人気漫画「鬼滅の刃」(吾峠呼世晴)は、何年にもわたって、テレビアニメと劇場版アニメに分けながら、原作漫画の内容に忠実な映像化が続けられている(まだ途中)。
テレビアニメ「竈門炭治郎 立志編」(2019年)、劇場版アニメ「無限列車編」(2020年)、テレビアニメ「遊郭編」(2021~22年)、「刀鍛冶の里編」(2023年)、「柱稽古編」(2024年)、劇場版アニメ「無限城編 第一章 猗窩座再来」(2025年)という風に。
昔だったら、考えられない手法だ。
このやり方なら、制作者は、映像の強みを生かして、原作漫画の世界をより鮮やかに描くということに注力できる。
「原作漫画に忠実に映像化されたものを見たい」という時代のニーズなのだろうか。
昔の劇場版アニメ化作品には、原作漫画の世界を鮮やかに描きつつ、映画の上映時間に収まるように、内容をうまく要約した傑作がある。
たとえば、押井守が監督した「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」(1995年)、宮崎駿が監督した「風の谷のナウシカ」(1984年)は、好例だと思う。
要約のうまさ、そして、難しさについて、考えてみたい。
(詳しくは、リンク先の各記事へ)
「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」
漫画家・士郎正宗の「攻殻機動隊」が原作。
原作漫画は、ストーリーが散漫で、おちゃらけたところもある。
押井守の劇場版アニメは、謎のハッカー「人形使い」を追うスト-リーに絞り、おちゃらけを排除し、「そもそも私は本当にいるのだろうか」という哲学的なテーマを柱に据えて、ハードな世界観を際立たせた。
ここが素晴らしい。
原作漫画は、主人公・草薙素子の可愛らしい顔立ちとお転婆で奔放なキャラクターが好きだけども・・・
ハードな世界観には、合わない。
押井の劇場版アニメが、素子をクールでシリアスなキャラクターに変えたのも、良い判断だったと思う。
「さて、どこへ行こうかしらね。ネットは広大だわ」と、素子がつぶやくラストシーンも、原作漫画と劇場版アニメでは、印象が全く違ってくるのが、面白い。
私は、劇場版アニメのほうが好み。
劇場版アニメを先に見てから、原作漫画を読んだのだけども、もし、原作漫画を先に見ていたら、劇場版アニメを見ようと思わなかったかもしれない。

「風の谷のナウシカ」
宮崎駿が原作漫画「風の谷のナウシカ」を描いている。
原作漫画はストーリーが複雑(劇場版アニメ制作時には、原作漫画はまだ途中までしか描かれていなかったらしいけど)。
劇場版アニメは、原作漫画の細かい設定を省いて、「小国・風の谷の姫で主人公のナウシカが、大国トルメキアに毅然とした態度を見せ、暴れる蟲たち(自然の象徴)をなだめて、みんなの危機を救う」という英雄譚に、すっきりとまとめた。
ここが秀逸だ。
残念なのは、トルメキアの姫クシャナの扱われ方が粗末なこと。
ただの悪役になっている。
私は、先に劇場版アニメを見て、後で原作漫画を読んだのだけども・・・
劇場版アニメを見た時点で、くそ真面目な正義漢のナウシカよりも、クールで陰のあるクシャナに惹かれた。
原作漫画は、なぜ、クシャナがクールで陰のある性格になったのかも、掘り下げる。
配下の将兵に慕われる姿も描かれる。
対立する王らの策略で無駄死にさせられた配下の将兵を悼んで、髪を切り、たむけるシーンが原作漫画で一番好き。
「そなたたちの無念忘れぬぞ。受け取れ。たむけだ」と。
これは、グッとくる。
原作漫画は、ナウシカとクシャナという対照的な2人の姫の生きざまが物語の核心。
(「ジョジョの奇妙な冒険」のジョナサンとディオ、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のルイとレスタトみたいに)。
ところが、劇場版アニメは、ナウシカ1人の物語にしてしまった。
これは、映画の尺の問題なのだろう。
要約の限界というか、難しさを感じさせる事例だ。
ストーリーがわかりやすいのは、劇場版アニメ。
クシャナの凛々しい場面「焼き払え」「なぎ払え」は大好きだし、原作漫画とどっちが好みかと言われれば、劇場版アニメだけども・・・
クシャナの魅力を味わうなら、原作漫画だ。

(以下の記事「風の谷のナウシカ」は劇場版アニメにも言及)
「岸辺露伴は動かない 懺悔室」
劇場版アニメではなく、実写映画だけども・・・
映像化の失敗例として、映画「岸辺露伴は動かない 懺悔室」(2025年)を挙げておく。
私は先に、漫画家・荒木飛呂彦の原作を読んだ。
原作漫画は「岸辺露伴は動かない」シリーズの短編作品。
ごく簡単に言うと・・・
「幸福の絶頂の時に絶望を味わう」という呪いをかけられた男の物語。
映画版は、この短編を映画の尺に合わせるために無理やり水増ししたうえ、原作漫画の味わいをすっかり損ねてしまった。
映画版は「幸福の絶頂の時に絶望を味わう」という呪いに、とらわれすぎだ。
原作の漫画では、この呪いは物語の演出にすぎない。
目を向けるべきは、そこではない。
「人間のたくましさ、したたかさ」という原作漫画のメッセージだろう。
そこが私は好きなのに・・・
珠玉の人間讃歌が、映画版では、薄っぺらなホラーになってしまった。
映画版は、親子2代にわたる物語にして水増しした。
水増しするなら、男が新たにかけられた呪いをどう切り抜けるかを描くべきだった。

<おまけリンク>
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