
世界の傑作機「SR-71ブラックバード」
最も美しい造形の軍用機は何か?と言われたら、間違いなく最有力候補。
それが、米国の戦略偵察機SR-71ブラックバード。

造形の特徴は、まず、三角形の主翼に左右ひとつずつ大型の強力なエンジンを取り付けてあること。
そして、機首から主翼にかけての部分と、エンジンポッドの先端から主翼にかけての部分で、滑らかに平べったくなるように張り出した「チャイン」と呼ばれる構造。
真正面から見ると、菱形のような胴体と左右の丸いエンジンを滑らかにつないだようなシルエットになる。
前方から少し見下ろす角度で見ると、チャインの付いた機首は、鋭い刃物のようにも感じられる。
後方からだと、大型のエンジンの力強さが強調される。
どこから、見ても、かっこいい。
しかも、黒ずくめ。密かに敵地に乗り込んで写真を撮って帰ってくるという任務も相まって、忍者感をも醸し出す。
主な配備先だった嘉手納基地のある沖縄県の毒ヘビにちなんでパイロットたちが付けた愛称は「ハブ」。そう言われると、毒ヘビ感も漂わせる姿かもしれない(ハブというより、コブラだけど)。


SR-71は、敵に撃ち落とされないよう、地上から25キロという高高度を、超音速のマッハ3.2で飛行可能。
そもそも、敵に見つからないよう、ステルス性を高めてある(レーダー反射率を低減してある)。
この能力を実現するために考え抜かれた結果の造形で、その美しさは機能美と言ってもいいのかもしれない。
文林堂の「世界の傑作機」シリーズNo.100「SR-71ブラックバード」の解説をもとに、もう少し詳しく設計の工夫を見てみる。
まずは、ステルス性向上策。
チャインは、ステルス性を高める工夫として発案された。
空力的にも、方向安定性を高め、プラスの効果を発揮するという。
本書の表紙イラストがわかりやすいと思うけども、主翼の端は三角形の外板を並べたような「鋸歯構造」になっている。これも、ステルス性を高めるという。
黒ずくめもステルス性を高めるため。
鉄粉とアスベスト(石綿)を含む特殊な黒い塗料で、塗られているという。
次に、高速追求のための高熱対策。
マッハ3という超音速で飛ぶと、「空力加熱」で、機体表面は300度以上という高温になるという。
(空力加熱とは、速く飛ぶと、前方の空気が急激に押されて圧縮され、熱を生じる現象。摩擦熱とは違う)。
そこで、熱対策がいろいろと施してある。
たとえば、主翼の表面は細長い外板を並べてある。
機体が高熱になって膨張する時に、その膨張を吸収できるように工夫した結果。
地上にいる時と超音速で飛んでいる時で機体の温度差が激しすぎるため、機体の外板や燃料タンクを完全に密閉できず、地上にいる時は隙間だらけになり、燃料が少しずつ漏れ続けるという(引火点が高い特殊な燃料のため、漏れても引火の危険はないらしい)。
いかに任務のためとはいえ、もったいない設計だけど、おおらかな時代の産物と言えるのかもしれない。
(SR-71の原型になる試験機の開発開始は1959年。SR-71の初号機初飛行は1964年)。
高熱に耐えられるよう、機体のほとんどが、高価なチタン合金で作られている。
熱対策で、ついでに言うと、特殊な燃料は機体内部を循環してエンジンに運ばれる構造になっていて、飛行時に熱くなった機体の熱を奪う冷却水みたいな役目を果たす。熱を奪って熱くなった燃料がエンジンに運ばれ、一石二鳥らしい。
こうして列挙してみると、本当に考え抜かれて設計されたという感じだ。

SR-71は、「時代のあだ花」でもある。
ポイントは2点。
(1)旧式の偵察機U-2を上回る高性能の偵察機として生まれ、U-2が何度も撃墜されたのに対し、SR-71は一度も撃墜されていない。しかし、その高性能と引き換えに、運用コストが高くなりすぎ、偵察衛星の進化もあって、1989年に全機退役した。運用コストの低いU-2は今なお、現役だ(撃ち落とされる危険があるところには行かない運用になっている)。
(2)もともとは旧ソ連領内への偵察を目的に開発されたけど、結果としては旧ソ連領内に侵入しての偵察には使われなかった(中国、北朝鮮、旧北ベトナム、キューバへの偵察に使われた)。
旧ソ連領内への偵察に使われなかったのは、なぜか。
本書では、1960年に旧ソ連領内に潜入中のU-2が撃墜され、国際的な非難を浴びた米国が「もう、そのようなスパイ飛行はしない」と表明したためだと、説いている。
本書では、はっきりと書いていないけど・・・実際のところは、旧ソ連の戦闘機や地対空ミサイルの性能向上が著しく、旧ソ連領内に潜入して偵察することのリスクが増したためだと思う。逆に言うと、SR-71を潜入させた中国や北朝鮮、旧北ベトナム、キューバは、旧ソ連ほど防空能力が高くなく、怖くないということだ。
「もう、そのようなスパイ飛行はしない」と言いながら、米国は、SR-71を旧ソ連領の手前ぎりぎりのところまで行かせて、高高度から見下ろす形で旧ソ連領内を撮影するという使い方はしていたようだ(これは、本書に書いてある)。
ちなみに、旧ソ連は、SR-71を迎撃するために戦闘機MiG-25フォックスバットを開発した。MiG-25は、1976年の「ベレンコ中尉亡命事件」で、旧ソ連のベレンコ中尉が函館空港まで乗ってきて、注目された。この事件で、航空自衛隊のレーダーは、領空侵犯したMiG-25をとらえ、千歳基地の戦闘機F-4EJが緊急発進したが、MiG-25を発見できないうちに、函館空港に強行着陸されている。
U-2、MiG-25については、世界の傑作機シリーズの記事として、また、あらためて紹介したい。


