「FALL/フォール」
私は高いところが苦手。
脚立でも揺れると怖いし、歩道橋を渡るのも下を見てしまうとドキドキする。
若い頃、父の仕事(電気工事の自営業)を手伝った時期があるけど、民家の大屋根(一番上の屋根)に上がっての作業なんかは、踏んだ瓦が動いた時点で、怖くなって、もうダメ。
父はスタスタ歩くのに、私は歩けず、這っていた。
そんな私が怖いもの見たさというのか、高所での女性2人のサバイバルを描く映画「FALL/フォール」(2022年、米国)を見た。
主人公ベッキーは登山中に夫のダンを滑落事故で失い、悲しみから立ち直れないでいた。元気づけようとした登山仲間のハンターに誘われ、荒野に立つ高さ600メートル超の鉄塔(もう使われていないテレビ電波塔)に登る。ところが、鉄塔は老朽化が進んでいて、降りようとすると、はしごが崩壊。2人はスマホも圏外で通じない鉄塔のてっぺんに取り残されてしまう───という物語だ。
サメが泳ぐ海域の底に取り残された姉妹のサバイバルを描く「海底47m」(2017年)と似た作品。
終盤に明らかになる「実は・・・」の仕掛けも同じパターンだ。
置かれた状況の恐ろしさがよく表れているのは「海底47m」かな。
暗い海底で急に目の前にサメが現れる場面、ボンベの酸素がだんだん残り少なくなっていく様子は、ハラハラした。
意外にも「FALL/フォール」は、高所恐怖症の私が見ても、そんなに怖いと思わなかった。
てっぺんの足場は、2人が寝転べるくらいの広さはあるし、グラグラしているわけでもない。
何もない荒野に立つ鉄塔だからか、下を見下ろす場面でも、あまり高さを感じなかった(もちろん、私が実際にその場にいたら、全く動けず、目も開けられない状態になるのだろうけど)。
高所の恐怖は、映画「ザ・ウォーク」(2015年)のほうがすごかった。
かつてニューヨークにあった世界貿易センターのツインタワー(高さ411メートル)の間を綱渡りする物語で、足場は太さ2センチのワイヤー。
見ていて「もう、やめろ」と心の中で何度も叫んだ。
一方で、「海底47m」と比べて、「FALL/フォール」は人間ドラマが面白い。
生き残るための執念も、しっかりと描かれていると思う。
「海底47m」は人間ドラマが弱いから、姉妹にあまり感情移入できなかった。
「FALL/フォール」は、ベッキーにも、ハンターにも、共感を覚えた。
ベッキーは物静かな性格みたいだけど、ハンターは、にぎやかな、お気楽キャラで、物語の序盤をうまく盛り上げている。
そして、そのハンターの秘めた苦悩が明らかになる。私は、これで、ハンターに好感を抱いた。
ハンターの苦悩とは、ダンとの不倫。
鉄塔のてっぺんに取り残されて過ごすうちに、ふとしたことから、ベッキーが気づく。
ベッキーは「どっちが誘ったの?」と問い詰める。より悪質な裏切り者はどちらか、知りたいわけだ。
ハンターは最初答えず、もう一度問われて「・・・ダン」と答える。親友ベッキーと不倫相手ダンのどちらも本当に好きで、悩んでいた心情がわかる。
ハンターは胸の内をぶちまける。
「でも、あんたが大事だから、ダンとは別れた。結婚式で花嫁(ベッキー)の付き添いを頼まれた時はつらかった」と。
ダンが事故で亡くなった後、しばらく旅に出ていた心境も語る。
「私は、あんたほど強くないから、あんたを慰められずに、逃げ出した」と。
ベッキーは、以前から父がダンを嫌い、「おまえ(ベッキー)の思うような男じゃない」と言っていたことも思い出し、ダンへの気持ちが冷めたのだろう。
この後、ダンの名前を口にすることはないし、ドローンに充電するための道具として、結婚指輪を手放す場面でも、うかがえる。
ハンターへの友情は消えなかった。終盤にも「ハンター。愛しているわ」と語りかける。
「海底47m」では、サメが死の象徴だけど、「FALL/フォール」では、2人が力尽きるのを待つハゲワシが死の象徴。
終盤、ハゲワシを捕らえて食べ、体力を取り戻そうとする場面は「死の恐怖を打ち払い、生き残るんだ」という決意を感じた。
その後の展開も、すさまじい。
見終わって爽やかという映画ではないけど、何だか、ズーンと心に響いた。

