「天空の城ラピュタ」
君が空から降りてきた時、ドキドキしたんだ
きっと、素敵なことが始まったんだって───
宮崎駿アニメ「天空の城ラピュタ」(1986年)で、主人公の少年パズーのこのセリフが大好きだ。

物語序盤で、パズーは、空から降りてきた謎の少女シータを助け、悪人に追われる。
不思議な石「飛行石」の力で危機を切り抜け、一息ついたところでシータが言う。
「ごめんね、私のせいでパズーをひどい目に遭わせて」と。
それにパズーが答えたのが冒頭の言葉だ。
物語の後半で、飛行石をめぐって騒動が起きるのに心を痛めたシータが「あんな石、早く捨ててしまえば、よかった」と言うと、パズーが即答する。
「違うよ。あの石のおかげで僕はシータに会えたんだもの」と。
ロマンチックだね、パズー。
いや、私でも、同じ気持ちになるだろう。
空から美少女が降りてくれば。
小中学生の頃にはまった漫画「ウイングマン」(桂正和)の序盤の場面を思い出した。
(空中に謎の少女アオイが突然現れ、主人公の少年・健太が受け止める。以下の動画の10分すぎあたり)。
実際、「あの石のおかげで…」のセリフで調子づいたパズーは、さらに、シータの胸をときめかせる言葉を放つ。
「全部片付いたら、きっとゴンドア(シータの故郷)へ、送っていってあげる。見たいんだ。シータの生まれた古い家や谷やヤクたちを・・・」と。
シータは「パズー…」と、うっとり。
このやり取りも好きだ。

相手の故郷を見てみたいというのが、面白い。
あなたのことをもっと知りたいというメッセージだ。
漫画「信長を殺した男」(漫画・藤堂裕、原案・明智憲三郎)で描かれた織田信長の言葉を思い出した。
信長は、アフリカ出身のボディーガード・彌介(屈強な大男で武術の達人)に言う。
「いつか、予も彌介の故郷、その大地を踏みしめてみたいのう。そして、貴様の家族にも会うてみたいのう」と。
海外に目を向けた信長らしい好奇心の表れだと思うが・・・
森乱丸(蘭丸)と同性愛関係にあったとされる信長だけに、違う意味も想像させてしまう。
彌介は「えっ、そんな目で見られていたの?」と困惑したことだろう。

さて・・・
本作「天空の城ラピュタ」は、同じく宮崎の名作「ルパン三世 カリオストロの城」(1979年)とストーリーの要素が似ている。
「悪人に追われる謎の少女を助けて逃走」「隠された宝」「とらわれの少女を飛行機で迫って救出」といったところ。

世界観は、同じく宮崎の名作「風の谷のナウシカ」(1984年)に通じる。
「大地に足を付け、自然と共存する生き方の再評価というメッセージ」「巨神兵/ロボット兵の登場」とか。
ナウシカのペット「テト」まで、再利用されているのを見た時は頬が緩んだ。
ラピュタを守るロボット兵に、パズーが「君、ひとりぼっちなの? ここには、もう、ほかのロボットはいないのかい?」と話しかけると、飛び出してきてロボット兵にまとわりつくのが、テトそっくりの小動物だ。

先行の人気2作に寄せた作り方に、人気監督・宮崎駿といえども、この頃はそこまで自信がなかったのかなと想像した。
人物としては、押しつけがましいニオイがプンプンして、あまり好きではないのだけども(ファンの方、ごめんなさい)、ここは好感を抱いた。
名作2作に連なる3部作のひとつだと受け止めたい。
おじさま(ルパン)と美少女(クラリス)の物語、対照的な2人の姫(ナウシカとクシャナ)の物語ときて、今度は少年と少女の物語。
少年少女が主役になることで、冒険の夢、ロマン感が強まった。
主要キャラクターも、いい。
私は、先行の名作2作のヒロイン、クラリスやナウシカは人間味が感じられないというか、あまり好きではない(ファンの方、ごめんなさい)。
私の好みは峰不二子やクシャナ。
でも、本作のヒロイン、シータは好感が持てる。
ドーラたち海賊の仲間になって、飛行船に乗り込み、散らかり放題の炊事場を片付ける場面なんか、好きだ。「んっ!」と腕まくりして。

何より、この作品の魅力は「言葉の力」だと思う。
物語のクライマックスで登場する滅びの呪文は、もちろん、そう。
危機に陥ったパズーとシータが「バルス!」と滅びの呪文を唱え、ラピュタが崩壊、そして、悪役ムスカは目が見えなくなり、おそらく死亡する場面は、本作で一番印象に残る場面ではないか。
私は、そうだ。

ラピュタ崩壊を見て、2人の仲間の海賊おばさん・ドーラが「滅びの言葉を使ったんだ。あの子たちは馬鹿どもからラピュタを守ったんだよ」と察する場面も、「風の谷のナウシカ」を思い出させる。
ナウシカが、突進してくる王蟲の群れを止めようとして、はねられ、瀕死の重傷を負ったところで、大ババが「あの子は身を挺して谷を守ったのじゃ」的なことを言う。
シータがなぜ、滅びの呪文を教わっていたかの説明も興味深い。
シータによると「良いまじないに力を与えるには、悪い言葉も知らないといけない」。
だから、滅びの呪文は教わったけども、絶対に使ったらいけないと教わったのだとか。
良い呪文と悪い呪文の両方を知らないと呪文が力を持たないという設定がとてもいい。
こんなディティールにまでこだわるから、言葉の力がより生きて感じられるし、物語の雰囲気が高まる。
本作は、素敵なセリフが数多い。
物語後半、飛行船の見張り台にいるパズーのところにシータが行って、話し込むのだけど、この場面のやり取りを抜粋してみる。
これまでに紹介した名セリフも含まれている。
とても、好きな場面だ。
シータ「私、怖くてたまらないの。本当はラピュタなんか、ちっとも行きたくない。でも…」
パズー「あのロボットのこと? かわいそうだったね」
シータ「おばあさんに教わったおまじないであんなことが起こるなんて。私、ほかにもたくさん、おまじないを教わったわ。物探しや病気を治すのや絶対使っちゃいけない言葉だってあるの」
パズー「使っちゃいけない言葉?」
シータ「滅びのまじない。良いまじないに力を与えるには悪い言葉も知らなければいけないって。でも、決して使うなって。教わった時、怖くて眠れなかった。あんな石、早く捨ててしまえば、よかった」
パズー「違うよ。あの石のおかげで僕はシータに会えたんだもの。石を捨てたって、ラピュタはなくならないよ。飛行機械がどんどん進歩してるから、いつか誰かに見つかっちゃう。まだ、どうしたらいいかわからないけど、本当にラピュタが恐ろしい島なら、ムスカみたいな連中に渡しちゃいけないんだ。それに、今、逃げ出したら、ずっと追われることになっちゃうもの」
シータ「でも、私のためにパズーを海賊にしたくない」
パズー「僕は海賊にはならないよ。ドーラだって、わかってくれるさ。見かけより良い人だもの。全部片付いたら、きっとゴンドアへ、送っていってあげる。見たいんだ。シータの生まれた古い家や谷やヤクたちを」
シータ「パズー…」
(以上、抜粋)
ラピュタの玉座の間でシータが毅然と、ムスカに抵抗する場面も、いい。
セリフを抜粋してみる。
あなたに石は渡さない
あなたはここから出ることもできずに私と死ぬの
今はラピュタがなぜ滅びたのか、私、よくわかる
ゴンドアの谷の歌にあるもの
土に根を下ろし、風とともに生きよう
種とともに冬を越え、鳥とともに春を歌おう
どんなに恐ろしい武器を持っても、たくさんの可哀想なロボットを操っても、土から離れては生きられないのよ!
(以上、抜粋)


ナウシカも似たようなことを言っていたかもしれないけど、ナウシカに言われても、心に響かない。シータだから、いい。
滅びの呪文を唱え、ラピュタは崩壊するが、パズーとシータは、巨大な飛行石を包む大木の根っこに守られて生き延びる。
そして、グライダーに乗って脱出。
ドーラたちに迎えられ、笑顔。
そして、エンドロール。
この後、2人はどうなったのだろうか。
ウィキペディアによると、小説版では、2人は文通で交流を続けたという。
ピュアな感じで、とてもいい。
やがて、たまらなくなったパズーがシータに会いに行こうとしたら大雪に見舞われ、約束の時間に大幅に遅刻したけど、シータが待っていて、2人は良い感じになる。パズーの心にはシータが深くすり込まれ、ほかの女子に見向きもしなくなる───って、新海誠アニメ「秒速5センチメートル」かい!
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