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「クスノキの番人」(劇場版アニメ) 相手に思いを伝え、相手の思いを推し量ることの大切さを感じた 認知症を取り上げているのも興味深い

「クスノキの番人」(劇場版アニメ)

(ネタバレあり。まだ見ていない方はご注意を)

 

相手に思いを伝えること、相手の思いを推し量ることの大切さを感じた。

物語では、さまざまな人たちが、神秘的なクスノキの穴にこもり、後に残る人に思いを巡らせ、あるいは、残った人が亡き相手に思いを巡らせる。

心を通わせようとする、この過程こそが大事なのだ。

 

そう考えさせられる場面がある。

「クスノキの番人」である主人公は、亡き父の念が受け取れないと悩む和菓子メーカーの跡取り息子に、助言する。

「あなたには父の思いがわかっているはず。念を受け取ったことにすれば、いい」と。

そして、跡取り息子は、父の思いを推し量って決断する。

 

公開されたばかりの劇場版アニメ「クスノキの番人」を見た。

東野圭吾の小説が原作(未読)。

 


www.youtube.com

 

主人公・玲斗の前に、亡き母の姉だという大企業グループの経営者・千舟が現れ、不思議なクスノキの番人をしてほしいと頼まれて、物語が転がり始める。

神社にある巨大なクスノキは、根元に大きな穴がある。時折、「祈念者」が訪れて夜間にクスノキの穴にこもり、何やら願っていく。

他の者が祈念を見たり聞いたりしてはいけない。

訪れる祈念者たちは一体、何を願っているのか。そして、願いを叶えるとされるクスノキが秘める本当の力とは───

 

序盤で示される、この謎に惹きつけられ、物語の世界に引き込まれた。

神木のクスノキにこもって念じるという仕掛けが面白い。

教会の懺悔室が思い浮かんだ。

懺悔室は、悪事と反省の念を吐露する場なのだけど、このクスノキは、もっと、すごい。

まず、言葉だけにとどまらず、感情も、見聞きした光景や音声といった体験も、クスノキに預けられる。これが「預念」。

そして、血縁関係にある者が預念を受け取ることができる。これが「受念」。

クスノキのこの力がロマンチック。

亡き人とも心を通わせられるというアイデアが面白い。

本当にあるといいなと思う。

 

漫画「ミステリと言う勿れ」(田村由美)に登場する漂流郵便局を思い出した。

漂流郵便局は、香川県三豊市に実在し、過去でも現在でも未来でも、いつかどこかの誰かに宛てた手紙(ハガキ)を受け付け、展示しているらしい。

 

www.mitoyo-kanko.com

 

この漫画には出てこないけど・・・

松江市にある黄泉比良坂(神話の黄泉の国の入り口)には、亡くなった人に宛てた「天国への手紙」を受け付けるポストがあるらしい。

 

www.kankou-shimane.com

 

漂流郵便局も、黄泉比良坂のポストも、面白いけど・・・

「クスノキの番人」のクスノキは、言葉どころか、感情や体験を預けたり、受け取ったりできるから、これは本当にすごい。

故人の預念を受け取って、故人が作った曲を再現する話も、この物語には出てくる。

 

物語終盤、千舟の預念を受け取った玲斗の心に、亡き母とその腕に抱かれた幼い自分の姿が飛び込んでくる。

亡き母を思い出した玲斗は、涙する。

この場面が映像を含めて、とても良かった。

クスノキの神秘的な描写といい、これはアニメならでは。

 

この場面のインパクトが強すぎて、ラストをよく覚えていない。

千舟が実は認知症だった、という話があったのは覚えている。

だから、手帳が手放せなかったのだ、と。

ちなみに、千舟は最初登場した時から、漫画「ガラスの仮面」(美内すずえ)の月影千草に似ているなと思って、見ていた。

一緒に見た妻も、そう言っていた。

あと、妻は、千舟の声を演じた天海祐希にも感銘を受けたようだ。

 

ガラスの仮面 41

ガラスの仮面 41

Amazon

 

認知症を取り上げているというのは、これまた、興味深い。

認知症の患者にとって、記憶が失われる不安は、ひいては、自分という人間の存在がなくなってしまうという大きな不安に結びつくから、大変な不安だ。

このクスノキがあれば、認知症患者は、今の自分の心情や記憶を預けられる。

 

十数年前、認知症をテーマに連載企画を担当して、認知症の夫を在宅介護する高齢の女性を取材したことを思い出した。

夫の認知症が進行していった様子も、詳しく聞かせてもらった。

夫はもともと几帳面な性格で、家計簿を付けていたという。

その家計簿も見せてもらった。

日を追うにつれ、漢字が書けなくなって、カタカナで記されるようになり、ある時、ついに途切れていた。

夫の手帳も見せてもらった。

最後のほうは、自分や妻の名前がカタカナで、いくつも書いてあった。

「自分の人格を失いたくない」という心の叫びに感じられて、私は、涙が出た。

 

話を元に戻す。

 

ラストをよく覚えていないので、原作をAmazonで買って、ラストのあたりだけ読んでみた。

これが、すごく良い感じ。

 

 

千舟のセリフのあたりから、以下に、引用してみる。

 

「あなたに尋ねます。私は、もう少し生きていてもいいのかしら。その価値があるのでしょうか」

何と答えていいか、わからなかった。もどかしさから、右手の拳を強く振った。

「今の俺の気持ちを預念したいです。言葉になんてできない。クスノキを通じて、千舟さんに伝えたい」

「ありがとう。でも、クスノキの力なんて不要です。今、初めて知りました。こうして向き合っているだけで、伝わってくるものもあるのですね」

千舟が右手を差し出してきた。その痩せた手を玲斗は両手で包み込んだ。

彼女の思いが──念が伝わってくるような気がした。

(以上、原作「クスノキの番人」より引用)

 

原作をちゃんと読んでから、劇場版アニメを見たら、もっと、いろいろとわかって面白いだろうなと感じた。

 

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