「ドリームガールズ」
「Dreamgirls」
(ネタバレあり。見ていない方はご注意を)
恋人であるマネージャーの指示で、3人組のリードボーカルの座を友達に奪われ、ついには芸能界を追われ、愛さえも失った。
それでも、「私には歌しかない」と、ひっそりと再起を期す、エフィに感情移入した。
エフィが主役だと思って見た。
映画「ドリームガールズ」(2006年、米国)は、1960年代の米国を舞台に、黒人の女性歌手エフィ、ディーナ、ローレルの3人組「ドリーメッツ」が、野心的な敏腕マネージャーに見出されて、スターにのし上がる物語。
この過程で、友情の崩壊や愛の喪失が描かれる。
3人の中で一番歌がうまく、リードボーカルだったエフィは、マネージャーのカーティスと恋仲になる。
「ザ・ドリームズ」と名前を改めて3人組を本格的に売り出すに当たり、カーティスは、美人のディーナをリードボーカルに据える。
不満を募らせたエフィは、チームの和を乱すようになり、ついには解雇される(代わりにミシェルが加入)。
ディーナやローレルとの友情にもヒビが入り、カーティスとも破局。
やがて、リードボーカルを前面に出した売り方で、ディーナ個人がスターになっていく。
エフィは、ひそかに、カーティスとの間にできた娘を産み、女手ひとつで育てながら、酒場の歌手となって、再起を期す───という展開だ。
エフィを演じるのは、これが歌手・俳優としてデビュー作だという、ジェニファー・ハドソン。
ディーナを演じるのは、歌姫ビヨンセ。
この物語は、黒人のレコードレーベル「モータウン」と、ダイアナ・ロスが在籍した黒人女性歌手3人組「ザ・スプリームス」をモデルにしているという。
この物語には、いろいろと考えさせられる。
歌のうまさよりルックスでリードボーカルに選ばれるとか。
黒人が良い曲を作っても白人に奪われてしまう人種差別とか。
この時代の人種差別については、黒人のドラム奏者アート・ブレイキーが1961年に初来日した際、黒人だからといって見下さない日本のファンのもてなしに感激して号泣したという逸話を思い出す。
黒人のピアノ奏者ホレス・シルバーと同様に、大の親日家になったという。
それくらい、米国での差別がひどかったのだろう。
6月に公開されるマイケル・ジャクソンの伝記映画「マイケル」では、黒人の悩みがどう描かれるのか、楽しみだ。
ついでに言うと、名曲「イパネマの娘」(1964年)で知られるサックス奏者スタン・ゲッツ(米国人で白人)は、歌手アストラッド・ジルベルトら共演のブラジル人たちを見下していたらしい。
その話を何かで読んでから、ゲッツを好きになれない。
アストラッドが母語のポルトガル語でなく、英語で歌っているのも、考えさせられる。
ラテンポップの女王グロリア・エステファン(キューバ出身)のことも思い浮かぶし、キリがないので、このへんで。
このような背景があったからこそ、映画「ドリームガールズ」のカーティスは、黒人歌手をスターにするために、白人に媚びるとか、DJにワイロを贈るとかする。
それで、ディーナをスターに押し上げ、自ら興したレーベルも成功させて、音楽界の大物にのし上がるのだけど、あまりにも人の心がわからなすぎた。
リードボーカルをディーナに交代させる場面のやり取りを抜粋してみる。
本格的に売り出すという提案に、3人組は大喜び。ところが…
カーティス「それから…エフィ。リードはディーナだ」
エフィ「どうして?ずっと私だったのよ。やっと、この日が来たと思ったら、リードボーカルがディーナ?私のほうがうまいのに」
ディーナ「その通りだわ。無理よ。断る」
カーティス「ダメだ。もう決まった。新しいサウンドとルックスだ」
エフィ「ルックス?顔が関係ある?」
カーティス「若者の人気を得れば、こっちのものだ。彼らはテレビを見る」
エフィ「ディーナがきれいだから、リードをやらせるの?私はきれいじゃないの?」
カーティス「バカ。俺には君が一番なんだよ。悪く取るな」
エフィ「で、私は何するの?ディーナはきれいよ。昔から一番きれい。でも、私には誰にも負けない声がある。なのに、後ろで歌えっての?」
ローレル「いいじゃない。私とコーラスやろうよ。大仕事はディーナに任せてさ」
CC(エフィの兄で、作曲担当)「個性的すぎるんだ。軽い声のほうが大衆にはウケる」
(以上、抜粋)
エフィは怒るけど、みんなでなだめて、とりあえず、納得させる。
しかし、「ディーナ・ジョーンズ&ザ・ドリームズ」と銘打つなど、露骨にディーナを前面に出す売り方に、エフィの不満が爆発する。
カーティスには「嘘つき。最低。ディーナと寝たでしょ」と責め、ディーナには「私の夢と恋人を盗んだでしょ」と八つ当たりする。
そして、リハーサルに来ないなど、チームの和を乱して、解雇されてしまう。
カーティスに「君は、きょう限りで切る」と通告されると、エフィはすがる(でも、捨てられる)。
ミュージカル映画だから、歌うのだけど、このセリフは、せつない。
抜粋してみる。
それじゃ聞いて、あたしの気持ちを
あたしは離れない
あなたのような人には2度と出会えない
あなたを離さない
何があろうと
嫌よ、絶対に
あなたなしでは生きていけない
独りにはなりたくない
離れないわ、あなたのそばを
あなたもきっと、あたしを愛してくれる
あたしを見捨てないで
いつまでも、あたしのそばにいて
(以上、抜粋)
実は、このところ、イライラして、チームの和を乱したのは、カーティスの子どもを身ごもり、情緒不安定になっていたからだった。
ちゃんと伝わっていれば、少なくとも、ディーナとローレルは肩を持ってくれたはずだ。
打ち明けようとは思っていたけど、タイミングを逸した。
もともと、わがままな性格だから、誤解されていたのも不運だった。
それから、6年後。
ディーナはスターとなり、カーティスと結婚していた。
カーティス制作の番組「ディーナ物語」では、ザ・ドリームズは最初からディーナ、ローレル、ミシェルの3人組で、エフィはいなかったということにされていた。
これらの行動を見ても、カーティスは、血も涙もない。
ディーナは、自己主張せず、流されるタイプ。言われるままにカーティスと結婚したのかも、と想像した。
カーティスは、エフィが再起を懸けた曲を横取りして、何も知らないディーナに歌わせてもいた。これは非道。
ディーナは、ふとしたことで、それを知り、エフィに電話して泣きながら謝る。
エフィがカーティスとの間にできた子どもをひそかに産んで育てていたことも知る。
ここに来て、ディーナは、何でも強引に進めるカーティスに対し、いろいろと溜まっていた不満を爆発させ、家を出る。
「エフィに、なんて、ひどいことを!あたしはやり直すわ。エフィみたいに。あなたとは、もう一緒に暮らせない」と言い残して。
ザ・ドリームズは解散することになる。
解散コンサートで、ディーナは「ザ・ドリームズは3人ではなく、本当は4人です」とファンに告げ、エフィが登場。
エフィがリードボーカルとして歌い、ディーナ、ローレル、ミシェルはコーラスに回る。
曲は、かつて初期メンバー3人で歌った「ドリームガールズ」。
4人の歌の最中、カーティスは、客席にいるエフィの娘に目を留め、自分との子どもか、と気づく。
歌が終わり、エンドロール。
エフィをリードボーカルとして歌う締めくくりがとても爽やか。
やっぱり、最後に信じられるのは友情だということか。
映画「国宝」(2025年)の主人公・喜久雄と俊介の爽やかな友情が、思い浮かんだ。
そして、ディーナも成長しているから、爽やかさが倍増する。
これは重要なポイントだ。
ディーナは、カーティスの元を去るに当たり「今後は自分らしく歌って生きていく」旨を告げ、力強い歌を見せている。
美人だけど、歌は平凡だったディーナが、歌手の魂を取り戻し、秘めた実力を見せたうえで、エフィにリードボーカルを譲るから、素晴らしい。
ディーナを演じたビヨンセについては、日をあらためて、もう少しだけ書きたい。
