「2012」
(ネタバレあり。見ていない方は、ご注意を)
自分の命を守るのに、人に言われるまで待つことはない───
福島第一原発事故から間もない2011年3月下旬、弊紙の家庭欄向けに、原発の仕組みや安全対策、放射線の基礎知識を紹介する特集記事を書いた。
放射線の研究者に取材した時に、「どのくらいの放射線を浴びたら人間は即死するのか」など、好奇心のまま、疑問に思うことを根掘り葉掘り尋ねた。
心に残ったひと言は「原発事故の時、自治体が避難を指示すると思うが、実際のところ、どのくらいの放射線量なら、逃げないといけないか」との質問への答え。
それが、冒頭の言葉だ。
「危ないと感じたら、逃げ出すことだ。自分の命を守るのに、人に言われるまで待つことはない。大勢が逃げれば、道路は渋滞し、公共交通には行列ができるだろう。人より早めに行動を起こすことだ」とのことだった。
ざっくばらんな方で、人間味あふれる答えが、うれしかった。
全く、その通りだと思う。
映画「2012」(2009年、米国)は、太陽の活動が異常に活発化して地球内部のマントルが流動化し、地殻の大変動が起きて、人々が死んでいくという物語。
町を飲み込む巨大な地割れ、チベット高原に迫るほどの巨大な津波といった、どうしようもない状況に直面した時、どう行動するかを考えさせられる。
主人公で、売れない作家のジャクソンは、政府が隠していた天変地異の兆しを、ひょんなことから察知し、元妻や息子、娘とともに生き延びようと、なりふり構わず、行動する。
ビルの倒壊に巻き込まれそうになりながら車で駆け抜け、地面が崩壊する空港から軽飛行機で飛び立つ場面(以下の動画)など、冷や冷や、ハラハラの連続だ。
本作「2012」は、天変地異で文明が崩壊するさまを見せるのが主たる目的かと思うほど、映像に力が入っている。
そこだけ、楽しんでもいいかもしれない。
死に際の態度が印象深い登場人物を2人ほど挙げてみる。
まずは、悪辣な大富豪のユーリ。
天変地異の兆候を数年前に察知した主要国の政府は、各国首脳や科学者ら一部の人間だけでも生き残らせるために、巨大な箱舟をひそかに建造(なぜか、中国製。人件費は安いだろうけど、安全性は?)。
建造費をまかなうために、大富豪向けに「1人10億ユーロ(現在のレートだと、1800億円)」で乗船券を売り出していた。
自分と双子の息子アレク&オレグの3人分の乗船券を買っていたユーリは、「直ちに乗船を開始せよ」との連絡を受け、箱舟のある中国へ急ぐ。
部下と浮気していた愛人を見捨てるなど、冷淡な男だが、最後は父親らしさを見せた。
箱舟に乗り込む寸前で転落しそうになりながら、息子を箱舟に押し上げ、自分はそのまま落下していく。
そして、米国の大統領トーマス。
多くの国民に内緒で事を進め、大富豪に乗船券を売ったことを後悔していて、避難のために大統領専用機エアフォース・ワンに乗り込むのを拒否する。
「亡くなった妻が言っていたように、(箱舟に乗れる人は)くじ引きで決めるべきだったかもしれない」と。
箱舟に乗れる娘ローラ(ルーブル美術館職員)に電話で別れを告げた後、巨大な津波が迫る中、テレビ出演して天変地異を発表し、多くの国民と運命を共にする。
国民からすれば、「逃げる暇もなくなった今になって、言われてもな〜」だろうが、そこは侠気を買ってやってほしい。
内緒は仕方ないと思う。みんながパニックに陥るだけ。
人類全員が乗れる箱舟なんて作れないから、乗船券を奪い合うとか、もっと悲惨な物語になったかもしれない。
なぜ、この人を死なせるの?と感じた2人も挙げておく。
まずは、数年前に天変地異の兆候を察知したインドの科学者サトナム。
この人の貢献は計り知れないほど大きい。
米国の科学者エイドリアンは、サトナムが察知した天変地異の兆候を政府に伝えて取り立てられ、箱舟に乗れる1人になっていた。
そのエイドリアンが思い出したように連絡を取ると、サトナムに助けの手は届いていなかった。
エイドリアンは「なんてことだ!」と叫ぶが、それじゃ済まないぞ。
そして、サトナムの目の前に巨大津波が迫る。
一方で、エイドリアンは、極秘情報である天変地異のことを、父のハリー(豪華客船のピアノ奏者)に事前に漏らしていた。避難させたかったからだ。
サトナムより父が優先なのは人情として当然かもしれないが・・・
連絡を受けた時、ハリーは既に大海原におり、どうしょうもない状態。
息子と電話で別れの言葉を交わした後、巨大津波に襲われる。
ちなみに、エイドリアンは、箱舟で大統領の娘ローラとイチャイチャする。
人類の再出発に臨む生き残りメンバーは、このくらいの切り替えの早さ、たくましさがないといけないのかもしれない。
そして、主人公ジャクソンの元妻ケイトの恋人ゴードン。
美容外科医ながら、飛行機の操縦ができ、ジャクソンが手配した軽飛行機を飛ばすのに活躍した。
その後、大富豪ユーリが中国行きのために用意した大型輸送機に、ジャクソンらが便乗するのにも、ゴードンが飛行機を操縦でき、副操縦士を務められることが役立った。
物語が進むにつれ、ジャクソンとケイトはだんだん、よりを戻す雰囲気になっていくのだけど、そうなると、ゴードンが邪魔だという製作者の都合で死なされたとしか思えない。
最後に主人公ジャクソンについて。
ジャクソンは、物語序盤で、風変わりな男チャーリーから天変地異のことを聞かされるが、信じていなかった。
その後、大富豪ユーリの生意気な息子に「僕たちは船に乗れるけど、お前は死ぬんだ」と悪態をつかれ、危険を察知する。
その後は、元妻の恋人ゴードンに飛行機を操縦してもらったり、ユーリの大型輸送機に便乗させてもらったり、箱舟製造に携わる労働者の家族の情けにすがって箱舟にたどり着けたりと、さまざまな人たちに助けられながら、箱舟に乗り込む。
元妻ケイト、息子ノア、娘リリーと一緒に。
自分と家族が生き延びたいという一心で、なりふり構わず行動すると、幸運が付いてくるのかなと思った。
私たちが同様な危機に直面した時、見習うべきはジャクソンの態度かもしれない。
ジャクソンに好感を抱いたのは、終盤の場面。
巨大津波が迫る中、箱舟にトラブルが発生して出航できなくなり、そのトラブルを解決するために水中にもぐっての危険な作業に向かう場面だ。
ここで、どう考えても足手まといにしかならないノアが「パパを手伝いたい」と言って、ついて行こうとする。
私は、この映画、妻や長女と一緒に見たのだけども、このノアの行動に、私と長女は「こいつ、ムカつくわ~」との認識で一致(妻は「いい子じゃん」との受け止め)。
ところが、ジャクソンは、「よし、来い」と、手伝いを受け入れる。
これと比べて、私や長女は人間の器が小さいな~と、つくづく思った。
