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「愚行録」 ゲス人間がはびこる世の現実を描く重い作品 食い物にされる光子に感情移入 他人に流されやすい私の長女の姿も重なった

愚行録

愚行録

  • 妻夫木聡
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「愚行録」

(ネタバレあり。見ていない方はご注意を)

 

とんでもないものを見てしまったというのが、見終えた後の感想。

ものすごく後味が悪い。

ゲス人間のオンパレード。

この作品は1年くらい前に見たのだけど、もう一度見たいとは思わない。

でも、深く頭に刻まれた。

ある意味、面白い作品なのだと思う。

 

それが、映画「愚行録」(2017年。原作は貫井徳郎の小説)。

エリートサラリーマンの田向浩樹、美人で何事も完璧な妻・友希恵、一人娘の一家3人。近所でも評判の良い、この田向一家の3人が惨殺される事件が起き、1年経った。事件は迷宮入りしており、主人公で週刊誌記者の田中武志が、事件の謎に迫る───というストーリー。

浩樹、友希恵の大学時代の友人、恋人たちへの取材で、2人のろくでもない素顔が暴かれていく。

 


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若干、下品な表現が混じるけど、わかりやすく言うと・・・

 

まずは、浩樹。

大学時代、やり逃げ、二股でさんざん良い思いをしながら、良い会社に入り、良い奥さんを迎えて、理想的な家庭を築きたいと抜かすゲス男だった。

学友の女子の親が経営する会社への就職を狙い、その女子をたぶらかすのも朝飯前。「幸せになるために他人を利用して何が悪いんだ」的なセリフを堂々と吐く。

 

次に、友希恵。

内部生と外部生のヒエラルキーがある有名私立大学に進学。カースト下位の外部生でありながら、美貌を生かして内部生に取り入る。

学友の恋人を奪うなんて朝飯前の策士。

さらには、主人公の妹で、おとなしく地味な学友・光子(外部生)をたぶらかし、誰にでもやらせる女に仕立てて、内部生に差し出すクズ女だった。

 

この作品はフィクションであり、エンターテイメントだから、登場人物たちのゲスぶり、クズぶりは度を外れている。

でも、浩樹や友希恵みたいに他人を踏み台にしてのし上がるタイプの人間は、現実にいるし、しかも、このタイプの人たちが良い思いをしているのが、世の現実だと思う。

そのことをあらためて、思い知らされるから、気分が重くなる。

 

私は主に政治取材に携わってきたので、他人をだまし、利用する政治の世界の恐ろしさも見てきたつもり。

このタイプの人間が起こした事件の裁判で、普通の人たちがいかにだまされ、食い物にされていくか、詳細な手口も聞いてきたつもりだ。

 

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会社員としての私の実感でも、そうだ。

弊社でも、このタイプの人たちが、上に巧みに取り入り、まわりの人を踏み台にして、のし上がるさまを見てきた。

私は記者として下っ端の頃、上のお気に入りの世渡り上手な後輩と組まされることが多かった(私は可愛げがなくて、あまり上に好かれないからだと思う)。

目立つ、おいしい仕事は全部この後輩が任され、労力がかかる地味な仕事は全部、私が受け持たされるという感じ。

いつも、この後輩と比較され、私がダメ記者扱いされるから、本当に嫌だった。

幸い、私は、心身とも強靭なことが取り柄。

そして、私ごときを可愛がってくださる奇特な先輩方がごく少数とはいえ、社内におられたので、何とか、心が折れずにやってこられた。

 

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映画「愚行録」では、一家惨殺事件の謎解きと並行して、主人公の妹・光子の問題も描かれる。

光子は、育児放棄で子どもを瀕死の状態にしたとして、勾留されている。

光子は心が壊れてしまっていた。

一家惨殺事件の謎解きの過程で、先ほど書いたように大学時代、友希恵に食い物にされてきたことなど、光子の心の傷も浮き彫りになっていく。

ちなみに、光子は子どもの頃、父親に性的虐待を受けた過酷な過去もある設定。

 

私は、光子に感情移入して見た。

私自身が、世渡り上手な人間と組まされて、嫌な思いをしてきたということもあるけども・・・

何より、私の長女の姿が重なった。

だから、光子の姿を見ていて、他人事とは思えなかった。

 

長女は、おとなしく地味で、他人についていくタイプ。

幸い、長女をうまくリードしてくれる良い友人、彼氏に恵まれているようだけど、世渡り上手な人間に利用されることも多いようだ。

他人に言われた、ささいなことでも気に病むタイプで、小学1年の頃、不登校になったこともある。

良く言えば、繊細。悪く言えば、肝が細い。

 

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映画「愚行録」では、内部生と外部生のヒエラルキーがある大学で、カースト下位の外部生として苦労する光子の姿が描かれる。

 

私の長女は、地方の国立大学の医学部を卒業して現在、研修医。

地方の国立大学とはいえ、やっぱり、医学部の学生は裕福なご家庭のお子さんが多かったようだ。

学友と買い物に行ったり、食事に行ったりするたび、庶民の子である長女にとっては付き合いが大変だったという。

着る物や食べる物がいちいち高いのだけど、学友に「あ、これ、可愛い。一緒に買おうよ」「この店、美味しいから入ろうよ」と言われると、長女の性格だと「私は買わない」「私は天一に行きたい」とは言えない(長女は天下一品のこってりラーメンが大好き)。

 

長女は幼い頃から絵を描くのが好きで、高校時代の部活動は美術部だった。

それが、大学のサークル活動は、武道系のサークルとか、地域貢献的なサークルとか4団体も入っていた。

長女なりに、新しいことに挑戦したいという前向きな思いがあったのだろう。

でも、サークル活動が長女にとっては、かなり精神的な負担になったようだ。

サークルの役員とか面倒くさい役目をよく任されていたし、遠征の時に車を出す役目もよく任されていたようだ。

私が「なんで、おまえがやらんといけんの? 断ればいいのに」と言っても、長女は「次は断る」などと言っていた。

 

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だいぶん、後になってから、妻に聞いて知るのだけど、サークルの人間関係に、長女は、かなり苦しんでいたらしい。

私は、わが子がそんなに苦しんでいたと気づかず、親として本当に情けない。

妻によると、ずっと、長女の支えになってくれたのが今、同棲している彼氏だという。

彼氏は裕福な家庭の子らしいので、付き合いが大変だろうなと思うけど、長女にとっては、大切な人のようだ。

以前、帰省した長女と外出した時に、長女が水辺にいる鳥を見ていて、種類を詳しく知っているのに、驚いた。

彼氏の趣味が野鳥観察で、長女も、ついて行くうちに詳しくなったという。

「おまえ、すぐ、他人に影響されるな〜」と言ったら、長女は笑っていた。

 

このように、私の長女は、これまでに人付き合いで苦労もしてきたけど、今のところは平穏な生活を送っているようだ。

 

一方で、映画「愚行録」の光子は、救われない。

この物語で、浩樹や友希恵の本性が暴かれる過程は、前座というか、前菜に過ぎない。

物語が進むにつれ、衝撃的な展開が続くのだけども、最後に明らかになる衝撃の事実は、せつない。

光子にとって、心の拠り所は、そこしかなかったのか、という感じだ。

後味はすごく悪いのだけども、考えさせられた。

 

<余談・松本若菜の好演>

悪役の1人、田向友希恵を演じたのは、鳥取県出身の女優・松本若菜。

本当に、意地悪な役が上手だ。

映画「愚行録」は彼女の出世作。

こやまゆかりの漫画を原作とするテレビドラマ「やんごとなき一族」(2022年)でも、主人公をいじめる兄嫁を演じ、「ドブネズミ、チューチュー」とか意地悪ぶりが最高だった。

同じ鳥取県出身者として、今後も活躍を期待する。

 


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