「セッション」
「Whiplash」
(ネタバレあり。見ていない方は、ご注意を)
映画「セッション」(2014年、米国)は、大好きな作品。
10年くらい前にレンタルショップで借りて見て、気に入り、DVDを買った。
一流ドラム奏者を目指して名門音楽学校に入った主人公アンドリューと、完璧な演奏を求め、過度のシゴキを繰り返す鬼教師フレッチャーが、火花を散らす。
椅子を投げつけ、ビンタを食らわし、人格否定の暴言を放つフレッチャーのシゴキが異常。
教え子を追い詰めて死なせ、逆らったアンドリューへの仕返しは陰湿極まりない。
さらに、すごいのが、この指導について行くアンドリュー。
ドラムの練習に集中したいからと恋人に一方的に別れを告げ、交通事故で血だらけになりながら演奏会場に急ぐ姿は鬼気迫る。
なぜ、そこまで?と思わされる。はっきり言って、こちらも異常だ。
異常な2人が織りなす狂気のバトルが、この映画の醍醐味。
悔しさバネも私好みの展開だ。
そして、劇中の音楽が素晴らしい。
物語のヤマ場で演奏されるジャズの定番曲「キャラバン」が圧巻だ。
アート・ブレイキー(ドラム奏者)の力強い演奏、ミルト・ジャクソン(ヴィブラフォン奏者)の美しい演奏、アルトゥーロ・サンドヴァル(トランペット奏者)の超速な演奏とは、また、ひと味違うスリリングな演奏。
聴いて一発で気に入った。
サントラCDを買い、iPhoneに入れて聴いている。
疾走感あふれるドラムで始まり、ベース、ピアノが順に加わり、ホーンセクションが弾ける序盤が最高。
♪ボーンボンボ、ボーンボンボ…と入ってくるベースが特にかっこいい。
ここだけ繰り返し聴きたくなるほど。
演奏終了と同時にエンドロールが流れるラストが爽快だ。
(以下、2本に分かれた動画で紹介)
(以下、よかったら、聴き比べを)
物語の途中で、フレッチャーがアンドリューに持論を語る。
「私は、みなを期待以上のところまで押し上げたかった。でなきゃ、現れない。次のサッチモ(ルイ・アームストロング)も、チャーリー・パーカーも」と。
異常なシゴキが許される理由にはならないが、ともかく、持論だ。
駆け出しの頃のパーカーがヘマをしたのに、共演のドラム奏者が怒って、シンバルを投げたという逸話も、フレッチャーは語る。
この悔しさをバネに猛練習し、パーカーは伝説的な名プレイヤーになった、と。
アンドリューは尋ねる。
「でも、一線はあるはず。あなたのやり方は、『次のパーカー』を挫折させることにならないか」と。
フレッチャーは断言する。
「『次のパーカー』は、挫折しない」。
このやり取りは、物語の肝だ。
医療漫画の名作「ブラック・ジャック」(手塚治虫)で描かれたエピソード「ある教師と生徒」を思い出す。
小学生の少年と、暴言を繰り返す教師が登場。
この教師は「自分は憎まれてもいい。子どもたちには、悔しさをバネに成長してほしい」という考えの持ち主だ。


ところが、少年は、この教師が怖くて、学校が嫌になり、けがをして休もうと思い、道路に飛び出して車にはねられ、瀕死の重体となる。
治療を頼まれたブラック・ジャックは、おなじみの法外な料金を提示する。
教師は、わざと車にはねられて死にかけ、ブラック・ジャックに申し出る。
「私に生命保険がかけてあります(それを少年の治療費に)」と。
心を打たれたブラック・ジャックは2人とも救う。

少年と教師が仲良くなる場面で、このエピソードは終わる。
このシゴキ教師、根は良い先生だったんだね、と読者を安心させて終わる。
ついでに言うと、食文化漫画の名作「美味しんぼ」(原作・雁屋哲、作画・花咲アキラ)の憎まれキャラ海原雄山でさえ、途中から、根は良い人という気配を漂わせる。
これに対し、フレッチャーは、最初から最後まで、悪辣。
根は良い人というような展開は、ない。
徹底的な悪辣ぶりが、物語の緊張感を極限まで高め、最後まで途切れさせない。
なのに、見終えて、後味爽やか。
これは、一体、なぜなのか。
ストーリーを補足説明し、考察してみる。
アンドリューは、物語中盤の演奏会で失態を演じ、音楽学校を退学処分となり、一流ドラム奏者になる夢を諦めかける。
そんな時、かつてフレッチャーに追い詰められて命を絶った教え子の関係者から、フレッチャーの横暴を密告するのに協力してほしいと頼まれる。
アンドリューは、ためらった。
しかし、説得され、密告に協力。
フレッチャーは解雇される。
その後、落ち目になった2人が、ばったりと再会する。
フレッチャーは、今度のジャズ・フェスティバルで、自分が指揮するバンドのドラム奏者として、アンドリューを誘う。
レコード会社のスカウトも訪れる大舞台。
アンドリューにとって、復活のチャンスだった。
ところが、演奏会当日、フレッチャーが指揮し始めたのは、アンドリューが知らされていたのとは違う曲。
アンドリューは、まともに演奏できず、大舞台で恥をかく。
実は、フレッチャーは、アンドリューが密告に加担したと知っていて、これは、仕返しのワナだったのだ。
ショボンとしたアンドリューに、フレッチャーは言い放つ。
「お前は無能だ」と。
アンドリューは、いったんはステージを降り、父に慰められる。
そして、何かを決意したように、ステージに戻る。
次の曲を紹介しようとするフレッチャーをさえぎって、ドラムをたたき始め、そばのベース奏者に「『キャラバン』だ」と告げる。
かつて失態を演じたステージで、演奏できなかった曲。
そして、バンドに演奏を始めさせるのだ。
フレッチャーは最初こそ、怒って、アンドリューに罵声を浴びせる。
やがて、アンドリューの熱演に引き込まれる。
そして、アンドリューの演奏を高めるように指揮を始める。
演奏終盤の長いドラムソロが聴きどころ。
ドラムソロ終了間際、フレッチャーは優しい表情で、うんうんとうなずく。
アンドリューは微笑みを返す。
フレッチャーに唯一、良い点があるとしたら、良い演奏は素直に認めるということ。
持論に嘘はない。
「次のパーカー」を育てることしか頭にないフレッチャーは、ヤマ場の「キャラバン」演奏で、その域に迫ったアンドリューに「よー、やった」と満足した。
うなずいた心境は、よくわかる。
アンドリューが悔しさをバネにしたのも、よくわかる。
でも、なぜ、フレッチャーに微笑むのか。
普通の神経の持ち主なら、そんな心境には、ならないはずだ。
「フン。どうだ?」という不敵な笑みなら、わからないでもない。まあ、それだと、後味爽やかにはならないが・・・
あの微笑みは、どう見ても、「先生、できたよ」という微笑みだ。
シゴキについていき、密告も一度はためらったアンドリューは、純粋な人柄だということだろうか。
ひたむきなアンドリューだから、この域に達したということだろうか。
そう考えるしか、なさそうだ。
やっぱり「セッション」は、異常な2人の狂気のバトル。
言い換えれば、「次のパーカー」になれるのは、常人を超えた鋼のメンタルの持ち主なのだ。
だから、その突き抜けぶりが、爽快感を生む。

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