![少林サッカー [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/51caPEvNBWL._SL500_.jpg "少林サッカー [DVD]")
「少林サッカー」
「少林足球」
（ネタバレあり。見ていない方は、ご注意を）
シュートしたボールが炎の球になり、ヒョウみたいな形の炎に変化───
ボールの回転がすごすぎて、ピッチの芝生を削り、選手を吹き飛ばす───
やり過ぎ感たっぷりの演出が最高だ。
敵選手たちが味方のゴールキーパーに代わる代わる強烈シュートをぶつけて痛めつけるさまは、おい、もうそれ、サッカーじゃないだろ！と言いたくなるが、面白い。
サッカー漫画の名作「キャプテン翼」（高橋陽一）にも、立花兄弟の技・スカイラブハリケーン等、サッカーか？とツッコミたくなる描写はあるが、「少林サッカー」は、完全に振り切れている。
何より、私好みのリベンジもの。
往年の名選手が落ちぶれて力関係が逆転し、かつて下っ端だった悪役にひざまずいて、頭の上に靴を乗せられる冒頭のシーンからして、引き込まれた。
主人公の仲間が、敵選手にひざまずいて命乞いし、薄汚れた脱ぎたてパンツを頭にかぶらされる屈辱シーンもあった。
この悔しさをバネに大暴れするから、見る者の爽快感が高まる。
映画「少林サッカー」（２００１年、香港）は、サッカーにカンフーを持ち込んだアクション＆コメディ作品。
私は小学生の頃に、ジャッキー・チェンのカンフー映画ブームの洗礼を受けた世代（「蛇拳」「酔拳」「笑拳」等）。
郷愁をそそられた。
サッカーの名選手だったファン（ン・マンタ）は八百長事件で落ちぶれ、かつての下っ端選手からサッカー界の大物にのし上がったハン（パトリック・ツェー）の召使いになっていた。
（ハンが八百長事件でファンを陥れた黒幕だったことは、のちに判明）。
一方、主人公で、「鋼鉄の脚」の異名を持つ少林拳の使い手シン（チャウ・シンチー）は、ゴミ拾いみたいな貧乏暮らしをしながら、少林拳を世に広めたいと考えていた。
ファンがシンと出会い、空き缶を蹴ってレンガ壁にめり込ませるほどの脚力に惚れ込んで、物語が転がり始める。
シンは少林拳の修行をともにした兄弟弟子たちを誘い、サッカーの「少林チーム」が誕生。やがて、ハンが率いる無敵の「デビルチーム」と戦う───というストーリー。
過剰な演出のアクションが最大の見どころなのは、間違いない。
けれども、かなり前にレンタルで借りて見た時に一番、私の印象に残ったのは、ヒロインのムイ（ヴィッキー・チャオ）が饅頭を作るシーンだった。
ムイは饅頭店の店員で、実演販売をしていて、妙技を見せる。
流れるような手つきで、小麦粉と水を混ぜ、生地をこねて丸め、球形にして高速回転させながら、空高く投げ上げる。
この場面が、なんだか、異様な緊迫感があって、見とれてしまう。
ムイは「柔よく剛を制す」という太極拳を饅頭作りに応用しており、ヤマ場の対デビルチーム戦では、助っ人として出場し、この妙技で勝利に貢献するのだ。
これだけの技を持ちながら、あばた顔のため自分に自信がなく、無愛想だったムイは、シンと出会い、心を開いていく。
今回、ブログ記事を書くにあたり、鑑賞し直してみたら、ムイの女心が揺れるさまがなかなか、面白い。
饅頭を買いに来たシンは、代金がなく、穴が開いたボロ靴を脱いで、置いていく。
しかも、饅頭をこねる台の上に。
妙技や容姿を褒められたムイは後日、可愛い動物キャラのアップリケで穴をふさいだボロ靴を返す。
この時点で、ムイがシンに、少なくとも好意を寄せているのは、明らかだ。
少林チーム快進撃で気を良くしたシンは、ムイを高級ブティックに連れて行き、服をプレゼントしたいと言う。
ムイが遠慮すると、シンが言う。
「なんだ、欲がないな。あんた、もっと自信を持て。あんた、顔立ちもいいし、拳法も強い。完璧だよ」と。
ムイは後日、美容室へ。
そして、精いっぱいのおしゃれ（ケバケバしい厚化粧）をして、シンに会いに来る。
この場面のやり取りを抜粋する。
ムイ 言いたいことがあるの。好きよ
シン おれも大好きだ
ムイ これが恋なのね
シン それ、冗談だよね
ムイ 冗談なんかじゃない。なんで？
シン そういう感情じゃない。友達として好きだってことだ。ムイも、そうなんだろ
ムイ ・・・そうね。いつだって、来てね。破れた靴、直してあげるから
シン 破れた靴は捨てるから。ボロ靴履いて出られないだろ
ムイ ・・・
シン どうしたんだよ。泣いてるのか。泣くなよ
ムイ よくわかったわ。ありがとう
（以上、抜粋）
シンは、無神経さも突き抜けている。
この言い方はダメだろう。
いかに鈍感な私でも、「好きよ」と明言されたら、こんな対応はしない。
後日、饅頭店を訪ねたシンは、ムイが辞めたことを知る。
店長のおばさんによると、「うちの饅頭、甘さが売りなのに、しょっぱくなったのよ」とのこと。
シンは、店頭の地面に落ちていた饅頭を拾って食べ、涙のしょっぱさを感じ取って、ムイが涙を流したのだと察する。
これだけ、とんでもなく鋭敏な味覚を持ちながら、シンは、この後、ムイに会いに行くとか、しない。
シンの無神経さを踏まえると、「ムイは、なぜ、泣いたのかな？」で、終わったのかもしれない。
大会の決勝戦で、まみえたデビルチームは、ドーピングで超人的な身体能力を発揮する化け物ぞろいだった（北条司の漫画「シティーハンター」に出てくるエンジェルダストみたいな効果の薬物を使用）。
少林チームの選手は次々と負傷させられ、ゴールキーパーもいなくなり、ピンチに陥る。
そこで、助っ人を買って出たのが、丸坊主にして男装したムイ。
普通なら、感動の場面。
ところが、シンの受け答えは意表を突きすぎているので、抜粋してみる。
シン まるで火星人だ。どうしたの？
ムイ スキンヘッドなら、選手になれるかなって
シン なんで、そんなことを？
ムイ 力になりたいのよ
シン 馬鹿言うな。おまえは火星に帰れ。地球は危険だ
ムイ ちゃんとプレーする。お願い。信じて
シン ダメだ
ムイ 待って。その靴。破れてる。これ、使って（ムイが最初に直したけど、その後、シンが捨てた靴。さらに、ミッフィーのアップリケを当てて、可愛さを強化してあった）
（以上、抜粋）
「火星に帰れ。地球は危険だ」は笑った。
シンは、ミッフィーのアップリケが付いた靴を見つめ、なんだか、うやむやのうちにムイは出場することになり、ゴールキーパーを務める。
そして、敵選手が放った強烈なボールを、饅頭をこねる時のような手さばきで勢いを殺して受け止め、饅頭こねの要領で高速回転を与えてから、シンにパス。
シンがさらに蹴りを加えて、ものすごい高速回転のシュートになる。
翼と岬（「キャプテン翼」）のツインシュートより、すごい回転だった。
このシュートが決勝点になり、少林チームが優勝。
後日談では、デビルチームのドーピングが発覚してハンがサッカー界を追われたこと、少林チームの快挙で少林拳ブームが起きたことが描かれる。
けれども、ムイとシンの関係がどうなったのかは「カンフーカップル」として、タイム誌の表紙を飾ったことが出てくるだけ。
まあ、本当に相思相愛のカップルになったのだとしても、そこに至る過程を見たかった。
ムイは、うれし涙を流したのだろうか。
