パコ・デ・ルシア「アルモライマ」
Paco De Lucia 「Almoraima」
フラメンコギター奏者のパコ・デ・ルシアは「右手に伝統、左手に革新」が信条だった。
伝統的な演奏の第一人者でありながら、ジャズミュージシャンと共演したり、バンド演奏の形態を取り入れたりと、従来の枠を越えてフラメンコの音楽的可能性を追求し、ファンの裾野を広げた。
代表曲のひとつ「アルモライマ」(1976年発表の同名アルバム収録)では、ギターのほか、アラブの弦楽器ウードを奏でる。この音色がエキゾチック。手拍子、足拍子が加わって、フラメンコ感もたっぷりだ。
イスラム文化の音楽は、フラメンコの源流のひとつ。
フラメンコの古里・スペイン南部のアンダルシア地方は、イスラム王朝に支配された歴史があり、イスラム文化の名残を残す(アルハンブラ宮殿とか)。
そこに、インド北部が起源とされる放浪民族(いわゆる、ジプシー)がやってきて、文化の交流が起きる中で、フラメンコが生まれたと考えられている。
もともとは、ジプシーがもたらした歌と手拍子のみだったところに、ギターが加わった。
ギターは、スペインで生まれた楽器。ペルシャ発祥の弦楽器がアラブを経て伝わり、ギターの原型になった(ペルシャの弦楽器は中国にも伝わり、琵琶が生まれた)。
・・・だったかな?
いわば、アルモライマは、フラメンコの源流を訪ねる旅なのだ。
ちなみに、パコの盟友のフラメンコ歌手カマロン・デ・ラ・イスラは、もうひとつの源流、インド音楽にアプローチした。
「ナナ・デル・カバジョ・グランデ」(カマロンの1979年のアルバム「ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ」に収録)という曲で、インドの弦楽器シタールに歌を合わせている。
2人が示し合わせたのかどうかはわからないが、このへんの息の合いようが面白い。
幼い頃から父にしごかれて猛練習を積み「ギターの天才少年」と注目されたパコは、確か12~13歳くらいでプロになった。
カマロンと出会って、伝統的なフラメンコのアルバムをいくつか共同制作。
その後、革新的な曲「二筋の川」(1973年の同名のアルバムに収録)をヒットさせ、それまでスペイン国内でも「一地方のローカル音楽」としか見られていなかったフラメンコの魅力を国内外に発信した。
「二筋の川」は、キューバの太鼓ボンゴやエレキベースと共演する。
ボンゴの♪カンカン…と乾いた硬質な音が面白い。パコの前のめりな演奏がさえる。特に終盤の速弾きがいい。個人的には、「アルモライマ」のほうが好みだが、「二筋の川」も傑作だ。
以下、余談だが、、、
「二筋の川」は、キューバ音楽を取り入れた「ルンバフラメンカ」という形式の曲(フラメンコの形式については後述)。それまで、フラメンコの形式の中でも、異端とみられてきたが、「二筋の川」のヒットで、人気の形式となった。
ルンバフラメンカをもとに、フランス南部のジプシーが独自に発展させた音楽が、ジプシーキングスの音楽の土台にある。ジプシーキングスについては、あらためて紹介したい。
<フラメンコの形式について>
フラメンコはリズムを重視する音楽で、リズムには「形式」と呼ばれる種類がいくつかある。だから、フラメンコの歌手とダンサーとギター奏者は「○○形式」と言えば、ピタリと息を合わせられる。
リズムは、手拍子(歌手が担当)、足拍子(ダンサーが担当)が刻む。ギター奏者は、その形式のリズムに乗りながら、個々に工夫したフレーズを奏でる。
フラメンコがリズムを重視する音楽だというのは、例えば、パコの曲「セパ・アンダルーサ」(アルバム「二筋の川」に収録)を聴くと、わかりやすいと思う。
この曲は、速くて最もフラメンコらしい「ブレリアス」という形式で、ずっと、手拍子でリズムを刻んでいる。この手拍子がまた、かっこいい。