなかったかのように行動し始めたという。

 

本来、ラットは冬眠しない。

この研究者は考えた。

「冬眠しない動物を安全に冬眠状態に導けるなら、人間でも同じことができるのではないか」「実は、この冬眠スイッチは、人間とか、多くの動物にあり、冬眠回路とつながっていたけど、進化の過程でその接続が切れたのではないか」と。

そして、その研究を続けているという。

 

この視点はすごい。

もともと、野生動物の冬眠は、寒くて体温を維持するのが難しく、エサも手に入りにくい冬を生き抜く方策として、生まれたものだろう。

人間は賢いから、火を起こしたり、動物の毛皮をまとったりして寒さをしのぎ、食料を保存したりして、冬でも生き抜けるように、やってきた。

その代わりに冬眠能力を失ったのか~と、想像が膨らんだ。

 

<特集「核融合実験炉」も興味深い>

本書「ナショナルジオグラフィック」2025年11月号は、核融合発電に向けた「核融合実験炉」の特集も興味深い。

フランスで建設が進む国際熱核融合実験炉(ITER)を紹介している。

日本を含め、主要各国政府が出資し、2007年に建設が始まったという。

知らなかった。

この実験炉は、核融合の技術研究のためのもので、発電能力はない。

「核融合反応が起きうる超高温のプラズマを400秒間維持すること」を目標に、2039年に核融合運転の開始を計画しているという。

 

核融合は、太陽のような恒星の内部で起きている反応。

太陽は、核融合によって、地球の人類の生活を何百万年も支えられるような膨大なエネルギーを、わずか1秒で生み出しているという。

 

核融合実験の仕組みは、こうだ。

(1)普通の水素より重い同位体の重水素と三重水素のガスから、電子を分離させ、プラズマ状態にする(普通の水素よりも、核融合反応を起こしやすい重水素や三重水素を使うことで、核融合に必要な温度を下げている)

(2)プラズマの温度を1億5000万度以上に上げ、重水素と三重水素の原子核を衝突、融合させる。

(3)これにより、ヘリウムと高エネルギーの中性子ができる。この高エネルギーの中性子を発電に使う、という。

 

「ナショナルジオグラフィック」2025年11月号より。核融合実験の仕組み

原発に使われている核分裂と違って、核融合は暴走しない。

人体に有害な核廃棄物も生じない。

二酸化炭素も生じない。

燃料の水素はいくらでもある。

理論上は、クリーンで安価な電力をほぼ無尽蔵に生み出せる。

 

問題は「太陽の内部で起きる核融合反応をどうやって地球上で発生させ、制御するか」だという。

サラッと書いてあるけど、これは、かなりの難題だ。

 

特集によると、核融合反応を起こすための条件は「プラズマの閉じ込め」「圧力」「熱」。

太陽の中心部は、鉛の13倍も密度が高くて膨大な圧力があり(2000億気圧)、地球上でそれだけの圧力を生み出すのは不可能だという。

圧力の不足分を補うには、膨大な熱が必要になる。

地球上で核融合反応を起こすには、太陽の中心部の温度(1500万度)の10倍の1億5000万度が必要だという。

問題は、これほど高温のプラズマをどうやって閉じ込めるか。

この温度に耐えられる物質はないという。

そりゃ、そうだろう。

 

漫画「BASTARD!─暗黒の破壊神─」(萩原一至)の主人公ダーク・シュナイダーと、炎の魔神イーフリートの対決を思い出す。

イーフリートが炎の柱となる必殺技「爆炎波動(ヘリオン)」で2000度の超高熱を繰り出してきたのに対し、ダーク・シュナイダーが「琰魔焦熱地獄(エグ・ゾーダス)」という魔法を使い、2万度の超々高熱を放つ。

イーフリートは「バカな!岩が!岩が蒸発するとは!?きさま、どーやって、岩石の沸点を超える2万度の超々高熱を!」と驚愕して降参するのだけども・・・

1500万度とか、1億5000万度とか、ケタ外れすぎて、想像もつかない(ちなみに、地球の中心部の温度は6000度とされる)。

とんでもない温度だということだけは、わかる。

 

「BASTARD!─暗黒の破壊神─」より。琰魔焦熱地獄をかますダーク・シュナイダー

 

ここまで読むと、核融合、無理じゃないか、となるところだけども・・・

人間は賢い。

プラズマは磁場に引き寄せられる性質があり、炉内に磁場を作ればプラズマをそこに閉じ込められるという。

 

プラズマを引き寄せて、閉じ込められるだけの強力な磁場を生み出すためには、超伝導電磁石を使用(航空母艦を1隻持ち上げられるくらいの磁力だという)。

超伝導性を持たせるためには、極低温に冷やさないといけない。

その温度は、絶対零度(マイナス273.15度)に近い、マイナス269度。

 

絶対零度に近い極低温を使って、太陽の中心部の温度を超える極高温を生み出そうという、ギャップが面白い。

まさに、人類の限界に挑むようなプロジェクトだ。

そして、この特集記事には書いてないけども、このプロジェクトには、おそらく、とんでもなく巨額の費用と膨大な手間がかかっている。

主要各国の政府がバックアップしているからできることだけども・・・

人類が本気を出したら、これだけのことができるわけだ。

 

宇宙戦艦ヤマトの「波動エンジン」(宇宙のエネルギーをタキオン粒子に変換して使う無限動力機関)でも、作れるのではないかという気がしてくる。

 


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