「王立宇宙軍 オネアミスの翼」(1987年、ガイナックス)
「風の谷のナウシカ」「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」「ルパン三世 カリオストロの城」に次ぐアニメ映画の名作。
これは、世界観、映像、音楽を味わう作品だ。
DVDはもちろん、サウンドトラックCDも買った。
架空の惑星のオネアミス王国を舞台に、おちゃらけキャラの主人公シロツグ・ラーダット(男子)が、ふとしたことで女子に褒められて、やる気になり、人類初の宇宙飛行士を目指す───というストーリーも、なかなか微笑ましい。
オープニングの曲「メイン・テーマ」からして、素晴らしい。
(音楽は、坂本龍一が担当)。
異国情緒を漂わせ、異世界でのドラマに期待が高まる。
ギター奏者パット・メセニーの名曲「ファインディング・アンド・ビリービング」を思わせるドラマチックさだ。
(この動画の映像は、作品のダイジェストになっている)
世界観が素晴らしいと思うのは、服装、音楽、文字など異文化が丁寧に作り込んであるからだ。
特に戦闘機のデザインが面白い。
軍用機ファンとしては、ここに注目したい。
オネアミス王国空軍の戦闘機は、旧日本海軍の試作戦闘機「震電」みたいな前翼機(機体の前部に「カナード」という小さな翼がある)で、プッシャー型プロペラ機(機体後方にプロペラがある)。
造形は、震電より遥かにかっこいい。
しかも、コントラペラ(二重反転プロペラ。それぞれ逆向きに回転するプロペラ2組を同軸で取り付けてある)。
これがかっこよさを飛躍的に高めている。
ちなみに、コントラペラは、漫画家・新谷かおるの短編集「戦場ロマンシリーズ」第2巻収録の「復讐の急降下」に、コントラペラを備えた架空の急降下爆撃機が登場したのを見て、虜になった。
敵対する共和国空軍の戦闘機は、前翼機で、ジェット機。
コクピットが極端に機首にある造形は、第2次世界大戦中のドイツ空軍の夜間戦闘機He-219ウーフーみたいな感じだ。
ドロップタンク(増槽)は、英国空軍のBACライトニングみたいに、主翼の上に取り付けてある(翼の下には武器を搭載するため)。
王国空軍がプロペラ機、共和国空軍がジェット機という対比が、互いの異国感を表す。
ちなみに、王国水軍の艦上戦闘機は、ジェット機(プッシャー型プロペラ機だと、空母から飛び立つ時に、機首を上げると、甲板にプロペラが当たるからだと思う。このへんの微妙なリアル感がいい)。
AFV(装甲戦闘車両)も対比がある。
王国陸軍はキャタピラを備えた戦車。共和国陸軍は六輪装甲車。
あと、共和国軍兵士が顔を隠す幕みたいなものを付けているのが、面白い。
なんか、テレビアニメ「ヤッターマン」のドロンジョみたいで、悪役感を高める狙いか(善玉のヤッターマンも似たようなものだが・・・)。
戦闘シーンの曲「戦争」がいい。ちょっとエキゾチックで、スリリング。
(この動画の冒頭がシロツグのやる気満々発言。2分すぎから5分20秒あたりまでが戦闘シーンの曲「戦争」)
主人公シロツグは、好感が持てるキャラクター。おちゃらけだけど、だんだん、やる気を出してくる。終盤、打ち上げ中止に納得せず、抵抗する。
「ちょっと待てよ。ここでやめたら、俺たち、ただの馬鹿じゃないか。ここまで作ったもの、全部捨てちまうつもりかよ。くだらなくないよ。立派だよ。歴史の教科書に載る。俺、まだやるぞ。死んでも上がってみせる」と。
クライマックスの打ち上げシーンは、2~3秒、無音になる。これがいい。
そして、ロケット表面の氷が剥がれて落ちる様子の描写も、なんだか、きれいだ。
宇宙空間に出たシロツグは、地球を眺めて「街の光だ。どこだろう。まるで星のようだ」と感動する。
それで、神妙な気持ちになったのだろうか。
真面目なことを語り出す。
「地上で、この放送を聴いている人、いますか。私は人類初の宇宙飛行士です。たった今、人間は初めて星の世界へ足を踏み入れました。海や山がそうであったように、かつて神の領域だったこの空間も、これからはいつでもこれるくだらない場所となるでしょう。地上を汚し、空を汚し、さらに新しい土地を求めて、宇宙へ出ていく。人類の領域はどこまで広がることが許されているのでしょうか。どうか、この放送を聴いている人、お願いです。どのような方法でも構いません。人間がここへ到達したことに、感謝の祈りを捧げてください。どうか、お許しと哀れみを。われわれの進む先に暗闇を置かないでください。罪深い歴史のその果てにも、揺るぎないひとつの星を与えておいてください」と。
エンディングの曲「FADE」も素晴らしい。
ここで、頭に浮かぶことは、ひとつ。
未知の領域に挑もうとする人間の好奇心はすごいな、と。
アニメ化された漫画「チ。─地球の運動について─」(魚豊)で真理の探究に命をかけた登場人物たちも思い出した。