かつて、スマホゲーム「ポケモンGO」にはまった。
私が楽しんでいたのは、「ジム」と呼ばれる陣地を取り合うジム攻略活動。
やっていたら、わかることだけども、ジム活では、弱ったポケモンを回復させる道具をいかにたくさんストックしておくかが重要だ。
実際の戦争にたとえれば、いかに強い軍隊でも、補給がしっかりしていないと戦闘を続けられないのと同じこと。
なので、補給体制の構築が鍵になる。
そして、プレイヤー同士の戦いなので、知恵比べというか、駆け引きが問われるのも、面白かった。
これも、やっていたら、すぐにわかることだが、ポケモンGOは、複数アカウントを使い分けるという不正行為を働いているとみられるプレイヤーが多い。
たかが、スマホゲームに不正を働くような人は、単純で、すぐムキになるので、行動が読みやすい。
そのような不正プレイヤーは、ジムを取られると、ムキになって取り返してくる。
つまり、ジム活は、不正プレイヤーとの駆け引きが中心となる。
私は、古代中国・春秋時代の兵法家・孫武(孫子)が説く「人を致して、人に致されず」という兵法を心がけた。
この兵法は「相手を動かして、相手に動かされない」という意味。「相手を翻弄して、相手に翻弄されない」と言い換えてもいい。
実際の戦争なら、たとえば、相手をおびき出して待ち伏せするとか、どこを攻めるか悟らせず相手の戦力を分散させるといったこと。
これは、ビジネスとか、対人関係にも通じる教えだと思う。
私の基本戦術をもう少し書いてみる。
ゲームの細かいルールの説明はなるべく省く。
★補給体制の構築を念頭に、ジム活を進める
このゲームで、弱ったポケモンを回復させる道具は、ジムで手に入る。
ジムを占領していると、より手に入りやすい。
ジムの攻略と補給(回復道具の入手)が一連の行動になると、効率的だ。
具体的には、巡回しやすいルート上のジムをいくつか占領する。
ルート上で、敵プレイヤーに取られたジムがあれば、攻略して取り返す。
このようにしながら、ルートを巡回し、ジムを訪れた時に補給も行う。
このゲームでは、手持ちに多くある道具は、手に入りやすい。
なので、回復道具を多くストックするように心がけていれば、ルートを何周かするだけで、途中のジム攻略で消耗した回復道具は、すぐにまたストックできる。
このようなルートを構築することが、まず、肝心だ。
★攻略向きポケモンの強化が重要
ジム防御向きのポケモンの強化よりも、ジム攻略向きのポケモンの強化のほうが優先度が高い。
どんなに強いポケモンに防御させても、ジムを守り切ることは、できない。
なので、ジム防御向きのポケモンは、簡単にはやられない程度に強化すれば、それでいい。
このゲームをやっていると、ハピナス、ラッキー、ケッキングといった防御向きポケモンをやたら強化してジムに置いている人が目立つ。
攻略向きポケモンの重要性はあまり理解されていないのが、現実かと思う。
ある意味、ワンパターンなので、対策は立てやすい。
攻略向きポケモンは、いろんなタイプの相手に対応できるよう、いろんなタイプのポケモンをできるだけ強化する。
相手のジム防御ポケモンがハピナス、ラッキーの場合、私は、相手が出す技を見て、ミュウツー、フーパ、ルカリオを使い分けていた。
相手のジム防御ポケモンがケッキングの場合は、ルカリオ、カイリキー。
ちなみに、相手の防御ポケモンが「フェアリー」タイプの場合に有効な「はがね」「どく」タイプの攻略ポケモンは、いいのがあまりいないので、その選定と強化も重要だ。私は、ボスゴドラ、ロズレイドを使っていた。
★ジムを取らせてから取り返す
ジム防御のために配置した自分のポケモンが、相手の攻撃で倒されかけている時、そのポケモンを「きんのズリのみ」等で回復させて守るよりも、いったん、ジムを取らせたほうがいい。
相手が配置したポケモンを倒してジムを取り返すほうが、補給面では効率的だからだ。
(倒されて帰ってきたポケモンを回復させる「げんきのかたまり」「まんたんのくすり」等よりも、きんのズリのみのほうが手に入りにくく、貴重)。
★消耗させる
私がジムを攻略する時に、相手が、きんのズリのみを何度も使ってジムを守ろうとすることが、よくある。
これは、思うツボ。
何回も攻撃して、相手のきんのズリのみを消費させる。
このゲームは、一定の時間内にポケモンに与えられる「み」の数が限られているので、そのうち、相手は、きんのズリのみを与えられなくなる。
相手が不正プレイヤーの場合、複数アカウントを使い分けて、ずっと、きんのズリのみを与え続け、戦いが長期化するケースもある。
私は、各種くすり等の回復道具をたくさんストックしているので、大丈夫。相手が、きんのズリのみを消耗するだけ。
このような長期戦を考えても、より短時間で相手のジム防御ポケモンを倒せるよう、攻略ポケモンの強化が大事だ。
★右往左往させる
「人を致して、人に致されず」の応用。
相手がほかのジムを攻略している時に、相手のジムを攻略する。
相手がムキになって、次々と、こちらのジムを攻略し始めたら、その後追いはしない。
相手の本拠地と言えるジムを突く(かなり強い防御ポケモンを置いてガチガチに固めていて、大事にしているジム。あるいは、すぐ取り返しにくるなどの状況から、自宅周辺と推測されるジム)。
相手は、ジム攻略を中断し、本拠地ジムを取り返しに戻ってくる。
その時に、取られたジムを取り返す。
相手の本拠地を突く作戦は、実際の戦争でも使われる。
たとえば、古代中国・戦国時代の魏が韓を攻めた時、韓を救おうとした斉は、魏の首都を攻めた。
魏軍は、すぐ本国にとって返し、待ち構えた斉軍が、魏軍に大勝した。
斉の軍師・孫臏(孫武の子孫)が魏の将軍・龐涓を破った「馬陵の戦い」だ。
漫画家・鄭問の名作「東周英雄伝」でも描かれている。

★敵の戦力を分散させる
「人を致して、人に致されず」の応用。
私の巡回コースから外れた、私にとっては重要でないジムに、こだわるそぶりを見せて、私にとって重要だと思わせ、戦力を分散させる。
相手がそのジムを取ったら、取り返すを何回か繰り返すと、ムキになって、強い防御ポケモンを配置してくる。
そしたら、ほっとけばいい。
戦力分散も、実際の戦争で使われる作戦。
たとえば、第2次世界大戦で、連合軍のノルマンディー上陸作戦は、ドイツ軍に偽情報を流して上陸地点は別の場所だと信じ込ませ、戦力を分散させたことも、成功の要因だとされる。
ドイツ軍の現場指揮官の中には、ノルマンディーこそ上陸地点だと感じ取っている者がいたが、進言しても、ヒトラーが聞かなかったという。
漫画家・新谷かおるの短編「牙の海流」(短編集「戦場ロマン・シリーズ6 狼の回帰線」に収録)では、そんな様子が描かれていて、面白い。

最後に・・・
ジム攻略活動をやっているうちに、取ったり取られたりの繰り返しが、馬鹿馬鹿しくなって、結局、ポケモンGO自体をやらなくなった。
ゲームは本来、息抜きに楽しむものだと思うが、作業になってしまったからだ。
これは、私の遊び方がまずかったのだろう。
このゲームは、ジム活を本気でやると、心がすさむ。
「仕返しの連鎖から平和は生まれない」という言葉があるが、まさにその通りだ。
私にこのゲームを勧めた妻は、「さまざまなポケモンの収集」という王道の楽しみ方をしている。
妻は、ジム活は、ほぼしない。
同じチームのジムで、空きがあれば、自分のポケモンを置くだけ。
敵のジムの防御ポケモンが明らかに弱ければ、攻略しているが、それで取り返されたら、あっさりと引き下がっている。
孫武が記した兵法書「孫子」で、冒頭に書いてある教えは、こうだ。
「戦争は国家の一大事だ。勝ったとしても兵が死んだりとか国力が疲弊するから、百戦百勝が最善とは言えない。一番いいのは、戦わないこと。戦わずに相手を屈服させるのが、最善の策だ」。
「東周英雄伝」でも描かれている。

戦わずに相手を屈服させるとは、外交とか情報戦をうまくやれということだ。
ポケモンGOのジム活に置き換えた場合、どういうことだろうか。
妻がやるように、同じチームのプレイヤーが攻略したジムに便乗して置くだけという行動も、そうなのかもしれない。
やっぱり、孫子の兵法は深いなあ、とあらためて思った。



