「ベン・ハー」
「Ben-Hur」
帝政ローマの時代。ユダヤの名門貴族ジュダ・ベン・ハーは、幼なじみの親友でローマの軍人メッサラと立場の違いから対立し、あらぬ罪を着せられて奴隷の身に落とされる。復讐の念を胸に生き延びたベン・ハーは戦車競技でメッサラと戦う───
スペクタクル映画「ベン・ハー」(1959年、米国)は、私の好きな復讐もの。
子どもの頃にテレビ放映で見て知り、気に入った。のちにビデオテープを買い、さらにはDVDで買い直していて時々、見る。
チャールトン・ヘストンが演じるベン・ハーの復讐に燃える顔つきがいい。特に、奴隷となってガレー船をこぐ場面。
一番好きな映画で、同様に復讐ものの「コナン・ザ・グレート」の主人公コナン(アーノルド・シュワルツェネッガー)が奴隷の身に落とされ、巨大な装置につながれて、ぐるぐると回す場面での顔つきを思い出す。
ガレー船には、何人もの奴隷がこぎ手として鎖でつながれ、ベン・ハーもその1人。
ハンマーで台をたたいて、こぐリズムを指示する男が、ローマ海軍の司令官アリウスの指示で順次、「Battle speed(戦闘速度)」「Attack speed(攻撃速度)」「Ramming speed(突撃速度)」と言いながら、だんだん、早くこがせる、いじめのような場面がある。
まわりの奴隷はへばって倒れ、ムチでたたかれるけど、ベン・ハーは、へばらない。
アリウスは、そんなベン・ハーを気に入り「恨みを秘めた、いい目をしている」みたいなことを言って、ベン・ハーの鎖を外すよう指示する。
おかげで、この後の戦闘で船がやられて沈没した時、ベン・ハーは逃げ出すことができ、まわりの奴隷も鎖を外して助け、溺れていたアリウスも助ける。
その後、ベン・ハーはアリウスの養子となり、自由の身となる・・・
この辺りも、「コナン・ザ・グレート」を思い起こさせる。
奴隷として商人に買われ、剣闘士となったコナンは、ある時、商人に「人生の喜びは何か」みたいなことを聞かれ、「敵を殺し、女の悲鳴を聞くこと」みたいに答えたら、商人に気に入られて、逃がしてもらい、奴隷の身から解放される・・・
将軍を助けて出世するという展開は、漫画家・手塚治虫の名作「ブッダ」の序盤の主要人物、チャプラをも思い出させる。
奴隷の子として生まれたチャプラは、コーサラ国の将軍ブダイがワニに襲われているところに居合わせて助け、養子となり、やがて、国一番の勇士となる・・・

本作「ベン・ハー」の最大の見どころは、戦車競技だ。
ここで言う戦車は、馬に引かせる車輪付きの乗り物。
競技は、トラックを周回するものだが、もし、戦車から落ちれば、後続の戦車の馬に踏みつけられてしまう命がけのレース。トラックに入り、脱落者を担架に乗せて運び出す兵士も命がけだ。
(同様な戦車競技は、漫画家・荒木飛呂彦の代表作「ジョジョの奇妙な冒険」で、第2部の主人公ジョセフ・ジョースターと敵の戦士ワムウの決闘方法として採用された。見た時は、「ベン・ハー」を思い出して、うれしくなった)。

スティーブン・ボイドが演じる敵役メッサラは、車輪に刃物が付いた「ギリシャ式」の戦車を使い、他の競技者の戦車を壊して回る。
ベン・ハーの戦車にも、壊そうと近寄り、ガリガリと削る。
さらに、ムチでベン・ハーをたたく。この辺の悪々ぶりが、見る者の心情をベン・ハーに傾けさせ、いい演出だ。
ところが、ベン・ハーの戦車と接触して、メッサラの戦車が壊れ、メッサラは地面に投げ出されて、後続の戦車の馬に踏まれて、瀕死の状態となる。
そして、この後の場面も、とても印象深い。
瀕死状態のメッサラは治療を中断させて、ベン・ハーと会う。そして、衝撃の事実を伝えて、ベン・ハーの憎しみと怒りをさらにあおるのだ。
死んだと思っていたベン・ハーの母と妹が実は生きていて、でも、不治の病にかかり、人里離れた谷で隔離生活を送っていると・・・
「おれたちの戦いは、まだ終わっていない」みたいなことを告げて、メッサラは息を引き取る。
このメッサラの態度は、子どもの頃に初めて見た時から、疑問があった。
もともと、親友同士で、そこまで深刻な行き違いではなかったはずなのに、なぜ、ここまで憎しみをベン・ハーにぶつけるのか、と。
ここで、ストーリーを少し巻き戻す。
2人は、幼い頃、イスラエルで一緒に仲良く育ち、メッサラは成長後にローマに引っ越しており、このたび、司令官に出世して、イスラエルに赴任してきたという設定。
2人が旧交を温める場面が、物語の序盤にある。
互いに、投げやりの腕が鈍っていないかと確かめた後、「昔みたいに仲良くやろうぜ」という感じで、酒を注いだ杯を持った腕を絡ませ、にこやかに見つめ合って乾杯する。
この後、メッサラが、ユダヤ人の反乱分子を取り締まるために協力してくれるよう頼んだのを、「同胞を売れない」とベン・ハーが断り、気まずい空気が流れる。
ここから2人の間に亀裂が入り、ふとした事故が弾みで、ベン・ハーは無実の罪を着せられ、奴隷の身に落とされる。
依頼内容とユダヤの名門貴族というベン・ハーの立場を踏まえると、メッサラの依頼は断られても仕方ないのに、なぜ、あんなに恨むのか。
のちに、実は、この物語には、「2人がかつて同性愛関係だった」という裏設定があったと知り、見方が変わった。
物語で明確に描かれているわけではないが、「昔みたいに仲良くやろうぜ」は、そういう意味が含まれており、断ったベン・ハーに対し、メッサラは「可愛さ余って憎さ百倍」の心情になったのだという。
言われてみれば、男同士が腕を絡ませて乾杯は、私はちょっと嫌だなと感じていたけど、そこまで深読みはしていなかった。
格闘技漫画の名作「北斗の拳」(原作・武論尊、作画・原哲夫)の登場人物、ユダを思い出す。
ユダは、同じ南斗六聖拳の格闘家、レイにひそかにほれており、いろいろと悪さをしたのは、レイの気を引きたかったから。
レイと戦って敗れた後、レイの腕に抱かれて満足そうに息を引き取る。

メッサラも、そうだったのか。
メッサラ亡き後、ベン・ハーが「メッサラはいいやつだったのに、ローマに行ってから変わった。みんな、ローマが悪い」みたいなことを言う場面があるのだけども、裏設定を知ってしまうと、「じゃあ、メッサラがいいやつのままだったら、昔みたいに仲良くやっていたのか」と想像が膨らんでしまう。





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